揺り籠から墓場まで
新座遊
第1話(最終話)人生代行始めました
リストラされて、次の仕事を探すが、ピンと来るものがない。
というか、相手の会社からすると、俺がピンと来ない人材ってだけだろう。
そろそろ諦めて、何か世の中の役に立ちそうな新しい事業でも考えて、起業してやろうかと思う、
世の中の課題は何か。ネット検索するといろいろ出てくるな。
なんでこうも課題が満載なのに誰も解決しようとしないんだろう。
いやこれは俺にも言えることで、自分の生活を守るのに精いっぱいで、社会の課題なんかを気にする余裕がないってわけだ。
しかしまあ、俺は金銭的余裕を失った代わりに時間的余裕だけは豊富にできたわけで、今こそ社会課題について考えてみたい。
SDGsが課題の一覧性に富んでる。誰が考えたのか知らんが暇な奴らだ。
17個の目標とやらが掲げられているが、ぶっちゃけ要するに、この世の悪徳を無くそうということに尽きる。悪徳がどの価値観で語られているかが問題なのだが、そこはそれ。たぶん権力者にとって都合の良い価値観に違いない。
ではその価値観に従って、どのような事業を展開するのがよいだろうか。
弱者を救済する、という観点が一番正義感に沿っているような気がする。どこの世界でも必ず弱者は存在する。必ずしも弱者が負けるばかりではないのが面白いところだが、たぶん勝っている弱者は自分が弱者であることを自覚していないだろう。
まあ俺が弱者であることは自覚的事実ですけどね。
そんな弱者が弱者を助ける事業。これはSDGs的世界観に近しいものがあるだろう。知らんけど。
誕生から葬式まで、時系列に従ったライフプランを示すこと。出会いから別れまでの人生イベントをフォローすること。
例えば、歌舞伎とかで見かける黒子のようなものをイメージしてみる。
存在するけど存在していないというルールのもとで、あれこれと舞台のお膳立てをする役割。これはなかなか現代社会には見当たらない職業なのではなかろうか。みんな、俺が俺が、の肥大した自我が、循環する自然環境を破壊し続けている。
古代中国には、孔子、孟子、老子、墨子、韓非子などなど、いろいろな思想があったが、現代日本では黒子という新しい思想を作り上げよう、そうしよう。
「人生の出会いから別れまで」とか、「ゆりかごから墓場まで」という停滞期の英国のようなキャッチフレーズを使い、俺は新しい事業を開始した。
人々は自分の生活をサポートする存在を待ち望んでいた。どれだけ政府にないがしろにされている人が多かったか、ということでもある。
この事業は瞬く間に日本全国に行き渡ることになる。
ただし、事業は失敗した。マネタイズのことを考慮していなかったのである。
揺り籠から墓場まで 新座遊 @niiza
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます