第83話 クリスマスまでもう少し
私鏡京子。今日はお風呂も上がり、自分の部屋に居る。明人は一条さんとの事が有って以来、彼女からは遠ざかっている様だ。おかげで明人から私に会いたいと言って来る日も増えた。
少し早いけどここは仕掛けかけるのが良いかもしれない。もうクリスマスまで後十日だ。これをきっかけに一緒に暮らすきっかけを作る。
時計を見るとまだ十一時過ぎだ。彼に電話しても問題ない。
「明人、クリスマスの予定だけど」
「京子さん、クリスマスは紗耶香と約束しています」
いきなり言われた。
「えっ、彼女とは会っていないんじゃないの?」
「十二月初めに紗耶香と会いました。その時話し合って…。取敢えず彼女が男を部屋に入れたのはやむを得なかったという事で許しました。
話の流れで京子さんとも付き合っているって彼女に話しました」
早いな。でも良いか。いずれは話す事になったんだから。でもよりを戻したのは計算外だったな。何とかしないと。
「そうなの。まあいずれは話す事になったからそれは良いけど、彼女何と言っていたの。私と明人の事?」
「驚いていましたが、特に何も言っていません」
どういう事だろう。あの子のメンタルではショックを受けるはずなのに。ちょっと見誤っていたかもしれない。
「でも二日間ともじゃないでしょ、二十四日と二十五日のどっち」
「二十四日に約束しているので二十五日も一緒に居ると思います」
「えーっ、明人それは無いよ。どっちか私に分けて」
「そんな事言われても」
不味い、クリスマスの二日間を彼女と一緒にいさせる訳にはいかない。何とかしないと。
「明人、じゃあクリスマスの後は?」
「塾で冬季集中というバイトが入っています」
「でも一日中じゃないわよね」
「そうですけど、授業準備も結構時間取られるので、空くとしたら夜だけです」
どうしたんだろう。いつもならこの辺で妥協してくれるのに。
「分かったわ。でもクリスマスイブの前に会って、後クリスマスの後の夜も」
「…分かりました」
明人との電話を切った後で、明人のいつもと違う何か違和感を感じた。
いつもなら簡単に折れてくれるのに明らかに一条さんを優先している。十二月の始めに二人が会った時何があったんだろう。
俺水森明人、京子さんからの電話、少し冷たいかもしれないがこれで良い。本当はクリスマスの日に会う事は出来る。でもそろそろはっきりした方がいい。紗耶香の事も。
…………。
私柏原桃子、今日も水森君と授業を受けている。年内に受ける授業もほとんどなくなって来た。
彼とは少しだけ進展があった。授業を一緒に受けたり昼食を一緒に食べたりする事はもちろんの事だけど、塾の帰りに一緒にお茶を飲んで話をしたり夕食を一緒にするようにもなった。
もうすぐクリスマス。一条さんと会うだろうけどその前だったら空いてないだろうか。
私は学食で一緒に昼食を食べながら
「水森君、もう年内の授業も数えるほどだね」
「そうですね」
「ねえ、クリスマスの事なんだけど…。あっ、もちろん一条さんと会うのは分かっているから。だからその前に会えないかな」
「……ちょっと難しいです。用事が入っているので」
無下に断るのは不味いけど、この人と塾以外に外で会う気はない。
「そうかあ、じゃあ塾の帰り夕食だったらいい」
「…その位なら」
「うん、ありがとう。二十日とかどうかな」
その日は紗耶香と会う日だ。
「その日は予定が入っているので」
「そうか、二十日は二人共早く上がれるから良いかなと思ったんだけど。次の日は」
「良いですよ」
「本当。やったあ。じゃあその日にね」
高橋綾乃視点です。
明人の隣のテーブルで一緒に昼食を取っている。明人が柏原さんとクリスマスの約束をしている。
私も明人と一緒にクリスマスをしたい。でも今年は無理。充分に彼には近づけている。急ぐ必要はない。でも来年は…。
