エクスプローラーキョウコ

最時

北アルプス横断

 冬期北アルプス横断。

 8000m登頂経験もある有名な女性登山家キョウコさんと先頭を交代しながら道を切り開いていく。

 元々の予定では他のパートナーの人と行く予定だったらしいのだが、体調不良で行けなくなり、急遽俺が呼ばれた。

 七日はかかる行程。学生である俺に白羽の矢が立った。

 このルートの踏破は目標の一つで、踏破しているベテラン登山家のキョウコさんに連れて行ってもらえることは大きなチャンスだった。


 俺よりも一回り以上年上で女性にもかかわらず、先頭を歩く時間は俺より長いくらいだ。噂通りただ者ではない。しかし気になることも

「キョウコさん。荷物少ないですよね。何キロくらいですか」

「30kぐらいかな。長丁場だけど絞れるところは絞らないと大変だからね」

「俺は40kぐらいです。これでも絞ったつもりなんですけど流石です」

「それだけの荷物持ってもこれだけ歩けるなんてすごい。地元山岳部だね」

「一応、トレーニングはしてます」

「私も昔はそれくらい持てたんだけど、今は経験でカバーかな」

「勉強させてもらいます」

「うん。付き合ってくれてありがとう」

「こちらこそ。このルート行きたかったんです。声かけていただいてありがとうございます」

「このルートは本当に凄いから。あと、ごはんもおいしい」

「へー、ごはんもおいしいんですか」

「焼き鳥♡」

「焼き鳥好きなんですか」

「ここの焼き鳥最高だから、食べさせてあげる」

「ありがとうございます」

 真空パックか缶詰かな?


 長い行程。時間的にも疲労的にも初日はこのくらいがいいなとキョウコさんに声を掛けてみる。

「キョウコさん。今日はまだ行きますか?」

「もう少し行けば、ごはんがあるから」

 そう言って印の付いた地図を見せてくれた。

 秋くらいに食料を置いておいたのか。それで荷物も少なくてすむんだな。

「秋に食料置いてましたか?」

「してないよ」

「?」

 どういう意味だろう?

 しばらく歩いて再び質問してみる。

「キョウコさん食料は何持ってきたんですか?」

「お米かな。ちょっと重いんだけどね」

「俺はアルファ化米です。だけど米の方がいいですよね」

「私、アルファ化米は少し苦手で」

「そうなんですね。他に副菜的なものは?」

「副菜というかメインは焼き鳥かな」

「焼き鳥そんなに持ってきているのんですか」

「持ってきてないよ」

「んっ?」

「現地調達。全部食べれば栄養価も高いしね」

「そうなんですね(現地調達? 全部?)」

 何か違和感を感じた。


 しばらく歩いてキョウコさんが

「今日はここで泊まろう。悪いけどテント張っててくれる。ごはん見てくるから。」

「はい・・・」

 キョウコさんはピッケルを持って行った。

 なんとも言えない不安感があった。


 テントを設営しているとしばらくして

「ぇぃっ」

 遠くでキョウコさんの声が聞こえた。

 きっと食料を掘っているんだろうなと思いたかった。


「取ってきたよ」

 キョウコさんの手にはまるっこい白いものが

「ライチョウじゃないですか!」

「人聞き悪い。トリだよ」

「絶滅危惧種ですけど」

「大丈夫。キツネさんとかタカさんとかみんな食べているから」

「みんな食べてるから保護されているんですけど」

「大丈夫。捕って売ろうとかそういうわけじゃないから。トリさんは私の中で生き続けるから」

「・・・」

 キョウコさんはライチョウでなくトリを手際よくさばいて、そして焼き始める。

「ここ歩く人はみんな食べているから」

「えっ、そんなことはないと思いますけど・・・」

「世の中知らないことの方が多いから。ほら」

 差し出された焼き鳥の味はこの場で最高だった。

「おいしい」

「でしょ。前回ここではとれなかったんだけどね。今年はたくさん食べれるといいな♡」

「そっ、そうですね」

 後ろめたさと欲求。犯罪者の心理を感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エクスプローラーキョウコ 最時 @ryggdrasil

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説