ようこそ、私の城へ

---- やっと、やっと、来た…。


 今日から、ここが私の家。

 高台のひと際大きな家、お城のような家。

 やった、やったんだ ! ついに、やった!!を。これが、お婆ちゃんが言ってた、ショウオイなんだ。

 どう、ママもお婆ちゃんもこの笑顔。それもこれも、みんな、私が頑張ったからじゃない。

 すごい、私。いくらほめても、ほめ足りない。

 そりゃ、元はママだし、金はお婆ちゃんだけど。最後、キメたのは誰あろう、この私だから!!



 あれは、美加ママの初盆の日。


「いいぃ。今日は、必要以外しゃべらないこと。何か聞かれても、受け答えは最小限に。わかった ! 」

「わかった。わかりましたっ」


 何と、今日はタクシーだった。暑い中歩かなくても済むのは助かる。やっぱり、車は楽ちんでいいわ。

 この前来た時は、まだ、工事が終わってなかったけど、今は外観もきれいになって、美加が出迎えてくれた。そして、玄関を入れば、まずシャンデリアが目に飛び込んで来た。これが夜になれば灯りが点く…。

 もうすぐ、ここで暮らせるんだ。ここが私の家になるんだと思えば、思わず口元が緩みそうになり、またしても、お婆ちゃんに睨まれてしまう。

 そうだった。今日は、美加ママの初盆だった。

 大きな仏壇がある部屋に、数人の大人たちがいたのを見た時は、さすがに緊張した。


「おや、こちらは?」

「はい、実は…」


 と、パパが言いかけた時、お坊さんが来たと美加が言った。それから、お経が始まり、やっと終わったかと思えば、何かよくわからない話をして、お坊さんは帰って行った。

 さっきから読経中も、ちらちらと私たちの方を見ていた叔母さんがパパの妹だった。


「それで、こちらは」

「実は、婚約予定の」

「婚約!!はぁ~もう婚約とは…。いくら、何でも早すぎるのでは。これでは亡くなったお義姉さんがかわいそう。何より、お義兄さんに申しわけなくて。まあ、お義兄さん、すみませんねえ。いえ、私たちも今知ったような訳でして、驚いてますのよ」


 このお義兄さんとは、美加ママの兄の事だった。ここにいるは、パパの妹夫婦と息子二人。美加ママの兄夫婦と息子と娘。


「そうですか…。随分大きな娘さんがいらっしゃるのですね」

「えっ、いえ、あの、私ではなくて。娘の真紀の方です」


 どうやら、お婆ちゃんを婚約相手と間違えたようだ。


「では、そちらは」

「あの、真紀の娘、孫の利恵です。さっ、ご挨拶なさい」

「あ、はい、利恵です」

「はあ、これは随分とお若いお婆様で」

「それで、どこでお知り合いに」


 美加叔母が言った。


「実は、美加とこちらの利恵さんが同じ塾に通ってまして…」


 えっ、私と美加がキッカケで知り合った!!

 はぁ、よく考えたもんだわ…。


「それで、どこの高校」

「いえ、まだ中学三年生で、来年受験です」


 ママが答えた。


「あ、そ」


 美加叔母は今度は露骨にそっぽを向いたかと思えば、またしても、私たちを睨みつけた。


「それで、美加は」

「美加も賛成してくれてますが、そのぅ、まだ、婚約するかどうかの段階でして…」

「えっ、そんな人を初盆に呼んだの」

「私がお呼びしたのです」


 これは、ナイスフォロー。やるじゃない、美加。おそらく、これで、婚約。いや、結婚も決定的になりそう。いや、なってもらわなくちゃ困る。

 絶対、そうしなきゃ!!


 


 既にママは仕事を辞めていた。そして、お婆ちゃんと二人、話をしていたかと思えば出かけて行き、お婆ちゃんの残りの荷物も持って来た。

 そうだった。私とママがあの家に行ってしまえば、お婆ちゃんはここに一人で住むんだ。ジジイに入り込まれなきゃいいけど。


「必要なものだけ持って行くのよ」


 ある日、私もさせられた。


「えっ、もう、あの家に住めるの?」

「そうよ」

「て、ことは、ママ、いつ結婚するの」

「次の大安にね」

「大安っていつ?」

「一週間後だから、さっさとしなさい」

「一週間後って、そんなのいつ決まったのよ」

「この間の初盆の後」


 初盆の時の婚約するのしないのって話は、であることくらい、私にもわかる。それが、もう結婚とは。まあ、それが本来の目的であり、早いに越したことはないけど…。


「それなら、そうと言ってよ」

「あんまり早く言って、勉強が手に付かなくなったら、大変じゃない」


 そんなことないったら…。

 

 いよいよ、引越し、いや、ママと私の入籍当日。もうすぐ引っ越し用の軽トラがやって来ると言うのに、ママはどこかへ行ってしまい、荷物を積んだ軽トラが出て行ったかと思えば、新しい車がやって来た。