両親のお陰で居心地の良いマンションに住んでいる。偶にお母さんが心配で上京してくるけど、普段の生活を見せたり、学校も少し見せたりすると、私が問題なく暮らしているのが分かるのか安心して帰っていく。
今日は土曜日。ゆっくりと起きて遅い朝食を取り、部屋の掃除をした。これから渋谷に洋服を買いに行く。
地元と違い、地下鉄を乗り継いで渋谷に来た。本当に人が多い。取敢えず定番の○○9へ。
ここは女の子だらけだ。下の階から上の階に向ってショップを見ながら洋服を選ぶ。こっちのファッションにも慣れた。
ショップで洋服を見ていると必ず声を掛けてくる。そして容姿のお世辞を言ってから似合う服を推してくるけど、洋服はやっぱりインスピレーション。これだと思わない限り買わない。
少し見疲れたので、一度外に出て道玄坂を少し上がりながら歩いてくると必ず声を掛けられる。まあ適当に流すけど。
そろそろUターンして駅の方に戻ろうとした時、
「ねえ、可愛いお嬢さん。ちょっと話をしない」
見るからにチャラい男二人が私の前に立って話しかけて来た。
「急いでいるので」
「いいじゃないない。ちょっとでいいからさ」
私が二人を避けて行こうとする方にもう一人の男がブロックした。一瞬周りを見たが誰も無関心だ。
「結構です。急ぎます」
「良いじゃないか」
いきなり手を掴まれた。
「痛いっ、大きな声出しますよ」
「出してみたらあ。だあれも君を助けないよ。さっこちに来なよ」
強引に脇道に連れ込もうとしている。必死に抵抗したけど力の差だ。周りを見ても誰も助けてくれない。見ているだけだ。
不味い。
「助けてー!」
大きな声を出した。
「ほら、誰も…。くっ!」
「止めろよ。その人が嫌がっているじゃないか」
「なんだあてめえは。俺達は少しこの子と話したいだけだよ。ねえお嬢ちゃん」
「嘘です」
とにかく声を出した。
「手を離せよ」
仕方ない。掴んでいる手の親指方向からねじった。
「ぐあっ、いてえじゃねえか。指折れたらどうすんだよ」
「まだやりますか。いくらでも相手しますよ」
「くそっ、おい行くぞ」
「おらあ、見世物じゃねえぞ」
二人が周りの野次馬をどかして逃げて行った。野次馬も段々離れていく。
私は掴まれた所を擦るながら
「ありがとうございました」
「いや、気を付けて下さい。あなたみたいな可愛い女の子がこの辺を一人で歩いては駄目ですよ。もっと駅に近い方がいい。じゃあ」
「あ、あの。お礼を」
「お礼は良いです」
「じゃあ、名前と連絡先だけでも」
「岩崎孝雄って言います。連絡先は勘弁して下さい」
「あの大学生ですか?」
「はい、城知大学の一年生です」
「私、帝都大の一年生です」
「へーっ、凄いなあ。じゃあ」
助かったと思うと急に怖くなって来た。直ぐに駅の方に向かった。助けてくれた人は岩崎孝雄城知大学生。直ぐにスマホのメモパッドに入力した。
俺岩崎孝雄は自分の住んでいるマンションからそんな遠くない渋谷に遊びに来ていた。
道玄坂にある映画館で朝一の映画を見た後、昼食を取ろうと坂を上がって行ったら可愛い女の子が、男二人に路地に連れ込まれそうになっていた。周りの人は見ているだけだ。
俺はそういう状況が好きじゃない。
仕方ないか。父さんの勧めで小さい頃から護身の為と武術を習っていた。普段から乱取りなんかで複数人相手はしているので、まあ大丈夫だろうと思って助けに入ったら男二人は簡単に逃げて行った。
助けた子は思い切り可愛い女の子のだった。お礼とかという程でもないし、連絡先聞かれたけど、教えておけばよかったかな。
これだからずっと彼女出来ないんだよな。何かでまた縁があるといいな。
―――――
ふむ、なるほど。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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