第74話 夏休みまでもう少し


もう少し紗耶香の大学生活です。


 五月の終りに岩崎さんが遠藤さんと私に近付いて来てからもう七月に入った。今日も一緒に授業を受けた後、一コマ空いたのでみんなで外部業者が開いているカフェに来ている。


 遠藤さんと岩崎さんはこういう所は慣れているみたいで私も入る事が出来た。


皆でカウンターから飲み物を取ってテーブルに着くと

「ねえ一条さん、夏休みはどうするの?」

「まだ決めていません」

「そうなんだ。一条さんってバイトしていないよね。私なんか、夏休みはだいぶシフト入れている。少しは遊べるけど、纏まって休みは取れないわ。実家にも帰らないといけないし。羨ましいなあ」

「両親がこちらの生活に慣れるまでという事で出して貰っています」


「一条さん、夏休みまだ予定決まっていないならみんなでどこか行きませんか。もちろん日帰りですけど」

「ごめんなさい。まだ決められない」

「えっ、それってもしかして。一条さん彼いるの」


 私は何も言わずにコクンと頷くと

「そうなのかあ、それじゃあ仕方ないね。もし隙間あったらってとこかな」

「はい」


 私遠藤幸子は岩崎君に興味を持っている。まだ好き嫌いではないけど。でも彼は間違いなく一条さんに好意がある。

 だから彼女に彼がいるのは好都合だ。彼女を利用してもっと岩崎君に近付けるようにしても問題なさそうだ。


「ところで彼って大学生、社会人」

「大学生です」

「えっ、どこの?」

「…帝都大学理学部です」

「えーっ!凄い」


「あの、もう良いですか。私図書館に行きます」

「アッ、ごめんなさい。聞き過ぎちゃったわね」

「いえ」


 全く冗談じゃないわ。遠藤さんがどういうつもりか知らないけど、もうこういう話はしない様にしないと。



「岩崎君、残念でしたね」

「何の事ですか?」

「今の話の事よ。顔に書いて有るわ。残念だって」

「…………」




……………。


水森明人の大学生活です。

 

 俺が授業を受ける時は、ほとんどが柏原さんと綾乃が一緒になって来た。俺の履修届が漏れているのではないかと思う位だ。


 そして綾乃が段々近づいて来ている。最初は座る列も違っていたのに、いつの間にか同じ列の端に座っている。


 でもあいつは外見容姿がいい。自然と男子学生も集まる様になって来ている。室内は冷房が効いているがいい迷惑だ。


 偶に男子学生から声を掛けられているが、全く相手にしていない。誰か早くあいつを連れて行って欲しいものだ。


 そして二時限目が終わり学食に行くと二人共付いてくる。おかげで周りの男子も付いてくる。どうなっているんだ。


「水森君。もうすぐ授業も終わって定期試験終われば夏休みだね。どうするの?」

「まだ決めていません。紗耶香と相談します」

「はーっ、そこまではっきり言われると…。ねえ、高校時代も言ったけど、一条さんの十分の一でもいいから私に時間くれない」

「だ・め・で・す」

 強調して言ってやった。


「何よその言い方。水森君冷たいのね」

「どうとでも思って下さい」

 遊びよりもバイト見つけないと。学務課でも行ってみるかな。


「ところで柏原さんは夏休みどうするのですか?」

「私はバイト。仕方ないわ。少しでも貯めておかないと」

「どんなバイトしているんですか?」

「えっ、水森君、バイトに興味あるの。だったら今私がやっている学習塾紹介するけど」

「い、いやそれは」

 どう見ても危険な匂いがする。


「良いわよ。時間単価良いし。人気出れば枠も増やして貰えるし。ねえ一緒にやろうよ」

「別で考えます」

 水森君ガード固すぎ。良いじゃない。ちょっと位私と付き合ったって。私まだ新鮮なのに。


 私高橋綾乃。明人が柏原さんと楽しそうに話をしている。私も中に入れないものだろうか。でもまだ急がなくていい。授業と昼食でずっと彼の側にいれる。少しずつ近づければ。せめて友達まで。



「あの、ここ座っていいですか」

 声の方に顔を向けると男子学生が立っていた。


「直ぐに退きますでのいいですよ」

「あっ、ちょっと。少しでもいいのでお話できませんか?」

「ごめんなさい」


 まだ、明人がいるけど、他の虫が寄って来るのはいや。私は後一コマあるでのそのまま図書館に足を向けた。


 あれっ、綾乃が先に出た。珍しいな。そうか男子が話しかけたからか。……まあ、あいつの勝手だ。


「柏原さん。俺今日もう一コマあるんで図書館に行きます」

「そう、私は今日もう無いんだ。じゃあまた明日ね」

「はい」


 私柏原桃子は水森君の後姿を見ながら、まだ大学生活は始まったばかり彼は一条さんと付き合っているって言っているけど、大学の違いは大きい。


それに彼女の行った城知大学は、結構イケメンお坊ちゃまが多いと聞く。いつまでも水森君ばかりではないだろう。隙が出来た時は私が彼を。


でも最近、高橋さんが水森君との距離を詰めて来ている。彼は気にしていないけど、いずれどこかで話すようになるはず。彼の優しさと優柔不断さの所為で。


でも彼女の立場には成れないだろう。だから無視して良い。問題は鏡先輩。全く彼の近くに姿が見えない。同じ学部だから彼に接触して来ても良いはずなんだけど。

あの人が何もしないなんてありえない。やはり私の見えない所で会っているのかな。


「あの、ここ良いですか」

「あっ、どうぞ。もう退きます」

「いえ、そのお話を…」

「すみません」


 冗談じゃないわ。他の男子なんて一ミリも興味ない。さっさとバイト行こ。


―――――

 

いやはや、なんとも。

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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