ガレットの系譜
「オックスフォードに進学するそうだな」
後ろ手に手を組み、窓の外を眺めたまま父は言った。
ハムステッドの高台にある邸の書斎からはロンドンの町を一望できる。
父は普段ここで仕事をしている。経営する新聞社は市の中心部に社屋を構えているが、ロンドンでの居宅になるこの場所のほうが落ち着いて仕事が出来るのだろう。私が訪ねて行くと伝えた時も、社屋ではなくこの邸に来るように言われた。
「ええ・・・」
私は父の背中に向かって答えた。
何か言葉を続けるべきところだが、何を言っても言い訳になるような気がして、私は父の肩越しに父が見ているのと同じ景色をただ眺めていた。
「援助はしないぞ」
低く抑えた父の声には怒りが滲んでいた。
まるで訣別を告げるかのような言葉に、私は少なからぬ動揺を覚えた。別に父の心変わりを期待していたわけではない。ただ、私の決意を認めてほしかった。
「分かっています」
私は抑揚のない声で答えた。真実を語れぬもどかしさと、それが故にわかり合えぬ悲しみを悟られぬように。
これで親子の縁が切れるわけではない。
そんな風に構えていた私は甘かったのだろうか。いや、あの時の私にそこまでの覚悟を求めるのは酷というものだろう。よもやあの日が文字通り父との訣別の時になろうとは・・・。
「学費はどうする。生活費はどうやって工面するのだ」
長い沈黙の後ようやく父は振り返り、少し父親らしい顔を覗かせた。
「何とかします」
私はそれだけ言うにとどめた。
父を安心させるようなことを言えば嘘をつくことになる。さりとて、本当のことを言えば『教授』との約束を破ることになる。
父はしばし私の顔を見つめ、いかにも嘆かわしげに頭を振った。そして、マホガニー材の立派な机の後ろにどかりと腰を下ろした。
「なぜだ。なぜ、オックスフォードにこだわる。他の大学なら援助は惜しまんと言っているのだぞ。他の学生と同じ様に何不自由のない大学生活を満喫できるというのに、なぜ・・・。なぜ、わざわざいばらの道を歩く?」
「いばらの道だとは思っていません。僕のほうこそ聞きたい。なぜオックスフォードへの進学に反対するのですか」
私の反論を予期していなかったわけではないだろう。しかし、父は真一文字に口を結んで黙り込んでしまった。
ちょうどその時、姉のケイトリンが顔を覗かせなければ、気詰まりな沈黙が続くところだった。
「あら、どうしたの、二人とも。難しい顔をして」
姉は盆に載せたティーセットを書斎の隅のキャビネットに置き、カップを並べた。
「久しぶりに顔を会わせたっていうのに、喧嘩なんかしないで仲良くなさい」
折りよく姉が入ってきてくれたことに、私は胸をなでおろした。
父は頑固者だ。私にも頑固なところがある。他ならぬ父から受け継いだ性癖だ。一度歯車が外れると、父とはまともに会話を続けることさえ難しくなる。ところが女性とは不思議なもので、母や姉がそばにいると噛み合わなかった歯車がうまく回りだす。
ケイトは父の仕事に随行して身の回りの世話をしている。父の私設秘書兼世話係を自ら買って出たのだ。ハムステッドの邸には通いの女中が一人いるきりで、庭や建物の手入れなどで手が要る時に人を呼ぶ以外、家事全般を取り仕切るのは姉の仕事だった。
姉は地元のノッティンガムでも評判が立つほどの器量よしで、身びいきを差し引いても、気立てのよい女性だった。私と同様高校までは寄宿学校で過ごしたが、卒業して家に戻ってからは求婚者が後を絶たなかった。母は早めの結婚を望んだが、当の姉は頑固者の父と気が合うらしく、今の暮らしを離れる気はなさそうだった。
「少しブランデーを垂らしてくれ」
姉の淹れる紅茶に父が注文をつけた。
