第81話 十二月は迷う月



―――――


 俺水森明人。


 紗耶香が部屋に押しかけて来てから一週間が経った頃から悩み始めた。


 紗耶香が他の男と一夜を過ごした。本当にショックだった。


 紗耶香に限って俺を裏切る事なんて絶対ないと思っていた。でもそれは俺の自惚れだった。

 確かに大学が違えば紗耶香に言い寄る男がいても不思議じゃない。でもそんなの相手にするとは思えなかった。


 それが、それがだ。まだ大学に入ってまだ半年だというのに他の男を部屋に連れ込むなんて。


 でも紗耶香は何もしていないと言っている。確かにしていないのかも知れない。でも男を部屋に連れ込んだという事実は消えない。


 それに今回は何も無かったかもしれないが、何回か連れて来るうちにそうなる事は見えている。

 もしあの時俺が行かなかったら、何も気付かずに俺は紗耶香と付き合って……。


 これじゃあ高校時代と同じじゃないか。あの時は俺に責任があった。だから紗耶香を守り気持ちも元に戻った。なのに…………。


 こんなに悩むのはまだ紗耶香が好きだから。今の気持ちで彼女と別れるのは辛すぎる。どうすればいい。


 彼女からは毎日の様にメールが来る。会いたいと。俺も流石にブロックとかする気にはならず、目を通している。でも返信をする気はない。


 京子さんと会う事が多くなった。俺から誘う事も多くなった。紗耶香が居た時はこんな事無かったのに。


 もし、紗耶香と別れるにしてもきちんと話さないといけない。もう十二月だ。あれから一ヶ月。メールしてみるか。関係を続ける続けないは別としても。今は部屋にいる時間だろう。


『時間が有ったら連絡してくれ』


 ブルル、ブルル。


 えっ、誰。あっ明人からだ。連絡してくれと書いて有る。どうしよう別れ話だったら。でも直ぐに掛けないと。


『はい』

『紗耶香です』

『明日いや今度の土曜日時間有るか?』

『有る。明日でもいいけど』

『明日はバイトがあるから遅くなる。ゆっくり話したいから土曜にしたい。俺がそっちに行く。午前十時で良いか?』

『うん、待ってる』


 明人から連絡が有った。今度の土曜は明後日だ。嬉しいけど不安。もし別れ話が出たらどうしよう。東京で一人過ごすなんて出来ないよ。


 明人信じて、私はあなたしかいない。




 そして土曜日、午前十時少し前に彼は来た。


ピンポーン。


一階ドアからだ。カメラで確認して直ぐに開けた。少しして


ピンポーン。


ドアにあるカメラを見ると明人がいる。嬉しさより不安が一杯。


ガチャ。


「明人…上がって」

「うん」


 彼がリビングのローテーブルの前に座った。


「コーヒーでいい?」

「ありがとう」


 前だったらこんな会話もしなくて良かったのに。


「はい、コーヒー」

「ありがとう」


「…………」

「…………」

 少し沈黙が続いた。どちらからも話さない。



「明人あの…本当にごめんなさい。あれからは誰も部屋に入れていないしあの人とは大学で話す事もしていない。サークルだって辞めた」

「紗耶香、俺が来たのはそんな事聞く為じゃない」

「…………」

また、沈黙が続いた。


「明人、私はあなたしかいない。あなたしかいないの。捨てないで。別れたくない。今回の事は本当に私が間違いだった。お酒はもう絶対飲まない。お願い許して」


 俺は、ここに来るまで心は決まっていなかった。紗耶香の顔を見れば何か思いつくかもしれないと思った。


 彼女の言葉は信じることが出来るだろう。この子はあの時は仕方ないとしても俺に嘘を吐くような子じゃない事は俺が一番知っている。





「いいよ。紗耶香。許すとかじゃないけど、事実は消えないから。でももうあんな事絶対にしないで」


 紗耶香の目から思い切り涙が溢れて来た。そのまま俺の所に来て抱き着くと

「明人、明人、明人。ごめんなさい。ごめんなさい。もうしないから。絶対に明人以外誰も入れないから」


 俺の肩に顔を預けて思い切り泣いている。彼女の背中に手を回すと泣き声がまた大きくなった。


 どの位泣いていただろう。泣き止むとくちゃくちゃな顔で

「明人、キスして。許してくれるならキスして」


 彼が唇を付けて来た。嬉しい。


 長い口付けが終わると

「明人見て」


 紗耶香が洋服を脱ぎ始めた。

「お、おい」

「いいから見て!」


 座っている俺の目の前で立ったまま下着も取ってしまった。少し足も開いている。

「明人、恥ずかしい。とても恥ずかしいよ。でも本当に明人だけなの。よく見て」

「…………」


 理性がはじけてしまった。


 ちょっと強硬だったけど。ふふふっ、嬉しい。彼と一つになっている。堪らない。


「明人思い切り」



…………。



 彼が私の横で休んでいる。私も少し息が荒くなっちゃった。でもこれで元に戻れたかも。


「明人」

「なに?」

「クリスマス二人で過ごせる?」

「…いいよ」

「嬉しい」

 紗耶香が思い切り抱き着いて来た。


 バイトは元々紗耶香へプレゼントを買ってあげる為に始めた事もある。今回は何か買ってあげたい。


「後、前の様に泊まりに来て、お願い。明人がいないと辛い」

「分かった」


 本当にこんなのでいいのか。でも紗耶香を見ていると嘘のかけらも見えない。他の男を部屋に入れた事実はもう忘れよう。


 その後、二人で散歩した。紗耶香の大学にも行ってみた。随分綺麗でおしゃれな大学だなと感じた。

 

「明人、お昼は一緒だけど、夕飯も一緒に食べてくれる?」

「いいよ」

「やったあ。じゃあ、美味しい物いっぱい作るね」

「お腹に入る程度にしてくれ」

「駄目、全部食べて」


 その日の夕飯は、とても美味しかった。料理のお皿がいくつも並んだけど、何とか全部食べた。


 紗耶香が食器を洗い終わるとローテーブルに座っている俺の側にやって来た。寄りかかる様にして座っている。


「ねえ、明人泊っていけない?」

「…………」


「明人、鏡さんと付き合っているの?」

「何でそんな事聞くの?」

「だって一か月前に明人の所に行った時…。それにあの人明人の部屋も知っていたし。

 明人、嫌な事でも話して。嘘つかれるのが一番嫌」


「紗耶香の言う通りだよ」

「いつからなの?」

「俺が高校三年生の時、初めて知り合った。でも付き合っているという関係じゃなかった。こっちに来て彼女のマンションが近くだって知って。彼女が近づいて来た」


「本当なの。明人が鏡さんを好きになった訳じゃないのね?」

「正直に言う。今は分からない。紗耶香と一か月前あんなことになって、ショックだった俺を支えてくれたのはあの人だ」


「……。明人、嫌だよ。一か月前の事は本当に私が悪かった。でも私は明人しかいない。お願いあの人より私を選んで」

「…………」


「明人泊っていってくれる?」

「今日は帰る。今度泊まりに来る」

「本当?絶対にだよ。それとクリスマスの事も」

「うん、絶対に」

「じゃあ、もう少しだけ」


 紗耶香が唇を合わせて来た。




 明人が帰って行った。一か月前の事は終わった事になって良かったのに。まさか鏡さんと明人が付き合っているなんて。私があんな事しなければ。



 私の方が絶対に不利だよ。あっちは同じ大学、住まいも近い。どうしよう。これは一か月前の比じゃないよ。


―――――

 

 ついに明人、紗耶香へ京子の事を話しました。さてどうなる事やら。

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る