第4話 俺達非行少年

 卯田碧衣の色気の無さは致命的だった。

童貞の夢のような形をしていながら、その夢を覚ますほどだ。

 寒暖差で憎らしさすら覚える。

 店員を捕まえてもう一度彼女に実演してもらったが、沈黙が深まるばかりで事態が深刻になるばかりだった。


「「……」」


「……そんなに私は魅力がないのか?」


「逆に何があったらそうなるんだい?何もなかったらこんなものなのかい?」


「だって他の子は私は男にモテるって噂立てているんだぞ。そうだと思うだろう!」


「人物評で人柄は決まらないよ」


 馬鹿らしい。その理論が通るなら俺は今すぐこの調査を辞めてカグツチ中に俺の名でモテ男の噂を流してハーレムを築きあげてるぞ。

 ……行けちゃうのか?


「男の人って意外と中身も見ているんだね、てっきり顔とおっぱいしか見てないと思ってたよ」


 答えにくい事を聞いてくるな。

  

「それにしても、何があればここまで悲惨なものに成り果てるのか気になって仕方ないよ。特に自信をどう持ったかについてはね」


 実績も持たずに持つ自信は自惚れでしかない。食堂での言葉からむしろ自分を鍛える事に重きを置いていると考えていたが、事誘惑に限ってはその限りではないらしい。


「……」


「碧衣も悪くはないが、ここは一旦愛に代わって貰った方がいいんじゃないか。危険な役割である事には変わりないが、その分問題が起きた時に俺達で対処すればいいさ」


 何も一番危険な仕事をしなければ裏切りである、なんてことはない。

政府は国家を運営する上では重要な存在だが、ゴミ収集を怠るようであれば疫病の蔓延に繋がる可能性があるなど問題が発生する。 

 仕事の重要性など時と場合によって上下して然るべきなのだ。

 もし彼女が責任感から続けるというのであれば、こちらとしても意地になっても止めるつもりだ。そう考えてると──。


「じゃあさ、あたしも色々試してみるからシュウ君も後で新しい服着てみなよ」

 

 と、もう既にいくつか洋服を手にした愛がフンスと鼻息を荒くしながら試着室へと消えていった。

 何というか女の子の服にかける情熱は凄まじいものがある。


「正直なところおっぱいだしてくれていたら俺としては言う事ないんだが」


「一度死ね、スケベ小僧」


 私服に着替えて試着室を出た碧衣の言葉はあえて無視した。


「全く、愛の意見は有益だとはわかるがこうも一度に試すとなるとやはり疲れるな。制服を試した時は不思議とここまで疲れなかったが」


「試すも何も制服なんて着るだけじゃないか」


 その一言がまずかった。

彼女は赤かった顔を白くし、わなわなと肩を震わせ俺の眼をまっすぐ見つめ爆発した。


「着るだけだと。着るだけだと!!スカートの裾は一度切ったら戻せないし、上着だって太って見えないようシルエットに逸らせると胸を強調してしまう、全体的に体が大きいから肩幅を小さく見せる努力もしているんだ!!髪型だって試していたら時間なんていくらあっても足りないんだ!!それを言うに事欠いて着るだけだと、ゆるせん!!」


 彼女が力強くその努力を力説すると、店内にいた他の女性客の琴線にも触れたのか、群れを成した夜叉の軍団に包囲された。一団はそれぞれ思い思いに日頃の努力を懇切丁寧に説明するが、元々着流しぐらいしか着る事のない俺には理解が及ばず、宇宙の真理を異星の女神達に通達されてもそれを理解する程の知能が絶対的に足りなかった。