父は好んで酒を飲むほうではなかったが、キャビネットには数種類の酒が並んでいる。来客時や、今のように不意に飲みたくなる時があるのだろう。
ソーサーとカップを父の机の上に置いた後、ケイトは私にもお茶を差し出した。
「今日は泊まって行くんでしょう?」
「いや、この後学校へ戻るよ」
「今からシェフィールドへ?それじゃ、ゆっくりできないわね」
姉は顔を曇らせた。
「ああ、昼にはここを発つよ」
「じゃあ、馬車で駅まで送るわ。お昼を一緒に食べましょうよ。それぐらいの時間はあるでしょう?」
昼食のことなど頭になかった私は、ただ肩を竦めるばかりだった。
日常茶飯事を処理する手際にかけて姉の右に出る者はいない。秘書として父が姉を買っている所以だ。
「ね、お父様。たまには外の食事もいいでしょう?」
「二人で行って来なさい。私は家でやることがある」
「もう、いつもそんなこと言って、出不精なんだから。たまには社屋にも顔を出さないと、会社を乗っ取られちゃうわよ」
冗談交じりの姉の叱責に父は頬を緩めた。息子の私には見せることのない表情だ。
「分かった。だが、マークとの話がまだ終わっておらん」
「じゃ、私、馬車の手配をしてくるわね」
「待ちなさい」
部屋を出て行こうとするケイトを父は呼び止めた。
「今、大事な話をするところだ。我がガレット家の系譜に関わる話だ。お前にも聞いてもらいたい」
いつになく重々しい父の口調に、ケイトは口元を引き締めて頷いた。
「ジャネットに馬車の手配を頼んでくるわ。お昼もいらないって言っておかなくちゃ」
軽やかな足音が廊下を遠ざかって行った。
「早いものだ」
優しげな眼差しで姉の出て行ったドアを眺めながら、父は呟いた。
「まだほんの子供だと思っていたが・・・」
私は姉に対してかすかな嫉妬を覚えた。姉に対する時と私に対する時で、父の態度は明らかに違う。父はケイトと同じように私を愛してくれているのだろうか。息子の私に対して父は過分に厳しいのではないか。私のオックスフォード進学の話が持ち上がって以来、父の心のそうした部分が浮き彫りになってきているような気がした。
「お前もだぞ」
私の心を見透かしたように父は言った。
「久しぶりに会ってみれば、いつの間にか背も伸びて私を見下ろすようになった。もう立派な大人だ。だが、二人ともまだ世間の怖さを知らぬ。若い頃には気付かぬものだが、世の中の波はお前達が思う以上に高い。その波に呑まれぬよう、しっかりと立ってほしい。親が子に願うのはそれだけだ」
気遣わしげな父の眼差しに、私は自分の幼さを恥じた。世に子を思わぬ親があるだろうか。
程なくケイトが戻って来て、私と共に来客用のソファに腰を下ろした。
父は大きな書き物机の向こうで椅子の肘掛に体をもたせかけ、少し横を向いて足を組んだ。そして、姉の注いだブランデー入りの紅茶を一口啜ると、おもむろに話し始めた。
「我がガレット家は今でこそノッティンガムの地に根を下ろしているが、その系譜を辿れば出自はスコットランドに至る。知っての通り、かの地はケルト文化の影響を色濃く残す土地だ。現在は大英帝国の一部としてヴィクトリア女王の統治下にあるが、イングランドとは歴史的背景が異なる。文化的側面を見ても、この十九世紀の世に至るまで独自の風俗や習慣を残している」
我家の出自がスコットランドにあることは知っていた。しかし、その頃の私に家系への特段の興味はなく、とうに過ぎ去った古い時代と現在の自分が深く結びついているなどという意識は持ち合わせていなかった。
「その歴史に少なからぬ影響を与えたのがテンプル騎士団だ。ローマ・カトリック教会の弾圧を受けて歴史の表舞台からは抹殺された集団だが、その全てが失われたわけではない。大陸での弾圧を逃れ、スコットランドの地で密かに命脈を保った者たちがいたのだ。歴史の敗者たる彼らについては余りよい評判は残されていないが、かの地においてはやや事情が異なる。
