第91話 時間は問題を解決してくれない


時間の流れが速くなります。


―――――


 ちょっと明人視点


 二年生になり、秋を迎えていた。正月の件が有って以来、紗耶香と京子さんとの距離は当分になったままだ。どちらが近くになったという事もどちらが遠くになったという事もない。


 変わったと言えば、綾乃が前程俺に執着して来ない様に感じる。俺としてはとても助かる。

 柏原さんも塾の同じ講師と仲が良いみたいだ。前の様に帰りにお茶だ夕食だと言って来るのが少なくなった。


 紗耶香はあれ以来大学ではサークルには入らずに過ごしてる。いずれゼミで知り合いも出来るだろうけど。


 京子さんは、三年になり大分勉強が忙しくなってきたようだ。勉強を兼ねたサークルにも積極的に参加している。


 俺も誘われたけど、止めておいた。正月に姉ちゃんが提案した事を考えるとどう見ても紗耶香とのバランスが崩れる。紗耶香が怒るのは間違いない。変に動いて今の均衡を破りたくない。


 そんな俺だが、理論物理学の教授と色々話すようになって来た。ただこの道は学問としては面白いが、食べるのは大変だと言っていた。

 

 俺は、卒業後の事を考えている。紗耶香を選ぶにしても京子さんを選ぶにしても俺が職を見つける事が重要だ。


 三年次に学部や専攻を変えるという事も出来るが、京子さんから言われた三類医者志望の事は考えていない。向いていないし、あそこは六年生制だ。色々な意味で無理だ。


 紗耶香と京子さん、何とか二人とこのまま続けることは出来ないだろうか。二人は結婚という言葉まで最近口にしているけど、とてもそんな事考えられない。


 自分の事さえ将来が見えないのに、無責任な事は言えない。もっと時間が欲しい。



…………。




 私高橋綾乃。


 岩崎君に表参道で助けて貰い、食事をした後、また会って良いと言ってしまった。その所為か、彼は毎週末には私を誘って来る。


 夏休みには、遊園地やプールも一緒に行った。明人と行きたいけどそんな事無理だし、時間もあるからと行ってしまった。

 

 彼からは私の事が好きだと告白されている。もちろん私は保留している。


 もうそんな関係が半年になるのに未だに私には敬語、キスを求めて来るどころか手も繋ごうとしない。


 確かにこれでは、普通の女の子はこの人から離れていく。岩崎君には悪いけど、私は明人の事が忘れられない。だからこの関係は私にとって助かる。

 

 そんな秋も深まった十月。

「高橋さん、俺まだあなたと付き合っていると言える状態ではないけど、友達以上だとは思っています」

 何を言いたいんだろう。


「だから、我家に遊びに来て頂けませんか」

「えっ!」

 まさか、何考えているの?


「あの、両親が居る時です。その両親に会って頂けないでしょうか?」

「…どういう意味で仰っています?」


「深い意味は有りません。両親にあなたの事紹介したいんです。俺の好きな人ですって。

 俺女性とこんなに長い間一緒に付き合った…いえ一緒に出掛けた事とか無いんですよ。

 毎週の様に出かける俺を見て、お母さんがお付き合いしている人がいるなら連れて来て。会ってみたいと言われて」


「でも、まだ友達ってだけだし」

「友達で良いんです。俺の様な男にこんなに一緒に居てくれる素敵な女性を両親に紹介したいんです」

 なんか変な人だな。


「そこまで言って頂けるのは嬉しいです。だからはっきり言います。岩崎君とは友達以上にはなれません。私には心の中に思っている人がいます。でもその人とは……」


「知っています。もう渋谷の時から一年近くになります。高橋さんの心の中に誰かいるという事くらい。

 でも、こうやって毎週会って頂けるのは、その人とうまくいっていないんですよね」

 全く好きな事を言って来るけど…その通りだから。


「だから、俺を好きになって下さい」

 いきなり私の左手を両手で包む様に握って来た。暖かい手だ。


「…………」


 その場では、私は彼の家に行く事は断った。でも彼の思いは悪くは感じなかった。


 あれから何度も誘われたけど行く事が出来なかった。私の心の中に明人がいる限り、岩崎君に向き合う事は出来ない。彼にも失礼だ。




 今日も明人と同じ授業を受けている。来年からは中々一緒に受ける事は少なくなるだろう。彼は二類、私は三類だ。徐々に受ける科目が別れていく。


 明人に今声を掛けたら…………。やっとここまで来た距離が遠くなる可能性の方が高い。やっぱり嫌だ。


 でも明人と二年次の授業を受けるのは来年一月まで。どうすれば。


 授業が終わった。午後もう一つ受ける授業があるが一コマ空いている。学食に行った後、図書館でも行こう。明人はどうするんだろう。

 

 最近柏木さんが明人にべたべたくっ付かなくなった。あれだけ明人、明人って言っていたのに。諦めたのか他に誰か好きな人が出来たのか。


 いずれにしろ私には良い事だ。



 明人が席を立った。柏原さんが付いて行く。学食に行く様だ。私も行こう。


 ふふっ、柏原さんは明人の前で食べているけど、私は隣のテーブルで明人の左斜め前。こんなに近くても明人はもう嫌な顔はしなくなった。嬉しい。


―――――

 

時間は明人に味方しませんが、綾乃には味方している様です。


次回をお楽しみに


 新作の投稿を始めました。読んで頂ければ幸いです。

「寝取られた元カノ?、知らない許嫁、陽キャな幼馴染も皆要らない。俺の望みは平穏な高校生活だ!」

https://kakuyomu.jp/works/16817139555364588255

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


なお、頂いたご感想のご返事は都合で六月二十二日以降になります。

ご理解の程宜しくお願いします。





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