第92話 エピローグ


 色々な人の視点が入ってきます。

 視点毎に時間の経過が違うのでご了承ください。


―――――


 私高橋綾乃。


 後数日で冬季の授業も終わる。そうすればまた明人とは二ヶ月会えない。そして三年次は彼と同じ履修科目は極端に少なくなる。

 

 私は焦っていた。大学に入った頃は四年間で明人の心を私にもう一度向けさせれば良いと思っていた。

 でも現実は一条さんと別れていなく、柏原さん、鏡さんという新たなライバルが現れていた。


 このままでは進展どころか、明人の心の中から私が消えてしまう。だから私は決断した。明人に話しかけると。


後数日で彼と同じ授業も終わろうとする一月終わり、私は学食から出て行く彼を追って外に出た。


「明人」

彼が振り向いてくれた。

「…………」


「明人、話が有るの」

「何?」


「私が…、私がもう一度と明人と話が出来る様にならないかな?」

「綾乃、お前は俺に何をした」


「そ、それは…。で、でももし明人が許してくれるなら私なんでもする」

「なんでも?もしそれが本当なら許すから二度と俺の前に姿を現さないでくれ」

「そんな……」





「綾乃、…お前なら俺以外にもお前を大切にしてくれる男がいるだろう」


「えっ!…………」


 私は改めて彼の顔を見た。

 まるで知り合った初めての時の様な優しい顔をしていた。


 そんな!私は彼が言った言葉が、己自身が行った過去の行いの過ちが如何に間違っていたかを彼が教えてくれる言葉だった。


 涙が止めどもなく溢れて来た。声は出さない。でももう彼の姿が見えない位涙が止まらなかった。


 私は何て愚かな事をしてしまったのか。明人の今の言葉、彼の心をもっと早く知っていれば。


 たまらずに何も考えられなく明人の胸に飛び込んで行った。彼は私を避けなかった。どれだけの間泣いたのか分からなかった。


 彼は私を抱き絞める事も無く、ただ私の我儘を受け入れてくれた。


「明人、ごめんなさい。本当にごめんなさい」


 もう少しこのままで居たかったけど、明人が


「綾乃、もうこれが最後だ。幸せになれ」


 また止めどもなく涙が溢れ出て来た。自分のハンカチでは足らない位。明人が彼のハンカチを私に渡して

「じゃあな」


 それだけ言うと私から離れて行った。


 何も考えられない一ヶ月だった。彼の心の中も分からずに自分勝手に思い込み、自分勝手に行動して、全てが自分で一人で踊っていただけだった。

 もっと早く彼に素直になっていれば…………。


 更に一か月後の三年生になる四月に私は岩崎君もご両親とお会いした。それから一ヶ月位して彼のご両親からお話が有った。私の過去を調べたらしい。


 仕方ない事だと思って彼に正直に話した。これで嫌われても、それで元々だ。でも彼は両親を説得してくれた。


 自分の妻となる人の責任は全て夫である自分が持つと言って。まだお付き合いもしていないのに。でもそれで私の心は動いた。

 その後、更に三か月後の八月に私は彼を受け入れた。


 そして三年後、私が医師免許の取得後婚約した。岩崎君、彼は既に岩崎産業次期社長の立場専務として彼のお父様の仕事を補佐する勤めをしている。


 明人、ありがとう。そしてさようなら。



…………。


私鏡京子。


 私が三年になる前の三月。お父様に呼ばて実家に帰った。そして医院長の息子と仲良くなれと。

 その後、お父様が医院長選で敗れれば分院に飛ばされると言って来た。


 自分の娘を出世の道具にするなんて父親として最低と見据えた私は最終手段に出た。もちろん明人を説得して。彼は最初反対したけど納得してくれた。


 そしてその後何度も、彼の大切な物を私の体に受け入れた。でも、でも三ヶ月経っても妊娠の兆候は無かった。


 そんな時、私がインターンとして入っていた医局に私を訪ねて来た男がいた。


「鏡京子さんですね」

 身長は明人程ではないけど、優しい顔の人だった。そうお父様の大学病院医院長の息子だ。


 お父様の事もあり彼と話をする事だけは受け入れた。彼は優しかった。私に何も強制しない。いつも私の意見を尊重してくれた。