 最後の方は記憶が曖昧だったが、嗚咽をかみ殺してただただ耐えていたと後から碧衣に教えられた。

 早く忘れよう。


「全く、努力を評価しろとまでは言わないが少しは鑑みても罰は当たらないぞ」


「まだあれが続くんですかぁ!?」


「トラウマになっているじゃないか」


 いやだ俺はこの星の住民だ、おしゃれ星の高次元多角思考生物にキャトルミューテレーションされるわけにはいかない。自衛を図らねば。

 今日は二人とも私服だ。初めてあった時は色と形状程度しか分からなかったが、一時間近く愛のうんちくを聞き流していたのだ、俺にわからないはずはない。


「勝負だ碧衣!!」


「お、おう」


 観察、観察をしろ虎崎シュウ。やつは何を着ている。丈は膝まで行きそうなくせに袖は肘にもかからない茶色の上着、何か柄があるでもなく女物の着物よりも鎖骨が見えやすい白シャツ、そして上げすぎだろそれって感じのへそ上まで上げたちょっと青いパリっとした黒ズボン。

 ……名称が何一つ出てこない。色なんて三原色と白黒あれば十分だろう。

何か、何かないのか。俺でも指摘できる何か。あった!!


「君学校だと入れ乳してるだろう」


「着やせする服を選んでいるだけだぁあああああああ!!!!」


 碧衣のストレートは、俺を路上にぶっ放した。




 その日の夜、俺達は早速件の群青崩れを掴める為におとり捜査を工場地帯周辺の通りに集合した。

 作戦としては愛が男をおびき出し、海道を含めた群青崩れが現れたら俺と碧衣が対処する。そういうシンプルな作戦だ。

 おとり役の愛は俺が吹っ飛ばされた後、改めて試着した夜闇に溶け込まない黄色い女性服を購入してそれを今直用している。

 女子にしては身長の高い碧衣と並んでみると女児のようだが、実際の所少し背が低い女性の範疇には収まっているので問題なく男は釣れるだろう。


「美人局作戦、いっくよー」


「「オーー!」」


 気合を入れ俺と碧衣はその場を少し離れ、物陰に隠れ愛に釣られた獲物を待った。

先日リュカと共に行ったときもそうだが、夜はやはり寒い。風邪をひかない事は勿論、あまり長引かせて体内時計が狂ってしまわない事を願うが、二人がいうには朝まで待って2,3人捕まるかという程度らしい。

 犯人が捕まらないといいう事はそれだけ治安がいいという事だが、一刻も早く復学したい自分としては現行犯を探しに行きたい。

 二人にもそう伝えはしたが、夜に探しても見つからず非効率だと言われ却下された。俺の時は直ぐに何人も見つかったが、あの日はたまたま群青崩れが多かったらしい。

 入学式の当日だったからそれに触発されたのが多かったのだろうか。

 二人ともおれより長くこれに従事しているのだ、素人の経験則よりも玄人の物が事実には即している。説明受けてからは黙って従う事に決めた。


「暇だ」


「気を抜くな、と言いたいがいつもそこまで来ないからな。いざという時に動けないくらいなら休み休みでいいだろう」


「何にせよ寝不足になるには違いないな」


「ハハッ、そこは慣れだな」


 時間が立つと少し落ち着く。静かなになると猶更だ。無駄に頭が回ってしまう。


「学校は、どうだ。楽しいか」


「まるで父上のようだな。……楽しくはないかな、知り合いは何人もいるが友人は愛だけだ。勉強も嫌いではないが責務である、以外の理由は正直ない」


 期待していたよりも暗い答えだったが、彼女のなんとも居心地の悪そうな淡い笑みが彼女の素直な答えであると言外に発信していた。


「何で群青崩れを狩っているんだい。俺が言った所で皮肉にしか聞こえないだろうが、君は現代の四方守護の家系の一人だろう。わざわざこんな所で点数稼ぎをしなくても今学校で頑張って知識だの人脈だのを身に着ければ、それが一番の投資になる。夜更かしも慣れると言っても確実に影響が出るはずだ、別に君がこの手段にこだわる必要はないだろう」


「…………答えたくない、じゃダメか」


「別に無理に深入りするつもりはないよ、少し気になっただけだ」


「そうか、訊かないでくれると助かる」


 沈黙が流れると俺は思わず目を彼女から背けた。

 俺が立ち入るべき問題ではないと直感したからだ。彼女の目が疲れていたからか、力なく壁に寄りかかったからか見てはいけない物を見てしまった気がしたからかそれはわからない。

