12話あたりです

『フエーゴ火山にて、低級火竜の討伐 報酬:Bランク冒険者への昇格 条件:4人以上のパーティを組むこと』

 水竜のステーキを平らげ、クエストの掲示板を見る。ネックなのは、仲間をもう2人見繕う必要があることか。

「4人以上のパーティって……どうするつもりなの? ルイス様」

「そのための酒場じゃないの。さ、ぱぱっと拾っちゃいましょう」


※   ※


「俺はアドニ、戦士としてCランクをそこそこやってたんだ。そんで、そこのヒョロイのがアメリアな」

 茶髪の少年が、横にいる華奢な少女を指し示す。

「アメリアです、よろしくお願いします。聖職者をやっていました」

 深々と礼をした銀髪の少女は、修道服に身を包んでいる。服装と所作から、礼儀正しい印象を受ける。

「じゃあ、こっちの番ね。私はルイスよ、魔法使いデビューしたてなの。よろしく頼むわ」

「俺はセアンです、同じく魔法使いさせてもらってました」

 全員が軽い自己紹介を終えると、アドニが話を始める。

「あんたら、魔法使い二人でやってたのか!? それにデビューしたてって……大丈夫か?」

「心配には及ばないわ。むしろ、私たち二人を捕まえられたのは幸運とまで言えるわね」

「ほんとかよ……」

 怪訝そうに言うアドニだが、あいにく事実だ。Cランク程度ならトップレベルの実力だという自負はある。

「そんなに疑うなら、手合わせしたっていいのよ? ねぇセアン」

 顔合わせついでに決闘をしまいという空気に気乗りしなさそうなセアンに声をかけてみる。

「はぁ……ルイス様の仰せの通りに」

 明らかに乗り気ではないことが返ってくる。

「手合わせだなんて、危ないですよ! 怪我したらどうするんですか!」

 突如、おどおどとしていたアメリアが声を上げる。ただ、アドニには届いていないようだ。

「いや、やろうぜ。裏の物置なら邪魔も来ないだろうしな」

 まさか乗ってくれるとは思わなかったが、好都合だ。肩慣らしと行こうじゃないか。


※   ※


「一本勝負、片方がダウンしたら勝ちでいいか?」

「なんでも構わないわ、かかってきなさい」

「よしきた! アメリア! 援護、頼んだぞ!」

 掛け声とともに、アドニの体が淡く光り、こちらへ駆けてくる。Bクラスを目指すだけはあり、やはり早い。だが、甘い。

「セアン、あんたは引っ込んでなさい。格の違いをわからせてやろうじゃないの」

 こちらも一歩前に強く踏み込み、前方に水をばら撒く。

「うわっぷ!」

 アドニが水をまともに食らって足を止める。魔法使い相手に真っ直ぐ突撃するなど、愚の骨頂だ。踏み込みの勢いのまま懐に入り込み、至近距離で勢いよく水を放出する。

「どわあああああ!!」

 放出した水に流されて、アドニがアメリアのところまで流れ着く。

「相性が悪かったわね。でも、これでわかったでしょ? 私たちの実力」

「嫌ってほど思い知ったよ……」


※   ※


「いやー、火山だってのに快適だな!」

「当たり前じゃない、私とセアンに感謝することね」

 灼熱の地で4人が快適に活動できるのは、水魔法の応用によるものだ。体の周りに水の膜を浮かせることで気化熱を発生させ、温度の上昇を防いでいる。要は、汗と同じ原理を魔法で代替しているということだ。ただ、持続にMPがかかりすぎるためそう易々と使えるものではないが。

「ありがとうございます。ほら、アドニも!」

 頭を下げるアメリアと、頭の後ろを抑えられて半ば強引に頭を下げさせられるアドニ。体格は真逆だが、関係性は親子のようだ。

「それほどでもないよ。この程度、仲間なら当たり前さ」

「はぁ……あんた、カッコつけるのも大概にしなさい?」

 アメリアに対しアプローチするセアンに呆れる。確かにアメリアは可憐だが、こんなところに出会いを求めるとは情けないものだ。

「しょうもないことしてると、ほら、来たわよ」

 談笑しているチームのもとには、火を纏い、人間の子供ほどの体躯の蜥蜴三体が出迎えてくれた。


※   ※


「所詮ただのサラマンダーね、取るに足らなかったわ」

「あいつらはCランクでも雑魚扱いだからなー、俺らの相手じゃないってわけだ」

「とか言って、アドニも火傷してるじゃん……!」

 アメリアがアドニを咎め、回復を施す。

「この程度怪我じゃねーよ。気にすんなって」

 この関係性、本当に親子なのではないか?