 明人とはその後もしたけど妊娠の兆候は無かった。私は明人との相性に不安を感じた。


 そしてお父様の医院長選間近の時、彼が一言言った。

「僕とお付き合いして頂けませんか」と。


 この男の腹の中が見えて来た。最低な男だと思った。でもお母様からの電話、

「お父様を助けてあげて」


 もう引き返す道は無かった。明人との相性も気になっていた。


私は彼の申し出を受け入れる事にした。


それからが四年が経った。お父様は医院長になり、私の婚約者は外科部長の最有力候補として執刀医をしている。腕も良い様だ。ライバルであった内科部長は分院に飛ばされた。


 私は将来、大学病院医院長夫人としての立場が約束されている。でも心の回廊は風が吹いたままだ。


「明人……」



…………。


私柏原桃子。


 水森君との関係に全く脈が無いと知ってから同じ塾の講師、私と同じ帝都大の一年先輩の人と仲良くなった。


 彼は大学卒業後、一流企業に就職したが、性に合わないとして塾に戻って来た。塾はフランチャイズ。先の塾長の席を彼がついで私が補佐する立場になっている。


 彼も私も帝都大出身であり、帝都大への合格率が高まったことから前の塾長が経営していた時より人気のある塾になっている。


 もっと華やかな人生を思っていたけどこれも良いのかなと思っている。



…………。



私一条紗耶香。ううん水森紗耶香。あっ、こう言うとバレちゃうかな。


 高校の時から付き合って色々有った。最大の難関は鏡京子。彼女は高校時代からずっと明人を私から奪おうとして色々画策していたけど、


彼女が五年生の春、私達が四年になった時、私の知らない人と婚約した。明人も知らなかったらしい。本当はどうか分からない。でも彼は私に話してくれない。もう過去の事だとして。


でも私はそんな事どうでもいい。


私は大学を卒業した後、外資系医薬品の会社に勤めた。彼は大学で働いている。全然薄給だけど、そんなこと構わない。

 

 随分言い寄る人がいるけど、私の左薬指には彼との一生の契りの証があるから。それを見せるとみんながっかりして諦めてくれる。


 ふふっ、お腹にはあと五ヶ月で生まれる彼との結晶もいる。私はいつもお腹を優しく触りながら言うの。


「良かったね」って。それは私への自分の心の声。


「ただいま」


あっ、彼が帰って来た。




 終わり



―――――

 

 今までこの作品を読んで頂いた読者の皆様、大変ありがとうございました。

 そして大変多くのご意見を頂き、大変嬉しく思っております。


 いかがでしたでしょうか。最後の最後での明人の綾乃に対する気持ち。読者様から思い切り何か言われそうですが、彼の綾乃への純粋な気持ちです。


 そして、明人を取り巻く女性たちの大学卒業後の運命いかがでしたでしょうか。誰が幸せで誰が不幸なんて野暮な事は言いません。

 でもこんな現実もあります。


 最後に私個人としては紗耶香推しだったので…。えっ!この終わらせ方はそれが理由。と言われてもご想像にお任せします。


 最後ですがもう一度、

 今までお読み頂いた読者の皆様大変ありがとうございました。


 新作も読んで頂ければ幸いです。

「寝取られた元カノ?、知らない許嫁、陽キャな幼馴染も皆要らない。俺の望みは平穏な高校生活だ!」


https://kakuyomu.jp/works/16817139555364588255



面白かったと思って頂ける方、ぜひご評価頂けると次作の投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


なお、頂いた本話のご感想のご返事は都合で六月二十二日以降になります。

ご理解の程宜しくお願いします。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の彼女は静かで優しい女の子だった @kana_01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