テンプル騎士団は、キリスト教世界の聖地奪還を目的とした十字軍に端を発する。それがなぜ、教会から弾圧を受けねばならなかったのか。その経緯については諸説あるが、中世ヨーロッパにおいて最強の軍事組織と謳われた彼らの勢力拡大を阻止したかったというのが一つだろう。この点においては、ローマ法王庁と各国王室の利害は一致していた。どちらもテンプル騎士団の政治介入は望むところではなかった。
もう一つは、彼らがヨーロッパ世界に持ち込んだ異教の文化にあった。キリスト教の聖地エルサレムは、ユダヤ教やイスラム教にとっての聖地でもある。十字軍は聖地奪還を果たしたものの、裏を返せば、それはその地に根付いた文化を吸収することでもあった。キリスト教圏の版図が拡大し、交易によって多大な利益がもたらされると同時に、かの地で発達した学問や思想もヨーロッパ世界に流れ込んだ。この点では、十字軍遠征はローマ教会の思惑を外れ、裏目に出たと言わざるをえない。民衆のキリスト教への信仰をより強固なものにするはずが、他の宗教や思想の流入を招けば、ローマ教会の権威が揺らぎかねない。そこで槍玉に挙げられたのがテンプル騎士団だ。彼らが異教の世界から持ち込んだ儀式や典礼、占星術や錬金術などが魔術や悪魔崇拝と結び付けられ、神への信仰を脅かすものとみなされた。テンプル騎士団は、ローマ教会が支配する世界から排除の対象とされたのだ。
さらにもう一つ。
テンプル騎士団は単なる戦闘集団ではなく、上層の幹部には知識階級に属し、異国の学問や古の秘術に通じる者も多かった。彼らの好奇心は現在のヴァチカンに秘匿されるローマ教会の秘密にも迫っていた。
古代アレクサンドリア大図書館の焼失により失われたかに見えた旧世界の叡智はビザンティン書庫に受け継がれ、千年の時を経て更なる発展を遂げた。新プラトン主義やユダヤのカバラ哲学、神聖幾何学などに関するこれらの教えは、ビザンティン帝国の崩壊に伴って西ヨーロッパに流入した。その受け皿となったのがイタリアだ。メディチ家の支援を受けて創設されたプラトン学院(アカデミー)に集積された書物はそのままヴァチカンに持ち込まれた。この知識や思想の流入がルネッサンスの引き金になったとも言われている。
現在もヴァチカンには古今未曾有の書物が眠っているが、その中には異教の教えを説くものもあり、これが外に洩れることはローマ法王庁の望むところではない。ヨーロッパでテンプル騎士団が暗躍した当時もそれは同じだった。
こうした事情が相まって、テンプル騎士団はローマ教会との対立を深め、結果的にキリスト教世界から排除されることとなった。謂れなき迫害とは言えぬまでも、民意を煽動する教会の宣伝戦略(プロパガンダ)に見事に利用されたわけだ。
大陸に居場所を失った彼らに安息の地を提供したのが、スコットランドの王侯貴族だった。イングランドと対立関係にあった彼らが中世最強を謳われたテンプル騎士団を喜んで迎えたであろうことは想像に難くない。一方のテンプル騎士団にとっても、海の向こうからの誘いは渡りに舟だった。
こうした事情の下、先住の土着民が育んだケルト文化、大陸を経由して伝わったキリスト教、そしてテンプル騎士団が持ち込んだ異教の思想が渾然一体となって、今日のスコットランドを創り上げたのだ」
ここまで一気にまくし立てた父はお茶で唇を湿し、ふうっと息をついた。
「テンプル騎士団って単なるカルト集団じゃなかったのね」
ケイトは傍らの私に向かって言うともなく呟いた。
「馬鹿者。ご先祖に対して罰当たりなことを言うでない」
一喝する父の声に、私たちは椅子の中で飛び上がった。