 だが何より、彼女がひどく傷ついた所を俺は見ていられなかった。


「碧衣、だれか来るぞ」


「どこだ?ここからじゃ見えない」


「あそこだ、あの狸の置物の裏だ」


「狸の置物?お前はどこを見ているんだ、私には見えないぞ」


 見えないはずは無い。確かに少し距離はあるが暗闇の中でも俺にははっきりと目視できた。

 群青学園の制服に袖を通し、刀と短刀を持った二刀流の眼鏡だ。真面目に探しても碧衣には見えないらしく、埒が明かないと判断した俺はその男の方向に指を指すとようやく碧衣も気配を感じ取ったのか背中にかけてある大太刀を構えた。


「この距離から狙うのかい」


「いやまだだ、あくまでも現行犯逮捕でないと問題になる。それにないとは思うが、もし現役生である場合は暴行罪になる。形式上一般人の我々が許されているのはおとり捜査の部分だけで、私刑をくわえる権利はない。確保の際に手荒な真似をするのは度が過ぎなければいいが、それにしてもやらないで済むにこした事はない。準備だけしろ」


「了解」


 それを聞いて俺も武器を抜き身にし、いつでも振るえるよう構えた。構え改めて碧衣を見ると一つ気が付いた、構えが似ている。

 大太刀は特異な武器だ、刀でありながら槍のようなリーチを誇る。重量は槍とは比較にならず、しかもその全長の大部分に分散されており心得を無しに振るうと自分がけがをしてしまう。

 そのため近しい刀以上にそのノウハウ、というよりも基礎となる技術は限られる。似るのは必然だ。なんせ自分一人で抜くだけで大道芸になるような武器だ、担い手もそうだがやれる事も限られる。

 父さんが生きていた頃に稽古をつけてもらった時に受けた説明だが、いざ目にすると不思議なものだ。初めて共に行動する人間が自分と全く同じ武器をほぼ同様に構えるさまを見るというのは。


「シュウ、お前に背中を任せると言った手前言いづらい事なんだが、ここは私に任せてくれないか?」


「どうしてだい」


「お互い長物を扱うからな振ったら仲間の武器に当たった、なんて事にもなれば目も当てられない。それにどうやらお前は私よりも夜目が利くようだ、もし他の人間が現れたら私よりも早く目視できるだろう」


