14話あたりです

「よっしゃぁぁぁ!!」

「よかったぁ……」

 アドニが勝利の歓声を上げ、アメリアが安堵の息を漏らす。セアンは———セアンの姿が見えない。もしや、先刻の

激流に巻き込まれたか。もしくは火竜が最後の力で一撃を放ったか。どちらにせよ只事ではない。

「セアン! いるわよね! 返事しなさい!」

 返事に呼応するかのように、地面から片腕が上がる。上がった腕の下を見やると、寝そべったセアンの姿が目に入る。とりあえず、命に関わるほどではなさそうだ。

「……大丈夫?」

「人生で初めて”消耗した”って感じだよ。大して活躍できなかったけどね」

 自らを嘲りながら言う彼だが、とりあえず大事には至ってないようだ。MPを大量に使う経験は初めてだったためか、消耗が激しかったのだろう。

「あんたは私を助けたんだから、誇りに思っていいのよ。ほら、起きなさい」

 セアンが立ち上がるのに手を貸す。実際、今回の戦闘は彼がいなければ厳しかっただろう。

「こちらこそ、ルイス様がいないと無職だからね。助かってるよ」

「にしてもルイスのあの魔法、凄かったな!」

 アドニが感嘆を伝えてくれる。あれも自分だけのMPでは成し得なかった大魔法だ。

「アドニ、傷だらけじゃん! もっと気をつけてよ!」

 駆け寄ってきたアメリアがアドニの体を見て驚く。回復魔法をかけられたアドニは、体の傷がみるみる治っていく。

「さ、あとは帰るだけかしら。いいチームワークだったわね」

 完全に勝利の美酒に酔っていた、その時だった。


「!?」


 先刻までとは次元が違う、明らかに強力なものがいると、肌で感じ取った。

「ルイス、また火竜か?」

 アドニがこちらに耳打ちする。覇気を感じ取ったのは自分だけではないようだ。

「いえ、これは……」

 もっと別の、もっと異質な何か。力の出どころは、上だ。火口に近い、唯一入口以外で外と通じる穴。

「——————凄まじい大魔法、見させていただいた」

 声が聞こえると同時に、上から人影が降り立つ。


 そこにいたのは、全身を黒い装束に身を包んだ狼の獣人だった。


「あら、見られてたのね。どう? すごかったでしょう」

 つまり、戦闘が終わるまで存在を秘匿し続けていたということだ。計り知れない力の持ち主。何が目的か分からない状態で、下手に刺激するのは悪手だろう。

「あれほどの魔法の腕前、恐れ入った。そこの黒髪の青年、名を何という?」

 即座にセアンがチームの要であることを見抜いた。やはり相当な実力者だ。

「俺? 俺はただのアイディオ・セアンだけど……あなたは?」

 しかし、なぜかこの男が纏う雰囲気に既視感を覚える。誰か、自分に近しいものと似た雰囲気——————


「死者への手向けに教えておこう。我々はエル・ドラド、理想郷を夢見る愚か者の集いだ」

 死者への手向けと、そう言い放ち獣人はロングナイフを抜く。


「もしかしなくても、私たちを殺すつもりかしら? できれば遠慮して欲しいのだけど」

 こちらに覇気を向けた時点で予想していたが、交戦するつもりだ。今ここで戦うのは非常にまずい。全員が消耗している中、勝てる相手ではない。

「若き才能に手をかけるのは気が引けるが、其方らの力は、決して色褪せないだろう———エル・ドラドに誓って」

 声と共に、人狼が視界から消える。どうする、どうする—————————

「シッ!」

 後方から、刃がぶつかり合う音が聞こえる。見れば、アドニが知覚外からの攻撃を防いでいた。

「ほう。見くびっていたが、なかなかの腕前だ」

 一度攻撃のために姿を表したかと思えば、すぐに消える。ただ、逃げるなら今のうちだ。

「合図したらすぐに逃げるわよ。セアン、もう少し借りるわね」

 全員にギリギリ聞こえる程度の声量で耳打ちし、右手に魔法を構築していく。

「今よ!」

 魔法を展開すると、青い光が瞬き、周囲に濃霧が広がる。あとは、一心不乱に逃げるだけだ。

「素晴らしい……」

 洞窟を後にするその時に不穏な一言が聞こえたこと以外は、完璧な作戦だった。

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