第73話 大学生活は静かに過ぎていく
紗耶香の大学内での風景です。
―――――
紗耶香視点
もう五月も終わり。楽しかったGWもとうに過ぎて毎日大学の授業を受けていた。最近は授業内容も理解出来る様になっている。
今日も遠藤さんと一緒に授業を受けている。
「ねえ、一条さん」
「なあに?」
「最近、あの子と同じ授業受ける事多いよね」
そう言って遠藤さんが私達と同じ列に座っている男の子を隠す様にして指さした。
「知っている人?」
「ううん、全然」
それから二週間位した時、
「あの、ここ空いてますか?」
声を掛けた方向に顔を向けると遠藤さんが教えてくれた男の子が立っていた。私は直ぐに遠藤さんを見ると
「良いんじゃない一条さん」
「……どうぞ」
他の席も空いているのに。でもその人は一席空けて座った。授業が始まると真剣に聞いて偶にノートを取ったりしている。
ちらりとノートを見ると綺麗な字が書かれていた。横顔は少し彫りが深くはっきりとした目鼻立ちをしている。
そして授業が終わると私達の方を見てチョコンと頭を下げてお辞儀をすると教室を出て行った。
「一条さん、ちょっと感じ良いね」
「そうですか?」
更に二週間位その状況が続いた。私達が学食に行って座って食べていると
「あの、ここ空いていますか?」
なんか同じセリフを言う人がいると思ったら授業でここ数週間一緒に居る人だ。
「良いんじゃない一条さん」
なんかこれも聞いたセリフな感じ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
その人は静かに定食を食べ終わると私達の方を向いて
「あの、いつも授業で会いますよね」
「「…………」」
「あっ、すみません。俺今年経済学部に入学した岩崎孝雄っていいます」
「私、遠藤幸子こちら一条紗耶香さん」
「遠藤さん!」
「一条さん良いじゃない挨拶ぐらい」
「それはそうですけど」
男の人とはあまり関わりたくないのに。遠藤さんこの人と関わりたいのかな。なら二人にしてあげようかな。
「遠藤さん、私図書館に行くから」
サッと立とうとすると
「すみません。いきなり話しかけて気分害しましたよね。申し訳ないです」
「いえ」
「一条さん、少し位いいじゃない」
「でも…」
結局その場は去って図書館に行く事にした。
「一条さん、困っていたような。俺何か気に障る事しました?」
「さあ、私も知らない」
翌日も別の授業で一緒だった。一年次は基礎科目が多いから一緒になる機会は多い。今日も私達の隣というか遠藤さんの隣に岩崎さんが座って、私は岩崎さんと反対側の遠藤さんの隣に座っている。
授業が終わると
「一条さん、お昼行こう」
「うん」
「岩崎君もどお、一緒に行かない?」
「えっ、でも」
「一条さん良いわよね」
遠藤さん岩崎さんの事君付けで読んでいる。彼の事気に入ったのかなあ。仕方ないか。
「良いですよ」
「決まり、行こう」
遠藤さんが嬉しそうに席を立った。
俺、岩崎孝雄。同じ高校からここに入って来た知合いがいない。だからボッチ。入学したての時は、前の方で授業を聞いていたが、偶にはと思って少し後ろの方で授業を聞くことにした。
その時、見かけたのが一条紗耶香さん。遠藤幸子さんといつも一緒だという事が分かった。
一条さんは、艶のある髪の毛が胸位まで有り、目が大きく胸も大きい。下唇が少しぽてっとしてとても可愛いかった。
始めは怖くてというか、話しかけるなんて出来ないから同じ列の端の方で座っていたけど思い切って側に座ってみる事にした。
俺が何処に座るかなんて俺の勝手だけど、一応声を掛けてから座る事にした。座る事が出来た。でもそこまでだった。それから先に進めない。二週間位それが続いた。
昼になり一人で学食で食べようとしていると、何と目の前に二人がいて昼食を取っていた。また声を掛けて近くで食べた。
食べ終わって何とか声を掛けたらそっけなくされた。それから数日授業も会う事が多いので慣れてくれたのか側にと言っても遠藤さんの隣に座る事が出来た。一条さんは反対側。
今日もここまでかなと思っていたら遠藤さんが声を掛けてくれた。昼食を一緒に取ろうと。
で、やっと今に至っている。友達位にはなれないかなという前で止まっている。顔見知り以上友達未満。
…………。
「岩崎君、高校から一緒の人は?」
「残念ながらいないです」
遠藤さんが話しかけて来た。
「そうなんだ。私も一緒。一条さんも同じ。みんな知合いいないから友達になろうよ」
「俺は嬉しいですけど」
「一条さんも良いよね」
遠藤さんだけで話してくれればいいのに。
「私は……」
「あの、別に無理でなくてもいいです」
「えーっ、一条さん友達なら良いじゃない」
困ったなあ。でもここで固辞するとせっかく仲良くなった遠藤さんとも気まずくなるし。
「いいですよ。友達なら」
「本当ですか!とても嬉しいです」
「じゃあ、早速スマホの連絡先登録しようか」
「えっ!」
「一条さん何か問題あるの?」
「いやまだ連絡先は」
「あの無理しなくていいですよ」
「私も一条さんの連絡先知っていれば連絡取りやすくなるし」
私はあなたの連絡先知らなくてもいいんだけど。どうしよう。
「さっ、一条さん。交換、交換」
「はぁ」
結局遠藤さんに押し切られ、三人でスマホの連絡先を交換した。消したい気分だけど。
「せっかくだから、今日授業終わったらお茶でもしない」
「ごめんなさい。私用事があるの」
「そうですよね。いきなりは無理ですよね。俺も今日はバイト入っているから。今度みんなで行きましょう」
「あっ、私もシフト入ってた」
「ふふっ、遠藤さんてば」
笑い顔が何て可愛いんだ。友達まで持ってこれた。嬉しいな。少しずつでも前に進めれば。
それから、何故か授業の合う日は一緒に聞いて、昼食も時間の合う時は一緒だった。でも困るのは遠藤さんがいない時に岩崎さんと一緒になる時も有って。出来れば避けたいけど。授業聞くだけの事を避けるのも出来ないし。
遠藤さんから聞いた話だと私がいない時は岩崎さんは他の席に座る事も有ると言っていた。何となく嫌だな。
明人とは、毎日の様に電話している。週末、土曜か日曜のどちらかは必ず私の所か明人の所へ泊りに行っている。
だから寂しくないし、知らない男の人と口も聞くの嫌だけど遠藤さん繋がりで岩崎さんとは仕方なかった。
後一ヶ月もすれば夏休みに入る。明人どうするかな?
―――――
紗耶香さんに新しい男の子が接近してきましたね。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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