提案
「そうか。父上はだめだと言ったか」
父から進学の許可を得られなかった話をすると、教授は溜息まじりに呟いた。
いつもの研究室。
安楽椅子に身を沈めるその姿は、いつになく寂しげに見えた。
「差し支えなければ、お話し頂けませんか・・・」
私がそこまで言うと、教授は彫りの深い眼窩の奥からじろりと私を睨んだ。
「父との関係を・・・」
私は何とか言葉を継いだ。教授の視線は威圧的だったが、聞かずにはいられなかった。目上の人間に立ち入った質問をすることが非礼に当たるとしても、私にはそうした社会通念を顧みる余裕はなかった。それに、これまでの面会で教授とはかなり親しい間柄になったつもりでいたのだ。
「ふん」
教授は鼻を鳴らした。
「父上と私の関係が進学の妨げになるとでも思ったのかね。だとしたら、それは邪推というものだ。よしんば、君の父上が私に憎しみを抱いていたとしても、ただの一個人への感情が君の大学進学を阻むなど、ナンセンスだよ。安心したまえ。父上と私の関係はそんなものではない。父上には父上の考えがおありなのだろう。
それはさておき、父上の同意が得られないとなれば、別の手を講じなくてはなるまい」
教授は腕を組んで目を閉じ、少し考える風をした。
教授にとって父の反対は最初から予想された展開だったのではないだろうか。
少々芝居がかった仕草は、私にそんな疑いを抱かせた。
「こうしてはどうだろう」
やがて目を開けると、教授は言った。
「君の進学の費用と在学中の生活費は私が工面しよう」
「え?」
いきなり示された好条件に私は耳を疑った。
いくら私が世間知らずでも、何か裏があるのではないかと疑いたくなる。たとえ教授の側に私に肩入れするどんな理由があるとしても。
「私の助手を務めることに対する報酬だと思えばいい。後で返してくれとは言わんよ」
教授はさりげなく肩をすくめて見せた。大した問題ではないとでも言うように。
私としては、助手として働くことに依存はなかった。いや、教授の助手を務めることは大学における学業以上に価値のあるものとなるだろう。むしろ望むところだ。
私の心に引っかかったのは、父の反対であった。とりつく島もない態度の裏には、余人に明かせぬ理由があるのだろう。金の工面がついたからと言って、それを押し切ってまで進学する意味がオックスフォードにはあるだろうか。
父と教授の間で私は葛藤した。
しかし、不可解な父の態度に対する懸念は拭えなかったものの、私の心はすでに決まっていた。大学の名前などよりも心引かれるものがあった。
教授の助手になるということはつまり、シェリルとの関係が続くということだ。
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