道の駅でバイク乗りのお姉さんに出会った話

いずも

ちなみに作者はバイクに乗ったことありませんが、いつか乗ってみたいなと思っています

 これは僕が幼い頃の出来事です。


 父はいわゆる鉄道オタクで、その日は兵庫県の日本海側にある餘部鉄橋を見に行くことになりました。


 父の運転する車に乗って国道482号から県道4号を北上していました。



 途中で父がトイレに行きたいと道の駅に寄りました。


 そこは広い駐車場にぽつんと小さな売店と自販機があるだけの、いかにも田舎の休憩所という印象でした。



 道の駅の横を大きな川が流れていて、好奇心旺盛な僕は河原へ降りて遊んでいました。


 川に手を浸すと心地よかったので初夏の時分だったと記憶しています。



 蟹は居ないか、魚は居ないかと夢中になっているとふと背後に気配を感じます。


 父が戻ってきたのだと振り向くと、そこには若い女性が立っていました。


 全身黒のいわゆるライダースーツで、スラリと伸びた脚からスタイルの良さが見て取れ、少しくせっ毛の長めの茶髪が風に揺れて、とてもきれいでした。


 キラキラとしたその瞳に、真っ白な肌に、釘付けでした。



「ねぇ、何が取れるの?」


 川の流れる音に乗せられて彼女の声が僕の耳へ届きます。


 あまりの心地よさに聞き流してしまいそうになりました。



「ええと……あ、鮎とか」


 戸惑いつつも返事すると、とても嬉しそうに微笑んで


「そう。じゃあ、もし取れたらお姉さんにごちそうしてね」


 なんて叶いもしない約束を交わしたのでした。



「おーい、そろそろ行くよー」


「じゃあね、少年」


 その人は二人組で、女性二人でツーリングをしていたのでしょう。


 バイクの排気音が山の向こうにこだましていきました。



 もしかすると同じ目的地だったりしないかと淡い期待をしたのですが、当然のごとく余部鉄橋では彼女らの姿はありませんでした。



 それから大人になって久しぶりに余部に行こうと思い立ち、途中で立ち寄った道の駅のことをふと思い出しました。


 当時を思い出しながら向かってみると一本道で迷いようがなく、当時の面影をそのまま残したのどかな風景が広がっていました。



 休憩スペースには道の駅ご当地キャラクターのパネルが置かれていました。


 当時そのようなものがあったかは覚えていませんが、そのパネルを見て衝撃を受けました。


 僕が見たバイク乗りのお姉さんはまさしく彼女。


 道の駅ご当地キャラクター『矢井田川あゆか』だったのです。



 ――あの夏に会いに行こう、道の駅『あゆの里矢井田川』



*********



「――ってのはどうですか!?」

「うーん、プロモーションとしては悪くはないよ。ないけど……ちょっと弱いかなぁ。インパクトが欲しいね、インパクトが」

「インパクトですか……田舎の素朴さを全面に押し出した感じで攻めようかと思ったのですが」

「そうだね~、俺ならこうしちゃうかなー」



*********

******

***


「ねぇ、何が取れるの?」


 川の流れる音に乗せられて彼女の声が僕の耳へ届きます。


 あまりの心地よさに聞き流してしまいそうになりました。



「ええと……あ、鮎とか」


 戸惑いつつも返事すると、とても嬉しそうに微笑んで


「鮎かぁ。よし、お姉さんに任せなさいっ。とうっ!」


 ヘルメットを装着して、お姉さんは川の中に飛び込みました。



*********



「いやお姉さん何やってんの!?」

「ライダースーツとダイビングスーツって似てると思わないか」

「いや全然別物でしょあれ」



*********

******

***



「ぷはぁ。やった、取れたよー」


 そしてお姉さんは両手に鮎を握っていました。


 ついでにお姉さんのヘルメットも取れました。


 お姉さんの首から上はありませんでした。



*********



「いや首なしライダー! デュラハンですか!? ていうか何その唐突なホラー要素」

「インパクトって大事じゃん?」



*********

******

***



「おーい、そろそろ行くよー」


 空からもう一人の女声が降りてきました。


 彼女はコウノトリを擬人化させたご当地萌キャラの久々比ことりでした。



*********



「矢井田川あゆかの作者の別作品キャラってどんだけマイナーなキャラ出してくるんですか!」

「一応名前そのまま使うとヤバいからちょっとだけ変えといたから」

「そういうとこだけしっかりしてんな!」



*********

******

***



 その人は二人組で、女性二人でツーリングをしていたのでしょう。


 バイクの排気音が山の向こうにこだましていきました。



 Vツインエンジンが奏でる独特の排気音と振動は大型バイクならでは。


 美しい流線型のフロントフェンダー。


 バイク乗りが憧れる格好いいバイクと言えば。



 ――そう、ハーレーダビットソン。



*********



「バイクの宣伝になってますよ! 田舎を爆走してどうするんですか!」

「あーもーうるせえな、ちゃんと宣伝すりゃあいいんだろ」



*********

******

***



――まじでつぶれる5日前、道の駅『あゆの里矢井田川』



*********



 この自虐フレーズによりこの道の駅は一躍有名になり、今なお多くの人が訪れています(実話です)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

道の駅でバイク乗りのお姉さんに出会った話 いずも @tizumo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