ママ、玉の輿作戦 二

 今日から、冬休み。いや、塾の始まり。いやいや、ママ、玉の輿作戦作戦の始まり始まり。


「いいこと、最初から鵜の目鷹の目で、美加って子、探すんじゃないよ。何より、勉強が一番なんだからね」

「わかってるって。魚の目なんか出来てないから」

「魚の目じゃなくて、鵜の目鷹の目 ! もう、こんなことも知らないんだからっ」


 そして、いざ塾へ。初日と言うこともあり、お婆ちゃんと一緒に面談。でもさ、別に、この先生に限ったことじゃないけど、みんなお婆ちゃんを「お母さん」と呼ぶ。


「あの、今の人、ママではなくて、お婆ちゃんですから」


 と、お婆ちゃんが帰った後で、先生に言っといたけど、完全にスルーされた。まあ、お婆ちゃんと言っても、歳も五十くらいで、それも若く見えるらしく、ママに見られてしまう。どっちにしても、中学生から見れば、五十も六十も大した変わりはないけどね。


 それで、授業の方は個別指導って言うから、マンツーマンかと思ってたら、そうではなかった。私の他に四人いた。まあ、人のこと言うけど、どれも、頭の悪そうなのばっか。つまり、ここにもあった底辺クラス。でも、先生は思ったほど厳しくなく、これなら何とかやれそうな気がした。

 

 で、帰りに早速、美加を発見。これはもう、カン !

  後ろ姿だけど、すぐにわかった。アニメによく出て来る地味学生まんまのポニーテール。素の顔も見てやりたかったけど、さすがにそれは止めた。 


「美加、見たよ」

「えっ、もう?」

「すぐにわかった。大丈夫、何もしてないから」

「それで、勉強の方は」

「うん、何とかなりそう」

----それは、初日だから。

「そう、じゃ、今日の復習と予習もするのよ」

----やれやれ…。もう、美加の方が楽しみ。明日はちょっとだけ、近寄ってみるか。


 次の日は、美加に会えなかった。だが、ついに、チャンスはやって来た。美加の後ろ姿を発見した私は、小走りでちょっと当たった拍子に持っていた冊子を落とした。


「わあ、お姉さん。ありがとうございます」


 と、冊子を拾ってくれた美加ににこやかにお礼を言った。美加は何でもないように、去って行った。

 まあ、今日のところは、これくらいにしといてやるか。


 あくる日は早めに行き、美加を待っていた。美加はちょっと驚いたような顔をしていたけど、誰でも、お姉さんお姉さんと悪い気はしない。何としても、今年中に美加とLINE交換しなくっちゃ。

 実は、ホテルのおじさんには一度だけ会ったことがある。今、こうして美加の顔をよく見たら、おじさんに似てない。おじさんに似れば、少しはかわいかったかもしれないのに。もっとも、私もママに似れば良かった…。


「これ、クリスマスとお年玉の分だからね」


 と、お婆ちゃんがスマホを買ってくれ、クリスマスはケンタッキーのチキンとママの店の売れ残りケーキを食べながら思ったものだ。

 

----明日こそは、美加のLINEゲツト !


「お姉さん。あのぅ、LINE、交換してもらってもいいですかぁ。私、一人っ子で、うち、母子家庭なもんですから。そのぅ…」


 美加は一瞬戸惑ったような顔をしていたけど、自分も一人っ子だと言いながら、LINE交換してくれた。

 やった。ついに、LINEゲツトしたと、喜んだも束の間。授業はめちゃめちゃ、厳しくなっていた。


----ヤバイ、復習しなくちゃ、ダメみたい…。


 それより、早速に美加にお休みのLINEを送れば、返事があり、また、返事して…。


----ああ、忙しっ。


 と、まあ、私はこんなに頑張ってんだけど、ママとお婆ちゃんはどうなのさ。


 お婆ちゃんは昼間はスーパーのレジ打ちパート。帰れば、掃除洗濯ご飯作ってくれるから、その分、私としては助かってるけど、あのジジイは、パート上がりのお婆ちゃんを待ち伏せ。それで、その言い草が「意地張ってないで、帰って来い」だってさ。お婆ちゃんは、近いうちに自分の荷物全部持ち出すと言っていた。その時は、私も手伝うから。


 で、肝心のママはどうなってんの。

 ママが帰って来たら、勉強してる振りして、聞き耳立ててる。

 ママもお婆ちゃんも年末は31日まで仕事だけど、何と、ママはそれからおじさんと一緒。さすがに、奥さん入院してて遠くへは行けない。また、いくら何でも、娘の隣の部屋でって訳にも…。

 で、どこか近場へトンずら。これは失礼、遊ぶ、じゃなかった。あそばすとか。ママも頑張ってんじゃない。


 美加の家は別にあるけど、中学生一人置いておくのは心配と言うことで、ここの所ホテルから学校、塾に通っている。何より、病院も近い。


----いいなぁ。私もホテル暮らししてみたい。


 でも、クリスマスにお正月。ホテルで一人と言うのも、ちょっとかわいそうな気もする…。

 ここは、私の出番。電話やLINEで色々話をしよう。


「ええ、ママは元旦からで、お婆ちゃんは2日からこちらも仕事なんです。お姉さんの方は」


 えっ、なに、なにぃ。何と、美加はクリスマスも、また正月も、友達の家で過ごすんだとさ。それも、楽しそうに話してから…。

 何だ、心配して、損した。

 お婆ちゃんじゃないけど、美加に対しては、私も少しは後ろめたい気持ちもあったけど、そんなの、すぐに消し飛んだ。


----こうなったら、あのおばさん、早く、死んでくれないかな。そしたら、弾みも付くってもんじゃない。ああ、後のことは心配いらないから。美加のことは、私とママでちゃんとしてあげるから。


 早く、来年になれっ !












  










 

 











 







 

 

 

 

  


 


 










 

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