猫を拾った日・・・

胡蝶花流 道反

第1話

ある朝のこと。

私は”猫”を拾った。

それを家に連れて帰った。


 

 家…2LDKのアパートには、私の他に姉が居る。姉は”猫”の事をどう思うだろうか。そんなもの、拾ってこないで、返してきて。と、怒られるだろうか。

 こっそりと玄関に入る。私達の履物の他に、の靴がある。息を潜めて自室へ向かう。静かに、と、”猫”にも言い聞かせる。


 無事に部屋に入ると囁くような声で、決して音を立てないように、と注意を重ねた。隣の部屋からの、啜り泣く様な嬌声とベッドの軋む音がするのを確認してから、キッチンに行く。”猫”の食べられそうな物を探して、部屋に戻る。

「私は友達の所で済ませてきたから、遠慮せずに食べていいよ」

 ”猫”は私の与えたご飯を、部屋の隅っこでもそもそと食べた。

「さあ、後でお姉ちゃんに何て言おうかなぁ…」


 私は家から離れた高校に通っている為、姉の住んでいる所に居候させて貰っている。なので、姉には物凄く、気を遣っているのだ。学業で手一杯の私の世話までしてくれてるし。あまり我儘を言ったり迷惑を掛けたり出来ない。”猫”の件はバレたらその時はその時で、と暫く隠しておくことにした。


 喉が渇いたので、キッチンに飲み物を取りに出た時、に出くわした。

 目が合ったので軽く頭を下げ、挨拶を済ませた。が、こっちに近づいて来る。いやだなぁ。

「妹ちゃんじゃん、帰ってたんだ。偶にはゆっくり話そうよ、そうだ、部屋見せてよ、部屋!」

 ねっとりとした視線でこちらを見ながら、にやけた調子で声を掛けてきた。嫌悪感が沸き上がって来る。

「お姉ちゃんは?」

「ああ、買い出しに行ってるよ。1時間は戻ってこないんじゃない、ね…」

 え!?と思考が混乱したその刹那、手首を摑まれ引っ張られる。いいじゃん優しくするからさぁ、等と言いながら私の自室に連れ込もうとする。

 駄目、その部屋には……



許 さ な い   絶 対 ゆ る さ な い



 何か恐ろしい声が聴こえ、そしてだけ、部屋に引き摺り込まれた。


 グチャッ、ベチョッ、といった嫌な感じの音が、物がぶつかる様な衝撃音と共に聞こえる。私の部屋から。

 シネ、オマエハイツモ、シネ、シネ、と呪詛の様な声を上げながら何かが暴れて、そして静かになった。


 恐る恐るドアを開けてみる。中には誰も居なかった。も”猫”も。

 とんでもない惨状を想像していたが、部屋は出た時と変わり無かった。只、”猫”が居なくなった、だけ。

 

 ”猫”、いなくなっちゃった・・・



 数日後、姉は何事も無かったかのように新しい彼氏を作り、そして家に連れて来るようになった。

 姉の彼氏は、いつだって同じようなタイプでうんざりする。

 この件に関しては、いつも呆れている。が、私は姉が大好きだ。


 また、”猫”拾わなきゃ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫を拾った日・・・ 胡蝶花流 道反 @shaga-dh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