僕の話を誰か聞いてくれないかな?

くすのきさくら

今日も僕はそこに居続ける――はずだった。

とある駅のホームの先っぽ。ここが僕の定位置だ。まあ好んでこの場所に居るわけではないが――定位置だ。雨の日も風の日も雪の日も朝も昼も夜もここが僕の定位置だ。

出来れば屋根があると嬉しいのだが――最近は駅の一部だけ。階段近くとかしか屋根がないんだよね。まあそれは仕方ないか。


そうそう僕の紹介をしておこうか。僕は仲間の中では結構な年だ。周りにも仲間が居るが多分最高齢の争いをできるかと思う。

まあ地味と言えば地味なのだが――最近はかっこいいやつも来るからな。そういえばこの駅でも新しいやつ。かっこいいやつを見かけるようになったな。かっこいいやつらが来たら地味な僕は追い出されるかもしれない。それにやっぱりかっこいいやつは人気もあ――。


――ギィィ……。


おっとちょっと話をしていたら――今日も僕は人に乗られてしまった。座られてしまったか。まあいつもの事だ。それに僕がここに居るからだからな。問題はない。いつも通り僕は耐えるだけだ。

にしても、なんか最近嫌な音が聞こえるんだよな。大丈夫かな?である。


――ギィィ。


うん?ちょっとだけ僕に乗りに来ただけだったのか。僕に座っていた――中年の男性はゆっくりと去っていった。別に長時間居てもらってもいいのだが――ってまあ駅で長時間居るのは僕と――あー、でもよくよく考えると。駅にはいろいろなやつが長時間居るか。うん。こっちの方が多数派かもしれない。



それからしばらく僕は日光浴をしていた。

ちょっと肌がぱりぱりというか――最近の強い日差し大丈夫かな?というのはあるのだが。僕の定位置はここ。かっこいいやつらの方に混ざることはできないのでね。っかあっちは屋根があるからな。よくよく考えたら日光浴も水浴びも出来ないから。できるのが僕の特権か。濡れるのはあまりうれしくないが――かっこいいやつらは経験したくても――嵐の時くらいしか経験できないからな。


にしてもだ――なんでかっこいいやつの方には若い子が集まるんだ?僕の方にも集まってもいいのに。出来れば乗られるのも若い子の方がいいんだ――あっ、いや、決して人を選んでいるわけではない。ないよ?うん。僕の定位置に来る人は誰でもいいんだよ。うん。そうちょっとだけぶつぶつ言っているだけ。どうせ誰も聞いてないからね。一人つぶやいているだけだよ。若い子良いなーって。よし。いつも通り誰も聞いてないな。うん。誰にもバレてな――。


ギシッ。


な。なんだ。急にいつもの2倍の重さが――まさかの誰か聞いていたのか。俺に罰を――って2人も乗るなー。いや、耐えるけどさ。耐えれるけどさ。高校生か?こんな所でいちゃつくなー。いや……いいけどさ。うん。一応は1人にしてくれないかな?乗るのは。うん。僕そんなに強くないから。この中では年寄り側になるから。あのかっこいいやつなら。余裕—―ってあれか。僕の方は周りに人が少ないからか。うん。こっちならイチャイチャできると。なるほど僕が何も言わなければ――うん。ってか――めっちゃいちゃつくな。ここ駅。気にしないの?気にしないのね。うん。わかったわかったから。そんなに僕の上でベタベタしないで。うん。何か僕まで恥ずかしくなるじゃ――とか思っていたら。電車が来たからか。高校生カップル?はひょいと僕から降りて行ったのだった。


ふー。2人に乗られるとは――ってかなんで僕の上でさらに抱っこしてるかな?などと思っていると――すぐにだった。


ギィ――ギッギッ。ドンドンドン。


おっと。またちょっと違うことを考えているうちに違う人に乗られてしまった……って靴で乗るな靴で。まあなんか軽いから良い――って良いわけないからな?跳ねるな跳ねるな。危ないだろうが。誰か居ないのか?ちょっと。誰か!?


バンバン。


結局僕の話を聞いてくれる人はいつも通りいなかったので、しばらくの間僕は乗られ――踏まれ続け――時たまジャンプもされた。そのためなんか……全体的に砂っぽくなってしまった。


――子供は元気だが――少しくらい誰か注意とかしないのかよ。危ないだろうが。ここ駅だよ?バランス崩したらどうなるかわからない?落ちるよ?線路に転がり落ちたら大事故だよ?

ホントみんな最近はスマホばかり見て――僕はスマホを持ってないからわからないけど……そんなにずっと見てないとダメなの?ねえ?

ってか。誰も居なくなったはずなのに……なんか、ちょっとだけ重さを感じるような……僕の上にまだある……?って、忘れ物。忘れ物ありますよ!なんか小さなカバンと――お菓子?うん。多分お菓子の袋が乗ってるんですけど。ちょっと誰か!気が付いて!忘れ物!


