第68話 講義は静かに受けたい


 俺は大学で授業を受けている。何故か俺の隣には柏原さん。そして少し離れた所に綾乃が座っている。

 全く勘弁してほしい。東京に来て高校の事は紗耶香以外はリセット出来ると思っていたのにまさかこの二人に会うとは!


 一応二人共授業中は静かにしていてくれる。当たり前だけど。でも授業が終わると


「ねえ、水森君、次の授業まで一コマ空いているから、表の喫茶店でお茶しない?」

「いいです。俺図書館に行くので」

「ええーっ、まだ始まったばかりだよ。そんなに最初から全開しなくても」

 何言っているんだこの人は!


「すみません柏原さん。俺授業の合間は図書館に行くようにしているんです」

「そうなのお。じゃあ私も行くう」

「……好きにして下さい」


 私高橋綾乃は明人に邪魔にならない様に少し離れて座っているというのに、柏原さんはべったりと隣に座る。そして授業が終わるといつも五月蠅く明人に付きまとっている。あれでは彼が落着かない。何とかしてあげたいけど。今は何も出来ない。


 明人と話すようになるきっかけがあればいいんだけど。私はこの後、取っている授業はない。

 仕方ないから一緒に図書館に行くか。



…………。


 私鏡京子。明人の授業が始まった。最初は学校でも会う様にしようと思ったけど、私が忙しくて予定が中々会わない。


 まあ、スマホで連絡すれば夜には会える。偶に一条さんとも会っているようだけど、それは構わない。


 何とかならないかな。そうだ。私が入っているサークルに入れるか。そうすれば……でも友達に彼の事がばれてしまう。

 五月蠅い男達は叩けるから良いか。それじゃ、早速。


『明人、今日の夜、大事な話が有る。大学出る前に連絡して』

『分かりました』

 直ぐに返信が来た。偶々空きだったのかな。


「京子誰?」

「ああ、ちょっと知合い」

「えーっ、今までそんな事しなかったのに。もしかして…」

「興味持たないの!」

「良いじゃない、教えてくれたって」


 私の隣に座るのは大学は入ってからの友人宮本尚子だ。小綺麗で頭も良い、背が高いけど胸が控えめな色恋話が好きな女の子、彼氏いない歴=年齢と本人が言っている。


…………。



俺は二つ目の授業を取り終わると理学部の近くに有る食堂に行った。何故か柏原さんと綾乃が付いてくる。こいつらストーカーかよ。


まあ、断る理由もないので一緒に行く。



「ねえ、水森君。今日この後受ける授業あるの?」

「ええ、一コマ空きますけど一つ残っています」

「えーっ、それって一番最後じゃない。終わったら結構遅い時間でしょ」

「別に何も用事無いので」

「はあ、授業の後、水森君誘うと思ったんだけどなあ」

「誘う、何にですか?」

「い、いやあ。例えば少しお酒とか」

 これ利用して…と思ったんだけど。


「そういうのは結構です」

「ねえ、今度一緒に行こう?」

「随分先になると思いますけど」


「どのくらい先なの?」

「定期試験終わったら」

「それって、もう夏休みに入るじゃない。ひっどーい」

「だから時間合えばという意味です」

「…………」


 何とか一緒にお酒飲んで…と思ったのに。まあここで無理言っても仕方ないか。

「じゃあ、私はこれで帰るね。また明日」

「はい」


 やっと柏原さんが去って行った。全く仕方ない人だな。どういうつもりなんだろう。


 あれ、綾乃がまだいる。隣の男の子に声を掛けられている。まあ、見かけは静かでおとなしい人だからな。

 俺には関係ない。さて図書館に行くか。


 俺が席を立つと

「明人!」


 振り向くと隣にいた男の子が綾乃の腕を掴んでいる。彼女の声にその子も俺を見た。

「明人、私も行く」

「えっ?!」


 綾乃の腕を掴んでいる男の子が

「あれ、彼氏いたんですか。早く言って下さいよ。もう」


そう言って勝手に誤解して綾乃の側を離れて、何人かいる男のグループに戻った。


 またかよ。俺がそのまま立ち去ろうとすると、綾乃が俺に近付いて来た。無視して食器を下げて出口に歩いて行くと彼女もそのまま付いてくる。


食堂を出ると

「水森君ごめんなさい」

「…………」

彼女は門の方へ歩いて行ってしまった。


何なんだ?



 私高橋綾乃。明人と一緒に授業を取る様にしている。流石に彼の履修予定は分からないけど、いくつか合う時がある。むしろ多い。


 だから、隣とは言わないけど近くで一緒に授業を受けている。急がなくていい。四年間ある。急ぐ必要が無いと思っていた。


 そうしたら、うざい虫どもが寄って来た。ある程度は予想していたけど、まさかこんなに早くとは思っていなかった。まだ始まって二ヶ月も経っていない。全くいい迷惑だ。


 食堂に明人がいたから仕方なく声を掛けさせてもらった。彼は嫌がるはずがない。おかげで助かった。

 でもちょっとだけ側にいれた。最初はこれでいい。


…………。


 俺はちょっとイレギュラーな事が有ったけど、その後は静かに授業を受けれた。でももう午後八時半だ。

 これから帰って食事作るのも大変だな。どこかで買っていくか。あっ、連絡しないと。


 俺はスマホで京子さんにメッセージを入れた。

『今終わりました』


 ブルル、ブルル。


 あれっ、京子さんだ。

『はい水森です』

『明人、今どこにいるの?』

『門にもうすぐの所です』

『じゃあ、門の所で待っていて。直ぐに行くから』

『分かりました』

 どういう事だろう?


 五分位して、京子さんが走って来た。

「はあ、はあ、明人」

 ビシッと腕を掴まれた。


「大丈夫ですか?」

「うん、明人から連絡有った直ぐに教室でたから」

「こんなに遅くまでやっているんですか」

「明人だって同じじゃない。ねえご飯まだでしょ。一緒に食べよ」


何故かアパートの最寄りの駅の近くに有る居酒屋へ。


「あの、俺飲めないんですけど」

「私は少しだけ」

「そうですか」


 俺は京子さんに勧められてビールを少し口に含んだが苦いだけだった。

「ふふっ、明人も直ぐに美味しいっていう様になるから」


 結局、午後十時までそこで食べた後、京子さんを送って彼女のマンションへ。


「ふふっ、明人…」

「酔ってますよ。良いんですか」

「いいの、いいの」



 全く!俺が帰ったのは午前一時だった。


大丈夫かな俺の学生生活。今から心配になって来た。


 あっ、明人にサークルの事言うの忘れた。


―――――

 

  明人はまだ十九才未成年です。話の流れ上、彼がビールに口を付けましたが、本来は絶対にいけない事です。

 明人、大丈夫です。多分?

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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