【KAC20226】親睦会的な遠足は面倒くさいけど、どこか期待している自分がいる

姫川翡翠

東藤と村瀬と出会い

「あれ、東藤君?」

「え? んーと……」

「村瀬やで」

「ああ、村瀬君。すみません。まだクラスの人とか全然覚えられていなくて」

「全然ええで。てかそんなかしこまらなくていいやん。敬語とかやめてーや」

「はあ、そうですか。まあそれはおいおいってことで……」

「男子はみんなアスレチックの方で遊んでるけど、東藤はこーへんの?」

「あー……、俺は運動とか苦手なんで」

「そう?」

「…………なんで隣に座るんですか?」

「ええやんええやん。てか焼き鳥って、いいもん食ってるやん! 僕ももらってもいい?」

「え、」

「嫌?」

「まあそれは」

「ははは! はっきりいうなぁ!」

「村瀬君はなんで戻ってきたんですか?」

「そりゃ男子全員がアスレチックにいるってことは、今なら女子たち独り占めってことやろ?」

「そうですか。じゃあ今すぐあっち行ってください」

「そういえば3班は焼きそばじゃなかった? なんで焼き鳥焼いてるん?」

「……」

「え、無視!? ひどくない!?」

「……先に無視したんそっちやないか」

「あはは!」

「……これ食ってさっさとどっか行ってください」

「え? くれるん?」

「まあ、ひとり占めもなんだか忍びないので」

「口止め料?」

「……わかってるんじゃないですか」

「ありがとう! いいねぇ。僕ねぎまとつくね好きなんよ」

「早く食べてさっさとどっか行ってください」

「まあまあそういわずにさあ。高1の一番最初のイベントやで? 仲良くやろうや。『高校生って遠足でBBQとかするんやぁ、大人やなぁ』って僕はテンション上がったのに、東藤はそんなことないん?」

「…………」

「ちょっとくらいとかあるやろ?」

「……炭火」

「ん?」

「面倒な準備とか片付けを考えずに炭火が使えるから、炭火焼の焼き鳥が作れる。今日はそれだけを楽しみにしてた。炭火焼ってだけで美味しいし。班での予算は焼きそばの材料費でほとんどなくなったし、全員分は用意できひんかった。だから自腹で自分のだけ用意して、みんながいなくなったタイミングでひとりでのんびり食べようと思ってた。そしたら村瀬君に見つかった。めっちゃ嫌や。そもそも村瀬君がなんか嫌や。名前は覚えてなかったけど、初めて見たときからなんか嫌やなって思ってた。ヘラヘラして軽率なくせに、一枚壁はって、『お前らとは仲良くしてやってる』みたいな感じがして、みんなを見下してる感がある。もうええからほっといてくれ」

「…………」

「……ごめん言い過ぎた、かも。……とにかく、俺のことはそっとしといて」

「東藤って結構しゃべるんやね」

「……なんやそれ」

「オタクみたい」

「ヲタクちゃうわ! ……ちゃうからなマジで……」

「てかさ、自分用っていうわりにはめっちゃ用意してるやん」

「そりゃ俺が食べたいんやもん」

「食い意地はりすぎ」

「うるさいっ! ……です」

「あれー? 村瀬、なんかいいもの食べてる!」

「足立さん。ええやろ。あげへんで?」

「ええー! ケチやなぁ」

「おい、村瀬! はよ戻ってこいよ……って、焼き鳥食ってる! ええやん! 俺にもちょうだい!」

「ホンマや! 俺も!」

「ええー?(東藤、これだけ持ってはよいけ)」

「(え? ……うん)」

「あげてもいいけど金とるでー」

「いくら?」

「1本100円!」

「うわマジかよ。結構いい値段するやん」

「まあ僕の自腹やからな。ほらあと10本もないで?」

「わかったわかった! 払うから! もう口が完全に焼き鳥になってもうてるもん!」

「俺も!」

「私にもちょうだい!」

「ええでー」

「なあ村瀬」

「なに?」

「さっき東藤君といた?」

「なんで?」

「いや、ちらっと見えたから」

「まあ、近く座ってただけやで。人増えたし離れたんちゃう?」

「そっかー。まあ東藤君ならそうよなぁ。俺、遠足で東藤君と仲良くなれたりせーへんかなーって思ってたんやけどな。なかなかガードが強固やわ」

「なんでなん?」

「いやさ、俺東藤君と隣の席やん? 授業のペアワークとかで話すんやけど、めっちゃ頭いいっぽいんよな。俺アホやから結構わからんこと多いんやけど、一生懸命説明してくれるし、しかもわかりやすいし、すごいいい人なんよ。でもどうしたらいいんかわからんのよなー。ひとり好きっぽいしな」

「………そっか」

「まあ、仕方ないな。のんびりタイミング待つわ」

「せやな」





「待って! 東藤!」

「……なんですか」

「その、すまんかった。東藤の焼き鳥を勝手に売ってしまって。これ、みんなから徴収した焼き鳥代と、僕の謝意を入れた1500円。炭火焼は食えへんかもしれんし、楽しみを邪魔してしまった分は金銭に換えられるもんじゃないかもしれんけど、これで許してほしい」

「……」

「本当に申し訳ありませんでした」

「……いいです。みんなから徴収したのは1000円ですよね。村瀬君の謝意は気持ちの方だけ受け取っておきます」

「やったらせめて200円だけでも! 僕2本食べたし!」

「……確かにその方が筋が通ってますね。わかりました。その分はありがたく受け取ります」

「ありがとう」

「……いい加減頭上げてくれませんか。傍からみれば舎弟から金銭巻き上げてるヤンキーみたいでめっちゃ印象悪いんやけど」

「ああ、ごめん」

「……誠意は伝わりました。わざわざ友達をおいて追いかけてきてくれたみたいだし。それに約束守ろうとして俺を逃がしてくれたんですよね」

「まあそれは……うん」

「口止め料っていってそれ分の働きをさせた上で、あげた焼き鳥分の料金も取るって、めっちゃ悪徳な商売ですね」

「それはそう思う」

「急に真顔になんなや。もっと申し訳なさそうにしてろ」

「ははは」

「……その、さっきは嫌いとか言って、村瀬君のこと悪く言い過ぎたから、こっちこそ、ごめん……」

「いいって。全然気にしてへん。あのさ、……」

「……なに?」

「僕たち友達にならへん?」

「……友達ってそういう感じでなるもんなん……ですか? もっと自然に、気が付いたらなってるものやと思ってたけど、村瀬君は一人ひとりにいちいち告白してんの?」

「いいや、東藤だけや。『友達』は」

「はぁ……なんでもいいけど。『友達』ならなんかあるん? 友達割とか」

「とりあえず、連絡先教えて。東藤だけクラスLINEにおらんし」

「まあ……いいですけど」

「ありがとう! またあとで連絡するわ!」

「はい」

「そのうち2人でBBQしにいこな! そんで炭火で焼き鳥いっぱい焼こな! そんじゃまた明日!」

「え、うん。また明日。…………男2人でBBQはなんか嫌やなぁ……」

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