私たちが幼い頃からの父の癖だった。講釈の最中に的外れな質問でもしようものなら、いつも父の怒声が響き渡ったものだ。
まさに子供にかえったように、私たちは首をすぼめて顔を見合わせた。
しかし、私を驚かせたのは父の怒鳴り声だけではなかった。父の口走ったその一言に、私はがんと頭を殴られたかのような衝撃を受けた。姉も同様だった。
「それって、テンプル騎士団が私たちのご先祖ってこと?」
ケイトは目を丸くして父を見やった。
「うむ」
父は厳粛に頷いた。
「お茶をもう一杯淹れてくれ」
大きな声を出したことを詫びるかのように、父は穏やかに言った。
ケイトはソファから立ち上がり、キャビネットの上のポットを取って父のカップにお茶を注ぎ、それから私と自分のカップにも注いだ。
私はぼんやりとその様子を眺めながら、父の言ったことを考えていた。
やや子供じみた解釈かも知れないが、テンプル騎士団というのは要するに、キリスト教世界に異教の教えを広めようとした異端者の集団ではないのか。だとしたら、彼らがキリスト教の支配する大陸において追放の憂き目を見たのは自業自得ではないか。しかし、それが自分の先祖の話だとなると、私は心穏やかではいられなかった。
私はクリスチャンだ。自分の家族もそうだと信じてきた。父の話は一族の根幹を揺るがしかねない由々しき問題を孕んでいる。
ところが、話はそこで終わらなかった。
「さて、ここからが本題だ」
父は仕切り直しに一つ咳払いを入れた。
「テンプル騎士団が海を渡ってまで生き延びねばならなかったことには理由がある。
ローマ・カトリック教会による弾圧は熾烈を極めた。火刑など後に魔女狩りと称される蛮行は、テンプル騎士団への迫害に端を発する。住み慣れた土地を捨て異国に逃れてなお、教会の追求は止まなかった。それほどの目に遭いながら、なぜ彼らはテンプル騎士団の名を捨てなかったのか。キリスト教に帰依すれば許される者もあったであろう。他の土地へ移れば、もとの素性を捨ててやり直すこともできたであろう。実際にそうした者も少なくなかった。しかし、スコットランドへ渡ったテンプル騎士団はその命脈を保った。貴族の庇護を受けたとは言え、それは危険な綱渡りだったはずだ。彼らはテンプル騎士団という素性を隠しはしたが、決してその名を捨てなかった。
なぜか。
彼らには守らねばならぬ使命があったのだ。それは騎士団員個々の命よりも重いとされ、また、組織として伝え残してゆかねばならぬ秘密でもあった」
人の命よりも重い秘密・・・。
いかにも古臭いカルトじみた考えだ。テンプル騎士団というのは、やはり狂信者の集団ではなかったのか。
父には申し訳ないが、話を聞くほどに『テンプル騎士団』という言葉が纏う胡散臭さが増してゆくような気がした。
横を見ると、ケイトは魅入られたように父の話に聞き入っている。
女というやつはこの手の話が好きらしい。
「テンプル騎士団の末裔として我がガレット家に課された使命とは、人類普遍の叡智へと繋がるある秘密を守ることだ。その秘密は、我がガレット家のみが担うものではない。叡智の守人として我が同胞らがそれぞれ担う秘密を組み合わせることによって、古代世界より受け継がれてきた人類の至宝に至る道が開かれるのだ。
その秘密を担う当事者である私自身、それが何であるかは知らぬ。知ることを許されてもいない。私は人類の叡智を受け継ぐ巨大なシステムの一部に過ぎない。しかし、それこそが我家の伝統であり、誇りでもあるのだ」
真っすぐに私たちを見つめ、熱のこもった口調で語る父に水を差すつもりはなかった。しかし、実のところ私はやや冷めた目でその様子を眺めていた。
