第13話 裏中等部校舎三階の討伐清掃2

 教室の前後の扉や、不自然に締まっている防火シャッターと、それとセットになっている非常口の先には行かず。全ての分かれ道の先、廊下の突き当りまで隈なく調べ、現れる怪異や魔物を討伐して往く。2時間ほど掛かり、扉の先以外は全て見て回る事が出来た。


「普通教室が8、特別教室のコンピュータ室が1、防火シャッターが5。内、非常口が付いて居るのが4つかあとは……」

「音楽室と、特別教室それぞれの準備室が見当たりませんでしたね。非常口も足りませんし、まだ奥が有るのは確実ですね!」

「まあ、そうなるよね~」


 情報魔術でマッピングした地図を見ながら、緑髪先輩と眼鏡先輩が教室や防火シャッター等の数を確認している。

 現実の校舎三階には、使われていない教室も含め普通教室は8つ、特別教室二つにその準備室となっている。階段は、非常階段を含めて三つにトイレが二ヶ所。防火シャッターは、非常口とセットの物が4つと教えて貰っている。

 例え迷宮の様に為っていても、この裏校舎は現実の校舎コピーなので、現実の校舎施設とある程度は共通するため、こう云った確認は割と重要な作業なのだ。


「なあ、キッツ―先輩にタツミン。今、俺の腹が猛烈に空腹を訴えて来てるんだが……」

「ん? そうか、もう昼だったね。一旦、昼食休憩を取ろうか」

「掃除は、何だかんだ言っても体力を使いますからね!」


 青髪先輩が空腹を訴えた事で、昼食を取る流れになっている。

 私も、何気にお母さんにお弁当を持たされているし、お昼近くになってお腹も空いて来た。確かに丁度良い頃合だと思う。


「君達も、それで良いかな?」

「良いですね。私も丁度お腹が空いて来た所なんで」

「私も良いですよ。でも、どこで休憩するんですか?」


 しおちゃんが昼食を取る場所を緑髪先輩に尋ねる。


「安全第一だからね。一度表に戻るよ」


 てっきり結界でも張って、昼食を取るのかと思ったが、一度きちんと戻るらしい。


「それにこんな所じゃ、折角の美味しいお弁当が、味気ない物になりそうだと思わないかい?」


 確かにこんな陰鬱な所で、お母さんの美味しいお弁当を、ゆっくり味わって食べられるとは思えないね。


「よっしゃっ! それじゃ一年坊表に戻るぞ! この海祇s……」

「海祇詞、迂闊に前に出るな。君は後衛だろうに!」


 お昼食べたさに、先行して先に戻ろうとする青髪先輩の首根っこを、緑髪先輩が捕まえ引き戻す。

 次の瞬間、ドゴンッ!! と音を立てて突如目の前に壁が出現する。

 

「ぐぇっ……、キ、キッツー先輩すんません。助かりました……」

「どういたしまして」


 突如出現した壁に、青髪先輩が顔を青くし、緑髪先輩に直ぐに感謝を述べる。

 緑髪先輩が引き戻していなければ、青髪先輩はペシャンコに潰されていたね。

 突如現れた壁の正体は、メジャーな妖怪のぬりかべの変異種か、その影響を受けた魔物と言った所だろう。

 しかし、こんな奴が出てくるんじゃ、マッピングはやり直しかな?


「これは、『detection』CODEを使用しながら、探索し直す必要が有りそうですね。はぁ~……」


 だよね~。まずは廊下の延長と分岐を無くしたい訳だからね。

 2時間も掛かったのにやり直しかぁ。


「ちょっとこの怪異は、僕と相性が良くなさそうだね」

「なら! この俺、海祇詞が……」


 緑髪先輩の武器はレイピアだし、使える魔法的にもぬりかべ擬きとは、相性が悪そうだね。

 ドカドカドゴンッ!! 私がちょっと考えてる内に、しおちゃんの鉄球がぬりかべ擬きを穿ちコンクリート片を散らす。

 だが、やはりぬりかべ擬きと言うべきか。壁の穴は直ぐに塞がって往く。


 おおっと! 私も攻撃しなきゃ! それにしても凄く壊し甲斐が有りそうだね!

 如何せなら一撃で倒そうと私は、三泉から流れ出る力を活性させ、秋素戔宮家伝わる体術『素戔惟神』に基づく身体操作技術、『瞬息駿動』へ意識を移行する。

 時間感覚が伸長され、時が止まったかの様に錯覚する。そして、その感覚を意識に残したまま、自身の身体からはその感覚を外す。すると如何だろう。時間停止した様な中、自分だけが普段通り動く事が出来る様になる。これが『瞬息駿動』だ。


 『瞬息駿動』を行い、最短距離でぬりかべ擬きに接近し、伸長された時間感覚と理を外れた動きにより生じる時空間の歪みを、拳に乗せて解き放つ!

