第67話 入学式は風が吹く


 私、高橋綾乃は帝都大学入学式の会場に来ている。もちろん入学式に出席する為だ。だけどもう一つ目的がある。


 それは明人を見つける為。入り口付近で待っていれば必ず来る。彼がこの大学を落ちる事は考えられない。海外の大学にも行っていないはず。


 三十分以上早く来たが、入り口は大変な数の入学生がいた。仕方なしに入口の柱の側で立っていると


 あっ、明人。えっ柏木さんも一緒に居る。どうして?


 仕方なしにあの人達の後ろを付いて行き会場に入った。結構広い。あの人達は中段やや後ろに座った。私はその右後ろに少し離れて座る。


 柏原さんが明人に一生懸命話しかけているが、彼はあまり話に乗り気でない様だ。つまり彼女はこれから明人に取り入ろうとしている。


 これならばどうにでもなる。とにかく明人を見つける事が出来た。最初の二年間は基礎が多い。必修科目だけでも一緒に講義を受ける事が出来るはず。声は直ぐに掛けられないけど。


 式は始まってから一時間半程度で終わった。今日は直ぐに帰ろうと席を立ったところで二人が席を立ってこちらを向いた。


「あっ、高橋さん」

「…柏原さん、お久しぶりです。水森君も久しぶり」

「…………」

 なんて事だ入学式早々綾乃と会うなんて。でもどうやって?学校は退学になったはずだが?


「柏原さん帰ろう」

 俺は席を立つと直ぐに出口の方に歩いた。


「あっ、ちょっと待って。高橋さん、またね」

 まさか高橋さんと入学式の時会うとは。彼女は間違いなく理学部。不味いな。


 私は明人と柏原さんが会場出口に近付くのを待ってから出口に足を向けた。今日はこれで良い。




「水森君、驚いたわね高橋さんが側に座っているなんて」

「…………」

「でも、彼女退学になった後、何処で勉強してここに入れたんだろう?」

「さあ、俺には興味無いからその話は止めて下さい」

「…ごめんなさい。ねえ少し早いけどお昼一緒に食べない。この辺全然分からいけど」

「少し歩けばあるんじゃないですか。あそこの信号渡って向こうに行けば」

「そうね」


 本当は紗耶香に会いたかったが彼女は授業が始まったばかり。今日はスマホで連絡位だ。取敢えず綾乃から離れたい。



 明人と柏原さんが信号方向に歩いて行く。食事でもするのかな。本当は一緒にしたいけど今は仕方ない。



 柏原さんと昼食を取ってアパートの方へ向かうが彼女も同じの方向なので仕方なく一緒に帰っているとポケットの中のスマホが震えた。


 ポケットから出してみると京子さんからのメッセージが入っていた。柏原さんが隣にいるけどメッセージを読むくらいなら良いだろうと思い開けて見ると

『明人、駅に着いたら連絡して。マンションにいるから』


 返事したくないが送っておいた。後が面倒だ。

『分かりました』


「あれ、水森君誰から?」

「母さんから。入学式はご時世で両親が参加できないから気にして連絡して来た」

「ふーん。大切にされているのね」

「まだ子離れ出来ないだけですよ」

「そうかもね。あっ、ここで降りるから。そうだ。履修科目一緒に考えよ。じゃあねえ」


 俺が返事も出来ないままに電車から降りてしまった。履修科目一緒に考えようって言われても。確かに未登録はまだあるけど…………。



 二駅ほど過ぎて俺が降りる駅に着くと京子さんに連絡を入れた。ツーコールで出た。

『水森です』

『明人。ねえ、お昼どうしたの?』

『もう食べました』

『そうか。取敢えず君のアパートの下で待ってるね』


プツン。


切られた。


 俺のアパートまで駅から五分、京子さんのマンションから俺のアパートまで二分。エレベータを考えても向こうの方が早い。


 やはり彼女はアパートの下で待っていた。

「あっ、明人。お帰り。どうだった入学式」

「人が一杯いたって感じです」

「ふふっ、そうでしょうね。入学生千五百人位いるからね。ねえそれより早く入ろ」


 この人俺の部屋に入るのが当たり前だと思っている。参ったな。でもこれじゃ逃げられない。


 俺の部屋に入ると

「京子さん、何か約束していましたっけ」

「ううん、特にしていないけど。せっかく大好きな人の入学式が終わったんだから」

「そうなんですか」

「ねえ、そんな言い方ないでしょう」

「スミマセン」

「…………」




「それよりコーヒー飲もうか。入れてあげる」

 たった、半月で俺の部屋がこの人に占領された。キッチンは俺より使い慣れている。


「ねえ、そろそろ私の食器もここに置きたいな。いいでしょ」

「い、いや勘弁して下さい。家族が出て来た時何言われか分かりません」

「いいじゃない。俺の彼女の分ですって言うだけよ。簡単でしょ」

「いやいや、簡単って…」


 いきなり唇を塞がれた。狭い部屋の所為だ。


 何とか彼女を引き離してから

「ちょっ、ちょっと。いきなり…」

「いきなりなあに?キスはいきなりするものよ」

「誰がそんな事決めたんですか」

「わ・た・し♡」


 また口を塞がれた。コーヒーの味がする。仕方なくそのままにさせておくとやっと離れてくれた。


「明人、今日の夕飯どうする?」

「えっ、買物行きます」

「じゃあ二人で行こうか。今日は入学式祝で私がご馳走してあげる。私のマンションでね」

「はぁ」


 駄目だ、この人といると完全にリードされる。何とかしないと。



 結局、近くのスーパーに買物に行って、彼女の家で夕飯をご馳走になった。部屋の広さは2LDK。圧倒的に広い。食器も家族が来るからだろうか二人分ある。



彼女は食べ終わって食器を片付けながら

「ねえ、明人。こっちに住んでも良いんだよ。私はその方が嬉しいけど」

「いや借りたばかりだし。学校も始まったばかりだし。いきなりそういう事は」

「じゃあ、いきなりじゃなくなったらいいの?」

「…いやそれも不味いです」

「なんで。なんで不味いの?」


 食器をいつの間にか洗い終わってソファに座る俺の体にしがみついている。


「そ、それは」

「明人、あなたが一条さんという子を好きなのはいいわ。でも最後に落ち着くのは私よ。いいよね」


 私、鏡京子は明人が一条紗耶香という子と関係がだいぶ戻っているという事は水森先輩から聞いている。

 

 でも彼女は明人と一緒に入るはずだった大学を落ち、私学に入学したらしい。その時点で、もう私のライバルじゃない。


 距離的有利も圧倒的だ。急に関係なんて切れないなら少しの間、関係を認めてあげてもいい。でも一年以内ね。もうその時、明人は私と一緒にここに住んでいる。


さて、今日も明人に甘えようかな。ふふふっ。



 結局俺がアパートに帰ったのは午前零時を過ぎていた。近いからいいけど。


 アパートに帰ってからスマホを見ると紗耶香からメッセージがたくさん入っていた。


―――――

 

 明人、入学式当日から暴風雨です。

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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