―—まあ僕の声には気が付いてくれる人はいなかったが。その後やって来た駅員さんが僕の上からカバンを回収していってくれた。

ちなみにお菓子に関しては、ここ最近よく僕の様子を見に来るカラスくんが駅員さんが来る前に回収していった。


にしても。砂っぽくなってしまったからか。あれ以来僕の周りに誰も来なくなってしまった。いや、来なくはないが――来ても……戻って行くだった。などと僕思っていると。


……ポツ。


急に上から水――雨だ。

いつの間にか太陽が黒い雲に覆われていた。これは水浴びかな。などと僕が思っていると短時間だったがその後ざっと雨が降ったのだった。


もちろん屋根の無いところに居る僕はぼちょびちょだ。でも砂っぽさは無くなった気がする。まあずぶ濡れの僕に近寄ってくる人はさらにいなかったけどね。

それからしばらく僕の周りは静かだった。



時間は過ぎていきあたりは真っ暗。でも僕は定位置に居る。

そうそう僕は何故か周りが暗くなった時の方がよく誰かに乗られる気がするんだよね。ダラー。というのか。ぐったりというか。ずっしりとした重さを感じる気がする。まあ乗っているだけなら僕は何も言わない。

まあ言ったところで聞いてもらえないか――などと思っていると。


バン!


痛い!?さすがに痛いから!なに!?ちょっと!?何事!?すごい衝撃だったんだけど!?


ガン!ガン!バン!バン!


ちょちょちょ、痛い。痛いから!叩かないで。蹴らないで。壊れる。僕壊れるから。僕結構な年って言ったよね?言ってなかった?言ったよ?心はプラスチックだから。割れるから。ある程度は耐えれるようになってるけど――この強さは無理だって!ちょっと。誰かー!


バン!バン!ガンガン!



……僕はそれからボコボコにされた。ホント何があったのかはわからなかったけど。真っ赤な顔をした若い男性、20代30代くらいだろうか。あれは――泥酔していたのかな?あっ。僕匂いがわからないんだよ。でも雰囲気からそんな感じに思えた。

若い男性にカバンで叩かれたり。蹴られたりし続けた。


――そして僕の終わりは突然やってくる。


――バキッ!


駅の先っぽで、普段は聞かない音が響いた。

その後の事は――何となく覚えている。

警察官かな?暗いからはっきりわからなかったけど。それに身体中痛かったし。でも何となく見たのは――警察官の人と駅員さんが若い男性を連れて行った。その時も何か若い男性の人は大暴れしていたかな。


ちなみに僕は怪我をした。それからしばらくの間。僕は身体中にテープを巻かれていた。そのため誰もやってこない。近くにすら来なかった。


僕に乗りに来る人はいなくなった。


でも僕はいつものように定位置に居た。ここが僕の定位置だから。



数日後だった。


ガガガガ……。


僕の足元が揺れた。まだ身体が痛いな……などと思いつつのんびりしていたら。僕は数人の作業員に僕は囲まれていた。


そして僕は久しぶりに定位置を動くこととなった。


――僕が定位置を離れるということは――終わりを意味するんだけどね。


結局最後まで僕の話を聞いてくれる人はいなかった。でもこれが僕のいる世界では普通の事。でも、もし次があるなら――そして僕の話を聞いてくれる人が居る世界ならいろいろ言いたい。


……まず屋根は必須。これ大事。屋根が無いと雨とか雪の日。僕は活躍できない。あと、屋根が無理なら僕は自分で動けないから定期的な掃除をお願いします。そして僕に乗る人は優しく乗って。座ってください。そうそう小さな子は跳ねないで。危ないから。本当に。大人の人も見ていてあげて。それと……お菓子とか飲み物置いてかないで。カラスくんたちに気に入られちゃうから。いろいろトラブルが起こる可能性があるからね。

そして乱暴にしないで。耐えれるようにはなっているけど、限界があるから。それと――えっ?その話終わりがあるのかって?もう少しくらい話してもいいでしょ?どうせ誰も聞いてない。僕の一人――えっ?オーバー?何が?えっ?オーバー?うん!?オーバー!?


……やっぱり最後まで僕の話は誰も聞いてくれないのか。



その後僕は駅のホームから引き剥がされて駅を離れた。

そうそう僕のいた場所には、すぐに新しい新人が来ていた。今風の新人だった。なかなかかっこよかったよ。それと僕とは向きが90度変えられていた。ちょっと見える景色が僕とは変わるかな?ちなみに僕はいつも通り過ぎる電車を見ていたけど。今度からは――通り過ぎる電車だけじゃなくて、駅へと入ってくる電車も見れそうだ。


一応僕は離れる際にちょっとだけど新しいやつに挨拶はしておいたよ。


さあ、僕はさようならだ。新人。頑張ってくれよ。



(おわり)

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