「利恵、早く乗りなさい」


 えっ、ママ、車、買ったの…。


「わあ、ママ、すごいじゃない」


 私が助手席に乗り込むと、車はすぐに発進した。


「あっ、そう言えば、お婆ちゃんに挨拶してなかった。今頃、お婆ちゃん怒ってるだろうなぁ。まっ、近いから、いいか」


 どうせ、すぐに様子を見に来るだろう。それより、これからは車のある暮らしなんだ…。

 引っ越しの荷物も段ボール箱がほとんど。それでも結構重いし、私と美加の部屋は二階、ママたちの部屋は三階なんだけど、幾つかは一階の部屋に運んでいた。

 その時の私は、自分の部屋が持てたことが嬉しくて仕方なかった。新しい机、今までは布団だったけど、これからはベッド。早速に寝転んでみた。

 でも、いつの間に揃えたんだろう。今さら文句を言うつもりはないが、出来るなら私も買い物に参加したかった。その時、美加が呼びに来た。何かと思い玄関に行けば、そこにいたのは、お婆ちゃんだった。手にはママが働いていた洋菓子店のケーキの箱を持っていた。


「お世話になります」

「お婆ちゃん、早く上がって」


 と、美加がケーキの箱を受け取り、二人して台所へ。

 テーブルにケーキがセットされ、美加からクラッカーが渡された。そして、ドラマで聞いたことのある、あの「パパパパーン」と言う結婚式の曲が流れた。

 えっ、これはひょっとして、と思う間もなく、パパと白いドレスのママが階段を下りて来た。ここで、美加とともに、クラッカーを鳴らす。


「おめでとうございます ! 」


 そして、ケーキ入刀。婚姻届けにサイン。さらに、私はパパと、美加はママと養子縁組。

 

これで、私は、高良利恵から「安藤利恵」になった。



 パパとママはその紙を市役所に提出してから、新婚旅行へ。新婚旅行と言っても、近場の温泉地へ二泊三日と言うものだった。二人を見送った後、ふと見ればママの車の側にバイクが置いてあった。


「えっ、お婆ちゃんもバイク買ったんだ」

「そうよ、この坂道じゃ買い物も大変だから」


 この坂道…。


「そうだ、利恵にはまだ、言ってなかったっけ。私もここで一緒に暮らすことになったの」

「えっ、それって」

「真紀はホテルの仕事があるから、私が家事やることになったの」

「じゃあ、あのアパートは」

「引き払ったし、不用品も処分して来た」

「そう…」

「おや、あまり嬉しくないみたいね」

「そんなことないよ。ただ、ちょっとびっくりしただけ」


 実は、お婆ちゃんがいるから、後で取りに来てもいいかと置いて来たものもあったのに…。


「さあ、それじゃ、私たちも出かけますか」

「どこへ」

「三人で食事に行くの。今日はおめでたい日だから」


 それは嬉しいけど、今度は車ではなかった。どうせなら、お婆ちゃんも普通免許持ってるし、ママの車もあるのにと思ったが、美加とお婆ちゃんはずんずん坂道を降りて行く。


「利恵、こっちよ」


 坂道の途中で、お婆ちゃんが言った。見れば、そこには一人用の細い石段があった。ここを降りれば、バス停に近いと言う。それにしても、住宅地にこんな狭い石段があるとは意外だった。

 元は、石垣の上にある家のための石段だったんだとか。それが宅地造成で道が広くなり、そのまま通路のようになってしまった。それでも、手すりがないので、小さな子供や年寄りはあまり利用しないそうだ。

 確かに石段を降りれば、バス停はすぐだった。そして、都合よくバスが来たので、そのまま乗り、着いた先は、回転すしだった。

 もう、私は食べまくった。それも値段の高いのばかり。さすが、今日のお婆ちゃんは何も言わなかった。ママの結婚と言う念願が叶っただけでなく、自分も一緒に住めることが嬉しくてならないようで、美加にべったり。

 

 でも、何か、んだよね。何か…。


 その夜、初めての場所と言うこともあり、なかなか寝付けなかった。やっと、うとうとしたかと思えば、もう、朝だった。  

 

「オヤ、利恵にしては珍しく早く起きたじゃない。これからも早く起きるのよ。さあ、早く顔洗って」


 夏休みなのに、そんなに急かさなくても。でも、美加はお婆ちゃんと朝ご飯の用意をしていた。


「いいこと。これからは朝晩、仏壇にお参りするのよ。わかったわね」


 ええっ、朝晩毎日…。

 これで、もう、美加への朝夕のLINEから解放されると喜んだのも、チョンの間、いや、束の間。今度は仏壇参りとは。まっ、仕方ないか。美加ママが早く死んでくれたお陰だもんね。

 そんなの後、朝ご飯。そして、美加は部活。私とお婆ちゃんは荷物の片付け。それが終わると、すべての部屋と庭も見て回った。


 そして、ママたちも帰って来た。


「これ、で食べておいしかったから、買って来たの」


 それは、ロールケーキだった。早速に切り分けられ、私の前にも皿が置かれたけど、食べたくない。

 美加ママの死を知らされ、動揺した時、ロールケーキの一気食いをした。あれから見るのも嫌ってことはないけど、食べる気にならない。

 

 寄りによって、何で、このタイミングで、ロールケーキなのよ…。









  

  

   


 





 










 





 


 



 

 

  















 

 












 


 


  

































 










 








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