 ドゴンッ!!!! ビシビシィィッッッバァ――――ン!!!! 

 私の拳が、ぬりかべ擬きに撃ち込まれた瞬間、ぬりかべ擬きの壁面に無数の亀裂が走り、一気に粉微塵に砕け散る。うん。スッキリ!


「さっすが、真緒ちゃん!」

「なるほど。これが秋素戔宮ですか」

「あっ……、ええ!?」

「お、おま、とんでもねえな!!」


 しおちゃんは、この技の事を知っているので、特に驚きはせず私の活躍を見て喜び、眼鏡先輩は秋素戔宮家の事を知っているのか冷静だ。緑髪先輩と青髪先輩は、動揺が隠し切れない見たいだね

 ちなみに今の技は、『素戔惟神 壊錠』と言う打撃技だ。技が作られた経緯は、天手力雄命が天岩戸を投げ飛ばしたのなら、自分は天岩戸をち壊すと言う、素戔嗚尊の謎の対抗意識によって生まれた技らしい。技の名前の由来は、どんな扉も錠前も纏めてち壊す事から、素戔嗚尊自ら『壊錠』と名付けたと、秋素戔宮家に伝わっているんだ。ほんとか如何かは知らないけどね。




 ぬりかべ擬きを倒した後。無事表に戻って来た所で、丁度お昼のチャイムが鳴り、班の皆と食堂に行きお弁当を食べる事に為った。本当は、さっちゃん達とも一緒にお弁当を食べたかったのだけど、生憎とまだ戻って来てなかったんだよね。残念。

 紫凰院学園は、中等部から既に給食制では無く。お弁当持参か、学食又は購買のパンやおにぎりを買ってお昼を食べるシステムだ。今日は入学式だけである為、学食や購買のパンなどは無い見たいで少しだけ残念かな。


「ねえねえ真緒ちゃん! 後でおかず交換しよ!」

「うん。いいよ」


 おかず交換を約束して席に着く。


「おかず交換か。僕ら男子には縁遠いなぁ」

「そうですね。僕なんて交換できるおかずが有りませんからね!」

「へっ、俺の弁当にはそもそも……」


 先輩方も席に着き、皆お弁当を鞄から取り出す。

 私も、食堂のテーブルの上に『にゃんくぅ~』のゆるキャラグッズの、白い蓋の付いた赤い容器のお弁当箱を取り出す。白い蓋に、『にゃんくぅ~』のゆるっとした顔が描かれていて、なんだか嬉しくなる。

 お弁当の中身は、唐揚げにウインナー,ミートボール,出汁巻き卵、レタスとブロッコリーにプチトマト、白いご飯に海苔で描かれた『にゃんくぅ~』と、恐らくご飯は二層になっているであろう海苔弁だ。

 二本ある水筒から、アツアツのお味噌汁とお茶を出し、準備万端だ。


「いただきます」


 お母さんお手製のお味噌汁とお弁当をちょこちょこと食べ、約束通りしおちゃんのおかずのミニハンバーグと唐揚げを交換したり、楽しくお喋りしてお昼を過ごせた。

 ちなみに、しおちゃんのお弁当は、デカ盛りサイズのお弁当箱に、ミニハンバーグとイカフライ,フライドポテト、それとミニおにぎりが沢山入った男子顔負けの、ガッツリ系のお弁当だ。勿論、お野菜も入ってたよ?

 ついでに、先輩方のお弁当は、緑髪先輩は大きいおにぎり三つにおかずだけのお弁当箱。眼鏡先輩はお手軽サンドイッチ。青髪先輩は、私のお弁当箱よりも小さいサイズのお弁当箱を使っていて、なんだかヨーグルトの様な物? を食べていた。


 昼食も終わり、午後の清掃を行うにあたって今日の清掃目標を定める。


「明日の校舎三階を担当する班が困らない様に、この班の清掃目標は廊下拡張の原因排除にしたいと思うんだけど、良いかな?」


「今日中に出来るか如何か分かりませんが。目標としては妥当な所だと思いますよ。亀津楯先輩」

「OKです」

「私もそれで良いですよ!」

「このスーパー退m……」


「そうか、ありがとう! それじゃあ皆、午後の清掃も頑張ろう!」

「はい!」

「おーっ!」

「おー」

「今この時、海のしおg……」


 しおちゃんが勢い良く手を突き挙げ、私も小さく手を挙げる。

 青髪先輩も、中二病全開で何か言ってるし、私も皆も気合は十分だね。

 今日中に廊下拡張の元凶を排除できるのか、正直分からないけど午後も頑張ろう!

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万象眼ノ討滅士 せのしすい @sinraseirin

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