始まってすぐくる別れと始まらない出会い

花月夜れん

別れ、出会い

「引っ越しします!」


 あぁ、まただ。僕はがくりと肩を落とす。春から二人暮らしが始まったばかりなのに彼女はもう出ていく話を始めた。

 僕はずっとこんな感じを繰り返している。一緒に暮らそうと決まり、だいたい一ヶ月。早い子だとたった三日なんて事もある。まだ始まったばかりなのに、何がいけないんだろう?

 僕の身なりのせい? パリッとしたシャツ、細身のジーンズ、髪だってセットをかかさない。

 いったい何が駄目なんだ?

 性格? 穏やかだし、ちゃんと思いやりもある。彼女が疲れて眠たい時なんかに歩く音をたてないようにそーっと移動する。その時に、物がかたりと落ちたりギシギシと音がするのは僕のせいでは決してない。この建物が古いのが原因だ。


「今度こそ……!」


 僕は決意する。次の彼女はせめて半年くらい一緒にいたい!!


 ◇


「わぁ、広い! それにきれい!」


 そうだろう? リノベーションってのできれいになったばかり。


「駅から歩いて五分」


 出勤も楽だろ?


「なのに、このお値段!!」


 新しい彼女は一目見た時から運命だと感じた。チャラチャラしていない真面目な人。優しそうで、少しぽやっとしたところがすごくいい。

 金銭面もしっかりしてそうだ。

 彼女の後ろでうんうんと頷いていると、彼女は部屋の真ん中で急に服を脱ぎだす。

 わ、わ、僕達まだ出会ったばっかりでそんな……。

 服を脱ぎながらバスルームへと彼女は向かった。

 あーあ、少しだらしないかもなぁ。僕は彼女が出てくるのをローテーブルに座りつつ待った。

 少ししてカチャりとバスルームのドアが開く。小さなタオル一枚を肩にかけほんのり赤く色づいた彼女が出てきた。着やせするタイプなのか、何もまとっていない彼女は驚くほど魅力的だ。


「はー、気持ちよかったー。だけどあとで管理人さんに言っておかなきゃ」


 ん、何かあったのかな?


「シャワーから赤い水がでてくるなんて」


 あ、またか。困るなぁ。水道管は新品になってないからかな?

 彼女はカバンをガサゴソとまさぐる。下着を探しているのかな。


「でも、これくらいじゃここから離れるなんて考えないわー」


 うん、うん。君ならそう言ってくれると思ったよ。よろしくね、ゆかりさん。


「あった。ビール! さって、一人暮らし開始の祝盃だー!!」


 彼女の持つ缶からぷしゅっと勢いのある音がなった。

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始まってすぐくる別れと始まらない出会い 花月夜れん @kumizurenka

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