焼きトリノ串、もう一本
汐凪 霖 (しおなぎ ながめ)
それは、彼の一言から始まった
「ねぇ、シューイチ! ぼく、焼き鳥が食べてみたい」
来日して以来、彼は連日、遠慮なく榊原家に訪れては、和食を
外国人にも有名な和食である寿司、天婦羅、鋤焼、蕎麦や饂飩、鰻などは彼にとっては目新しくもなく、新しい出会いを求める気持ちが強いのもあって優先順位的に選択肢から消える。最近では、「そうくるか」と思わせるようなメニューを望んでくるのだが、一体どこでそれらの知識を仕入れてくるのだろう。
「リッポ。またSNSで物色したの?」
カルミレッリの笑顔がセラフィーナに向けられる。
「うん。便利だよねぇ。写真とか動画が付いてるから、どんなのか、すぐに分かるんだもん」
ということらしい。
疑問が解決したので、集一は実際的なことに考えを移した。
「焼き鳥か……専門店が近くにあったかな……?」
頭の中に地図を描きながら呟くと。
「パーパ。うちで作ればいいんじゃない?」
それもいいのだが、イタリア人であるカルミレッリが求めるのだ。出来るだけ、炭火で焼かれた本格的なものを味わってもらいたい。それに、専門店ならば、ハツやまめ肝、きんかん、ヤゲン、ぼんじりといった家庭では難しい部位も食べられる。そう話すと、娘は驚いたようだった。彼女にとっては、焼き鳥の種類とは、モモやネギマ、鶏皮、つくね、軟骨くらいで、ささみでも作れそうだな程度であったらしい。
「おじーさまなら、美味しいお店を知ってそうだね」
両親の反応に気づいていないわけでもないが、美弦は手早くメールを送信する。程なくして受信音が鳴った。早い。
「ここ、御座敷の個室もあって、詩音と歌音も大丈夫みたい。掘り炬燵の造りだからカルミレッリもセラフィーナも楽な体勢で食事が出来るよ」
「あ、素敵!『ツバキ』と雰囲気が似てるじゃない」
美弦が送信されてきた店舗内の画像を皆に見せると、セラフィーナが歓声を上げた。その一声は、彼女の母と同じ力を有する。
斯くして一同は焼き鳥専門店『とり香』の座敷に並んで座った。
食事に時間をかけたくない癖に美食家を名乗る誠一が薦めるだけのことはあって、とても旨い。
詩音と歌音も、つくねが非常にお気に召したらしく、代わる代わるカルミレッリに食べさせてもらい、三人でご満悦だ。
「あ~可愛いし美味しいし幸せだねぇえ」
最高に機嫌よく、彼はすっかり持ち慣れた箸を使って白飯を口に運ぶ。詩音に、歌音に、それから持ち替えた別の箸で自分に。
少し困ったように、それでいて嬉しそうに、結架が微笑う。
山盛りになった串の皿を脇に、彼は頷いた。
「うん、やっぱり、もう一本、追加で!」
焼きトリノ串、もう一本 汐凪 霖 (しおなぎ ながめ) @Akiko-Albinoni
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