「迷惑かけてすいません、皆さんは大丈夫でしたか?」

「こっちは大丈夫、気遣いありがとね」

「良かった……ルイスさんも、無傷そうで何よりです」

 この男、まだアプローチを諦めないのか。歳の差を考えたことはないのか。無視されないだけ感謝して方がいいのではないか。

「で、火竜ってのはどこにいるのよ。さっさと終わらせましょ?」

「この先らしいぜ、燃えてきたな!」

 アドニが洞窟の中を指す。確かに洞窟内から強い存在感を感じる。

「縁起でもないこと言うなよ……」

 火竜の居場所に近寄るにつれ、熱気は高まる。セアンの意見はごもっともだ。

「お出ましね、楽しくやりましょうか!」


 洞窟内には赤い背に白い腹を持つ、まさに竜と形容される容姿の魔物が佇んでいた。

「—————————ッッ!!」

 火竜の咆哮で周囲の空気と、張っていた水の膜が打ち震える。周囲の温度も相まって、これ以上の膜の維持は厳しそうだ。

「来るぞ!」

 アドニの声を聞き瞬時に飛び退くと、ついさっきまで立っていた場所に巨大な火球が飛んでくる。舐めてかかると足元を掬われる相手だ。気を引き締めなければ。

「セアンと私でこいつを倒すわ! アドニは足止め、アメリアはサポートを頼むわ!」

「「了解!」」

 景気のいい返事を得られた瞬間、アドニが火竜に突喊する。火竜の牙とアドニの直剣が激突し、剣戟が巻き起こる。たった一人でいい張り合いをしているアドニだが、彼が炭になってしまう前に片をつけなければならない。

「サポート頼んだわ!」

「はい!」

 アメリアに強化魔法をかけてもらうと、体の奥底から力がみなぎるようだ。出し惜しみはなしだ。セアンから一気にMPを吸い取り、魔法として具現化する。

「ぶっ放すわよ! 『グランス・ヴォーグ』!」

 手の平から水として破壊の奔流が放たれ、洞窟の中で暴れ回る。火竜を巻き込み、溶岩を固め、岩を削り取り——————


 変わり果てた洞窟の中で、変わらないものが二つだけ。一つ目は自分達のパーティ。二つ目は、ほんの少し大きくなった火竜だ。


洞窟内を破壊し尽くすほどの攻撃を受けて、奴は倒れていない。しかし、ありえるのか?アドニに時間を稼がせてまで構築し、強化まで施した渾身の魔法が、火竜を倒すに至らないとは考えられない。何が起きた?考えろ、考えろ—————

「ルイス! 避けろ!」

「やば——————」

 セアンの声で意識が引き戻されれば、目の前には火球が迫ってきていた。咄嗟に腕を振り上げ、水を放って防御をする。が、防ぎきれない。

「ルイスさん!」

 アメリアの悲痛そうな声を聞いて、申し訳ない気持ちになる。何度も彼女に負担をかけるわけにはいかない。

「まずったわね……」

 火竜を倒せなかった驚愕に思考を塗りつぶされ、注意を欠いてしまっていた。セアンがいなければどうなっていたことやら。

「今回復しますね、お待ちを……」

 翡翠色の光が瞬き、火傷を治していく。あの程度に遅れを取るとは、自分もまだまだ未熟だ。とはいえ、わかったこともある。グランス・ヴォーグを耐え、体躯を大きくしたあのカラクリは恐らく、脱皮だ。

 火竜の名には竜と含まれているが、実際はサラマンダーの上位種であり、どちらかと言うと蜥蜴に近い種族だ。だから、その習性に則り脱皮を行なったのだろう。それは成長のためではなく、防御のために行われたのだが。

「サポート、助かったわ。悪いけど、もう少し手伝ってもらうわね」

 幸いなことに、アドニとセアンが火竜を抑え込んでいる。ただ、サイズが大きくなった分先程より苦戦しているようだ。ずっとこうしている訳にはいかない、セアンの元に駆ける。

「セアン! 出力下げてもう一回やるわよ!」

「私も、アドニの助けになる!」

 威勢のいい掛け声とともに、アメリアから数本の氷柱が放たれる。いい援護だ。

「『グランス・ヴォーグ』!」

 今度こそ確実に、火竜の芯を捉えて激流が叩き込まれる。脱皮はもう使えない。攻撃の隙も与えない。再度破壊が洞窟内を飲み込む。

 全てが終わった後に残る者は一つだけ。自分たち4人のパーティだ。

「———やったわ」

 Bランク昇格戦、大金星だ。

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