焼き鳥にして食ってやる
玄栖佳純
焼き鳥が登場する物語
「おまえなんか焼き鳥にして食ってやる!」
「ピピィ~!」
弟がペットのトリとケンカをしていた。
子供部屋でやってるから、怒られるの私になるんだけど。
「ピ~ピッピピ~!」
「なんだとぉ!」
弟とトリは会話ができている。私にはトリはピッピと言っているようにしか聞こえない。けど、弟とトリの険悪な表情と動作で彼らがケンカしていることはわかる。
「ピピッ!」
「来れるもんなら来てみろ!」
と弟が言うと、天井近くを飛んでいたトリは弟めがけて急降下してきた。
弟はサッとよける。彼は小さいけどすばしっこい。
将来は戦士になって剣を振るいたいと言っている。
今はチビだけど今後は「ぐぃ~んと背が伸びる」らしい。それはいつの話だ。パパを見てみろ。お前と同じチビだぞ。パパは周囲に笑顔を振りまくニコニコな小太りおじさん。お前はそっちの血をより濃く継いでいる。
ゴン という鈍い音が衝撃と共に伝わってくる。耳から聞こえたのではない。衝撃が来て自分の内側からその音がした。
弟によけられたトリが、私の頭にぶつかった。
「ピピピィ~、ピッピ」
トリは石頭なのか? 私が頭の痛みをこらえているのに、トリはポトンと私が読んでいた絵本の上に乗り、弟の方を向いて文句を言っている。そして、ピッピと言う鳴き声に合わせ、私の大事な絵本の上で足踏みをしていた。
その様子を見ていると、トリの三本の指の跡が、私の大事な絵本の上につく。緑の森の中で小人とたわむれるお姫様のイラストにいくつもの足跡。そして破ける。お姫さまと小人の仲が裂かれた。長いスカートも小人側に残された。
ふうと小さくため息をつく。
「ファイアボール」
炎の魔法を唱える。上に向けた私の左の手のひらの上に小さな火の玉が現れ、それを少しずつ大きくさせる。
「ぴ?」
私の呪文が聞こえたのか、トリは私の方を見た。
弟には戦士の才能しかないが、私には魔法使いの才能がある。美人で魔法使いなママの才能を私が継いでいる。魔法学校に入ったばっかりだけど、空気中から可燃性のガスを集めて燃やすことは習う前からできた。
絵本の上で固まっていたトリに投げる。
「ピピ~!」
断末魔の叫びになるかもしれない鳴き声。
炎の玉がトリに当たる直前、弟がトリをかばった。彼の両腕にトリがしっかりと抱かれ、私が放った魔法が腕に当たって飛び散った。
炎の魔法の無効化。本来の力が発動していたら弟の腕は燃えていた。
弟が戦士向きなのはこういうところである。攻撃するだけの魔力はないが、守るためなら魔法が使える。
私の大事な絵本の上に火花が散ったので、燃え移る前に魔法で消す。
不燃性のガスを集めればいいだけなので簡単だ。
「何すんだよ! 姉ちゃん!」
「ピピ~」
弟がトリと共に私に抗議してきた。
「焼き鳥にして食べるつもりだったんでしょ? 調理してあげようと思ったのよ」
「ぴっ」
トリが私の言葉で震え上がる。トリ語はわからないけど、それはトリの顔を見て私にもわかった。
「た、食べるわけないだろ!」
半泣きで弟が叫ぶ。
「それならそんなこと言うのはやめなさい。言葉には魂が宿るのよ。魔法はその力を操って行うんだから」
魔法学校でそう習った。
その言葉を弟は真面目な顔で聞いていた。
「ごめんね、トリさん」
弟は素直に自分の非を認め、トリの頭を撫でながら謝った。こういうところは可愛い。
「ピピピィ」
トリが「いいよいいよ、ボクもごめん」と言っているようなのは私にも感じた。
「姉ちゃん」
「ぴっ」
破けた絵本を直していると、弟とトリが私の所へやって来た。
「何?」
破けた本と、付いた足跡を魔法で直す。絵本を綺麗に直したいから、けっこう繊細で面倒くさい作業が続く。
「ボクとトリさんがケンカしてたから、ねーちゃんは止めてくれたんだよね」
トリを抱きかかえた弟が言う。
トリは弟の腕の中でコクコクとうなずいていた。私が魔法を投げつけた後、弟とトリはこれでもかというくらい仲良くなっていた。
「別に、お気に入りの絵本を破かれてプチって来ただけよ」
弟が止めるであろうことはわかっていた。なんだかんだ言って、こいつらは仲がいい。
「嘘だよ。だって、姉ちゃんの魔法、簡単にはじけたし、手加減してくれたんだよね」
無邪気な笑顔で弟は言った。
「ケンカの原因はなんだったの?」
本を直しながら聞くと、
「忘れちゃった。ね、トリさん」
弟はトリに満面の笑みを向ける。
「ピピピィ~」
トリも満面の笑顔を弟に向ける。
弟とトリさんは嬉しそうにキャッキャッしていた。
「次、やったらホントに焼くからね」
私は笑顔で弟とトリに言った。
弟とトリはいつも私の神経を逆なでする。
彼らはニコニコして周囲を笑顔にして、周りからもちやほやされる。
私もそれに癒されることはある。
でも、
手加減、してなかったんだけど?
焼き鳥にして食ってやる 玄栖佳純 @casumi_cross
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