 言われてみればそれもそうだ、俺は小さくうなづくと彼女に争いを譲った。

ここはおとなしく観戦に徹しよう、勿論彼女達に危険が差し迫ったらその限りではないが。


「そこの男、止まれ。それ以上近づいたら攻撃する」


 本来はあくまでも現行犯逮捕が肝心だったが、闇から現れた男の眼は眼鏡越しにもひどく殺気だった物である事が見て取れる。だから警告は無かった。それは正解だった。

 男は腰に差された二振りの刀を抜き、左手の短刀を前に突き出し右腕の刀を後手に持った構えで向かい打つ。

 駆け出し、お互いの距離を縮めに行ったのは二人同時の事だった。


「しっ」


 先手を取ったのは武器のリーチ差に優れた碧衣だ。

彼女は自分の攻撃範囲に眼鏡の男が入る直前、剣道でいう所の正眼の構えを経由し剣先を男の脇から首に向かて振り上げ牽制する。

 剣先が男に触れるかいなか、その時男が地を跳ねた。


 その勢いたるや道にとても人の足音とは思えない爆音を轟かせ、短刀を碧衣の刃に不快な金属音をギャリギャリと鳴らしながら自分の体ごと刃を滑るほど。

 男は右腕の刀を振り──

 抜けない!碧衣の大太刀に押し付けられた短刀が地面を蹴って生まれた慣性を完全に押し殺し、その刃をぎりぎり射程の外に押しとどめたのだ。


 空中で完全に静止してしまった男、それに対して地面をしっかりと踏みしめた碧衣。明暗を分けたのは基本に忠実であるか否か、真の強者は奇策など必要としない。

 ただその腕を男に向けて振るう。それだけで勝者は決まる、はずだった。

男が直進を再開するまでは。


 突然彼らの刀からひときわ大きな金属音が炸裂し、男が空中で勢いよく周りそのまま右手の刃を碧衣の首筋めがけて振りぬいた。

 絶対絶命かと思われたが、間一髪彼女は頭を体ごと後方に傾ける事で凶刃を躱した。

 だが、男もそこで止まらない。無理な態勢になった碧衣の隙を見逃さず、今度は右手の刀を彼女の胸に滑らせ致命傷を狙う。

 狙われたのは彼女だったが、その脅威を阻んだのもまた彼女だった。


 刀を自分から逸らそうと自身の大太刀を無理な態勢で男に向かって振るい、そのまま刀ごと男を吹き飛ばす。

 大太刀の異常な長さを誇る持ち手を使ったテコ事動かさなければ決して間に合わなかった熟練の技だ。

 無茶な技を用いた事で傾いた体を器用な脚さばきで持ち直すと、碧衣は間髪入れず男の背中に大太刀をぶつける。

 しかし、男も手練れだ。彼は予期していたのか、足を地面に付けるよりも早く左手の刀を背中に回し背中全体で受け止めていた。

 

「これが群青崩れ、こんな連中を警察は相手にしていたのか」


 余りにも現実離れした光景にたじろいでしまう。確かにあの夜、俺は群青崩れと警察を相手どったがここまで巧くはなかった。任せろとは言われたが、問題が起きれば助けを出すつもりだったが、さすがにこれに割って入るほどの力はない。背中に冷たい汗が流れるのを感じながら俺は目撃を続けた。


 大太刀を背中越しに受けた男と、それを握っている碧衣。優勢なのは碧衣の方だ、彼女は大太刀に力を籠め男を地面に向けて抑えつけ始めた。

 大太刀という武器そのものの自重はたまったものではない。刀の重量は基本的に600gから700g、それに対して大太刀は重ければ8kgにも及ぶ、さらに俺と碧衣の物は刀身がかなり太く間違いなくそれよりも重い。それを使って技を出せる程の筋力を誇っているのだ、女とは言え碧衣の力自体も相当なものだろう。男は少しずつ沈みだし、うめき声をあげた。


「なかなかどうして、……難しいものがありますね」


「投降するなら、止めてもいい」


「ご冗談を」


 男が背中越しに笑うと突然足元に砂埃が舞、流れるように大太刀の先へと体が地面を滑った。

 大道芸じみた間抜けな光景だったが、笑う気にはなれない。


「貴様、ただの群青崩れではないな」


 態勢を整わせ、一部の隙もない構えを取りながら碧衣が眼前の男に語り掛ける。


「えぇまぁ、ただの群青崩れではありませんよ。最も、一年生の現役学生に不覚を取られた身で言われても腹が立つだけですが」


 そう言いつつも男にはいらだちは見られずむしろこうなって然るべき、と諦めにも似た表情で碧衣を見た。


「私も学園ではそこそこ名の通った方ですが、あなたを相手にする以上うぬぼれはほどほどにしなければなりません。素直に諦めます」


 実践経験の少ない自分でも尋常ではない勝負だった事が分かる戦いだ、碧衣もまた彼の申し出には警戒を見せた。


「少し刃を交えた程度で測れる程の力量差とも思えないが、諦めてくれる分には私も文句はない」


 いきなりの戦闘になったが、これはあくまでも調査だ。一度起こってしまったからといって、わざわざ消えた火種を灯す必要は無い。

 そう俺も思っていた、男が口を開くまでは。


「えぇ諦めますとも、これではね」


 霧散してもいない戦闘の空気が、その色を変えた。

 男は戦闘の為の前傾姿勢を改め直立する。

するとまたしても、この男に驚かされてしまった。

 

