もう元には戻れない

黒百合咲夜

二つの世界

 君との出会いで、温かさを知った。人の温もりの良さを知った。

 冷たい世界で生きてきた僕にとって、その温もりは初めてのものだった。


 君との出会いで、光を知った。眩い世界の良さを知った。

 どこまでも深い闇の世界で生きてきた僕にとって、その光はあまりにも眩しかった。


 君が、君たちが僕を光の世界に連れ出してくれたんだ。君たちと出会うことで、僕は居心地の良さを知ることができたんだ。

 楽しい思い出をたくさんもらった。君たちと過ごす時間の素晴らしさを教えてもらった。

 人の輪に加わる。そうして生まれる優しい熱は、大きな太陽となって僕の心を明るく照らしてくれたんだ。


 でも。

 その優しさと温かさに、少しばかり身を浸しすぎたみたいだ。忘れてはいけないことをすっかりと忘れてしまっていた。

 出会いがあるなら、別れもある。永遠など何一つとして存在しない。

 永遠を誓っても、ある日理不尽な理由や時の流れで誓いは崩れ去ってしまう。

 その別れが辛いから、誰とも深く関わろうとしなかったというのに。それなのに、どうして僕は住む世界を変えてしまったのだろう。


 もう、元の僕には戻れない。元に戻るには、少しばかり遅すぎたみたいだ。


 人の温もりを知ってしまった。誰もいない冷たさが恐ろしくなった。


 眩い光を知ってしまった。何も見えない闇が怖くなった。


 誰もいない。誰も立ち入ってこない。

 そんな、自分だけの冷たい闇の世界こそが、僕が出した答えだったはずなのに。その答えが揺らいでいくのがはっきりと分かる。


 これ以上僕が傷つく前に、この関係は終わりにしなければ。でも、君たちと別れた先の未来を想像できなくなるほど、今の世界は美しかった。

 本当は離れたくない。離れてほしくない。隣とまでは言わないから、手の届く範囲で笑っていてほしい。


 もし。

 もしも、君たちと出会いさえしなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。ここまで恐怖を感じることなどなかったのだろうか。


 やはり、僕に光の世界は相応しくなかったみたいだ。一人過ごす闇こそが僕の住処みたいだ。

 でも、その闇に戻ることがたまらなく恐ろしい。当たり前を当たり前と受け止められなくなっている。


 光と闇。どちらにも戻れなくなった僕は、一体どこへ向かえば良いのだろう。

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