19世紀科学の時代の目から見れば、テンプル騎士団の守ってきた秘密など、最早前世紀の遺物でしかない。そんなカビの生えた古い風習を後生大事に抱えていることに何の意味があるのか。
私の心に芽生えた猜疑に気付く由もなく、父は続けた。
「ところが、我々が守ってきた大切な秘密を、興味本位に暴きたてようとする輩がいる。我がテンプル騎士団の歴史やその使命を学問の対象として研究する者たちだ。
ここまで話せばもう分かるだろう。
オックスフォードにはその研究機関があるのだ。奴らの関心は単に歴史の解読を進めることにあるのではない。人類の至宝たるその叡智を、私利私欲のために利用しようとしているのだ。テンプル騎士団の天敵とも呼ぶべきその者たちは、巧みに我が同胞の間に紛れ込み、少しずつ我々が守ってきた秘密を盗み出している」
はあ。
私は心の中で溜息をついた。
歴史は学問の一分野であり、その謎を紐解くことは学徒たる者の務めではないか。学問の都である大学でそれを研究して何が悪いのか。
オックスフォードに対する父の糾弾が、私には理不尽なものに思えた。
「ガレット家が守っている秘密ってどんなものなの?」
ケイトが尋ねた。
「ヘブライ語で書かれた詩の一節だ。文書にすれば四百行に及ぶ大著だが、それ自体が暗号化された秘密の一部に過ぎぬ。これだけでは内容を解読することに大きな意味はない。ガレット家の嫡男が成人に達した暁には継承の儀を執り行い、一族に伝わるこの詩文を暗誦せねばならぬ。
マーカス、近い将来、お前もこの秘儀を受けることになる」
厳粛な面持ちで、父は私に告げた。
「なんだ、女は蚊帳の外ってわけね」
ケイトは口をとがらせた。
「騎士団の伝統でね。女性は入れないのだ」
「ふうん」
「テンプル騎士団の流れを汲む家系の中でも、この栄誉を担っているのはごく一部の家だけだ」
「男の跡継ぎが生まれなかったら?」
「その場合は、然るべき家系の中から養子を迎えることになる」
「ふうん。うちにそんな伝統があったなんて、全然知らなかった」
「今日話したことは、絶対に外に漏らしてはならぬ。よいな」
父は私たち二人の顔を眺め、厳しい顔で釘をさした。
「ところで、うちは代々キリスト教の家系じゃなかったの」
姉が尋ねた。
それは私にとっても重要な問いだった。
「テンプル騎士団は宗教ではない。かつてヨーロッパ世界に異国の教えをもたらしたことは事実だが、彼ら自身が異教徒であったわけではない。我々も、私たちの先祖も歴としたキリスト教徒だ。そのことと一族に伝わる伝統は別物だ」
「それを聞いて安心したわ。ね、マーク」
そう言われても、私の心は釈然としなかった。
父が私にオックスフォード進学を断念させたい理由は分かった。だが、私にはそれが自分の意思を曲げてまで従わねばならぬ理由とは思えなかった。
私と父の間には家系や伝統といったものに対する考えに隔たりがあった。父は私がそれを受け容れる事を期待し、またそれを当然のことと考えている。一方の私には、そこにそれほどの意義を見出すことができなかった。この温度差をどう説明すればよいだろう。
私は苦悶した。
父を傷つけたくないと思う一方で、オックスフォード進学を諦めたくはなかった。いや、私の心はすでに固まっていた。
シェリルのいるオックスフォードへ。
「マーカス」
父の呼びかけに、私ははっと我に返った。
「我々に選択の余地はない」
我々というのは勿論、父と私のことだ。
私はこの決め付けに反感を覚えた。
「少し、考えさせてください」
それがその時の私に出来る精一杯の答えだった。
しかし、私の最大限の譲歩にさえ、父は顔を曇らせた。
お前には失望した。
溜息まじりの父の声が聞こえてくるようだった。
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