「人間なのか?」


 その場には俺を含めた三人がいたが、誰の口から洩れたのかは分からない。だが一つ言えた事は、その一言が俺達の考えを述べるには十分な役割を発揮していた事だけだ。


 男の体から何かが漏れた。口や瞳、股からではない、体の至る所からだ。

それは液体のような不定物で男の体を這いずり周り、纏わり付き、あれよあれよという間に男のシルエットをこの世ならざる物へと変貌させた。

 頭には上から見たら半円をしているであろう黒子のようなマスクを顔面に貼り付け頭部を丸い兜のような物が覆った。体は凹凸の刻まれた薄いジャケットと形容できる何かが付いている。夜の中目撃してしまったそれは、それだけで絶大なインパクトを残していたが、一つ際立っていたのはその手に握られた二振りの刀だ。

 殺意の具現化、そうとしか言えない程あまりにも惨い。

ノコギリ、人を切るための刃は、切った者を必ず殺すためその形を別の物に模らされた。


「あなたは、と言うよりも四方守護の人間は常人とは作りからして違う。ですから私も人のままでは勝てるとは思っていません、なので辞めました」


 人を辞めた。事もなげに言われたそれは狂人の戯言として切って捨てるべきだろうが、事実として人間ではありえない事を起された以上否定もできない。

 さっきは碧衣に任せると言ったが流石にこれは想定外だ。今すぐにでも飛び出したいが、愛を守る必要もある。

 まずは彼女の安全を確保するべきだ。俺は愛の方へと向かった。





 この男は本当に人間なのだろうか。それを確かめるためにも切る!と言えるほど単純な頭はもっていない。

 先ほど何故空中で推進力を得られた?押さえつけた時も突然手ごたえが軽くなった。まず尋常の相手ではない。情報を探る必要がある。私は対話を試みた。


「私の戦いを褒めてくれるのは嬉しいが、人を辞める必要があるほどとはとても思えない。武器の振り方を教えてくれた祖父や父上には未だに一本も取った試しもないからな」


「そうは言っても、始まりからしてあなた方は違う。そこに経験も上乗せされればたどり着く境地は、私ごときには想像もつかない事でしょう。謙遜も過ぎれば嘲りと取られますよ」


 では、と一言置くと男だった物は最初の戦いの時のように私に接近していきた。

速度に違いは無い。思わず舌打ちをする、先ほどの空中転換と言い大太刀で押さえつけた時の妙な手ごたえと言いとにかく違和感のある男だ。

 もっと情報が欲しかったが、そうはいかないようだ。私はまたも正眼に構えた。

 また引っ掛けてくるなら上等だ、刃の取っ掛かりを利用して体ごと投げ飛ばしてやる。

 射程圏内に入った、さぁどうしのぐ!


「は?」


 男は何もせずそのまま突っ込んできた。


「バカがっ!」


 私が欲しいのは手柄だ、証だ。なのにこれほどの力を持った人間が自殺だと、投げやりな態度に納得がいったと同時にあらゆる罵倒が脳髄を駆け回る。

 すぐに終わらせて次に行こう、胸を掻っ捌いてやる。こんな木偶を相手にしてもなんの価値もない。

 そんな私のいらだちは新たな疑問に一瞬で塗りつぶされた。

この物体は、何で出来ているんだ。

 私の刃は男のあれ(体から出てきた謎の物体)に阻まれ、男は何故か私の刃の上に、自分の物を重ねた。


「っ!」

 

 なんだ、何が起きた!突然大太刀が震えた。いや震えたなんて甘いものじゃない、私の手の平の皮を食いちぎった。

 まずい、このままでは切られる。思わず目をつむる。


 ヴィンンンンンン!!!

 いつまでも痛みは訪れず、代わりに聞いた事もない音が鼓膜を揺らした。


「お、おっほ。なんだこれ腕が、やっば!」


「シュウ!何をしている。愛はどうした?!」


 ふざけるな私なんぞの為に友人を危険に晒したのかと、感謝よりも先に怒りがわく。


「安心しろ。もう隠れて貰ったしこいつ以外に敵はいないよ。で、任せろと言われたが、出ちゃったよ」


 仲間となって数時間の男の背中は初めて見るが、悪くはなかった。


 





 






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群青の修羅 ジャージー・デビル @dormin

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