第80話 紗耶香の弁解


ストレス溜まるかもです。


―――――


「明人、開けなさい」

「明人、開けて」


 京子さんと紗耶香がドアの外で大きな声を出している。不味い。仕方ない。


ガチャ。


「明人、ごめんさない。誤解なの」

「何を言ってるんだ。他の男と寝たくせに。帰れよ」

「明人、ごめんんさい。ごめんなさい。誤解です。あの人とは寝てない」


「明人、とにかく私達を部屋に入れて。ここで騒いでは不味いでしょ」

「…………」

 仕方ない。


 俺は狭いダイニングに二人を上げて座らせた。

「…………」

「…………」


「…………」

 一条さんに何か有ったみたいね。明人以外の男と寝たとか。でもこの子がそんな事するとは思えない。どうしたのか?でも私から何か言う訳にはいかないし。


 どの位か分からないがずいぶん時間が経った気がする。今日の一限目の授業はスキップか。仕方ない。


「紗耶香、帰ってくれないか。あの男と付き合えばいいじゃないか」

「明人、誤解なの」

「誤解?」


「昨日、明人に言ったけどサークルの後のラップアップに誘われて、飲まされたの。そしたらふらふらになってしまって…。

 帰り遠藤さんに送って貰ったつもりが岩崎さん、さっきいた人が送ってくれて…」


「それで一晩寝室で二人で過ごしたわけか」

「違う、違う。何もしていない」


「紗耶香、嘘ももう少しうまく言え。酔った男女が寝室で一緒に寝て何もないなんてどうやって信じろって言うんだ。それにあいつの洋服は乱れていたじゃないか。それでも何も無いって言えるのかよ」


「それは、…」

「ほら何も言えないじゃないか。帰れよ」


 なるほどそういう事か。確かに酔った男女が彼女の寝室で一晩過ごして何も無いとは私も考えられない。例え一条さんにその気が無くても。


「明人、お願い信じて、本当に何も無かった」

「じゃあなんで寝室に二人で寝ていたんだよ。嘘にも無理があり過ぎだよ」


「あれは、あれは、明人が来たのに驚いて彼を寝室に隠したの」

「紗耶香、語るに落ちたな。何も無ければ何故隠す。そのまま入れば良かっただろう」

「それは…」


「とにかく出て行ってくれ。あいつと付き合えば良い」


 俺が立ちあがりドアへ向かおうとするといきなり紗耶香が足にしがみついて来た。


「明人、信じて。今から全部脱いでも良い。私を見て。何も無かったって分かるから。お願い。お願いだから」


 紗耶香がいきなり脱ぎ始めた。


「止めろ」


 一条さんが本当に何も無かったとしても明人以外の男と一晩過ごしたという事実は消えない。


 でも、この子を明人の前から退場させる訳にはいかない。それにこれで明人がこの子を選ぶ事は無いだろうし。一条さんは、もう下着だけになっている。綺麗な体だ。


「一条さん、そこまでよ。それ以上脱ぐのは止めなさい。あなたが全部脱いでも何も分からないわ」

「でも、あの人が何もしていないって事が分かる」

「どうやって分かるんだよ」

「私を全部見て」



「…止めろ紗耶香。分かったよ。でも今日は帰ってくれ」

「いやだ。帰ったらもう明人は私に会ってくれない」


「…………」


「一条さん、明人はそんな事しないわ。必ずまたあなたと会うわ」

「鏡さんがなんでそんな事言えるんですか。それになぜここにいるんですか?」


「一条さん、明人とは偶々近くだっただけの事。同じ高校だから親しくしている」

 そう明人とは親しくしているのよ。一条さん。


「本当なの明人?」

「…本当だ」


「一条さん、駅まで送って行くわ。私もこれから大学だから」

「明人、もう少しここに居させて」

「駄目だ。おれも大学に行く」


「…分かった」


 私は仕方なく明人の部屋を出た。自分のマンションに帰りながら頭に浮かぶのは、明人に嫌われたという事だけ。


 どうすればいいんだろう。昨日あんな飲み会に参加しなければ。今日はもう大学に行きたくない。



一条さんが帰った後、私達はまだ明人の部屋に居た。


「明人、どうするつもり?」

「どうするもこうするも、どうやったら紗耶香の言葉を信じろと言うんですか」

「それもそうだけど」

「とにかく紗耶香とは距離を置きます。今の俺の頭では冷静に紗耶香と会う事が出来ない」

「…分かったわ。明人がそう言うなら」


「俺、大学に行きます。今日はバイトもあるので」

「そうね、私も大学に行くわ」



…………。

城知大学四谷キャンパスにて


「一条さん、来ないわね。この授業受けるって言っていたのに。岩崎君何か知らない」

「後で話します」


 二時限目が終わり学食に向かった。

「遠藤さん実は……」

 俺岩崎孝雄は、昨日の夜から今日の朝にかけてあったことを遠藤さんに話した。


「えーっ、それって。相当に不味いんじゃない」

「はい、今日一条さんが来ないのもそれが理由じゃないかと」

「それは不味いわね。どう考えても君と一条さんが一夜を過ごしたってしか聞こえない。ねえ本当に一条さんには手を出していないの?」


「…すみません。俺まだそういうのした事無いんです」

「えっ、もしかして君って。どう…」

「止めて下さい。遠藤さん。恥ずかしいじゃないですか」

「でも、もう大学生だよね。全然経験ないって…それはそれで凄いけど」

「遠藤さんは有るんですか?」

「君ねえ。それ女の子に聞く。デリカシー無さすぎるよ」

「すみません」

 まあ有るけど。


「いずれにしろ一条さんが大学に来ることを期待するしかないわね。岩崎君、変な気起こしちゃ駄目よ」

「分かってます。ただ、一条さんに申し訳なくて」

「そりゃそうでしょ。君が夜のうちに帰ればこんな事にならなかったから。責任は君にもあるけどね」

「…………」




 私一条紗耶香は、その日は大学を休んだ。もうサークルには参加しない。岩崎さんとは距離を置こう。


 そしてあれから一ヶ月。あの次の日から大学へは行ったけどもうすぐ十二月になる。でも明人から連絡は来なかった。私が連絡しても既読が付くだけ。


―――――

 

 これは、これは。

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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