第66話 紗耶香の入学式


 私は城知大学の入学式の会場に来ている。私が合格した経済学部は午前中に行われた。二部制になっていたので、終わってもまだ昼前だ。


 家族も参加していないので私一人。私の生まれた所と違い、東京は地下鉄をうまく利用しないといけない。


まあ、ここは東京駅まで行って中央線に乗ればいいだけ。しかし人が多い。なんでこんなにいるんだろう。


 本当は明人と会いたいけど、彼は学校の手続きがあるからと時間が合わなかった。仕方なくマンションに戻った。スーパーで買い物する気になれず、コンビニのカップ麺で終わらすことにした。


 彼が一緒ならこんな事ないんだけど。



 夕方になり、流石に夜もカップ麺という訳にはいかないので、スーパーに行って野菜やお肉を買った。取敢えず向こう一週間分位。一人だから量はそんなに多くない。


 アパートに戻り、部屋の掃除を軽くした後、リビングにあるローテーブルの側で座っている。


 入学式で渡された色々な資料を見ている。履修科目の登録が大変そうだ。彼と一緒なら楽しいのに。


 そうだ、明人に連絡してみよう。もう帰っているかもしれない。でも電車の中かも。取敢えずメッセージで


『明人、手続き終わった?アパートに帰っているなら電話して』


 私はそんなに時間かからない内に電話が来るだろうと思って、先ほど開いた資料を見ていると……もう午後五時半を過ぎている。おかしいな。もう一度連絡してから夕飯の支度をしよう。


 夕飯を食べ終わって、もう午後七時半を過ぎている。なんで彼から連絡がこないんだろう。


 直接電話した。…………。テンコールでも出ない。何かあったんじゃあ。でもここからでは。


 午後九時を過ぎている。連絡がこない。仕方なく先にお風呂に入る事にした。


 午後十時半。まだ連絡がこない。おかしい。もう一度電話した。…………。テンコールで出ない。


 仕方ない。何かあったのか分からにけどメッセージだけ入れて置こう。

『明人、何時でも良いから必ず連絡して』


 これでいいや。後は履修科目の確認していれば連絡が来るだろう。


 もう午前零時を過ぎていた。寝る事にしよう。


 ブルル。ブルル。


 えっ、スマホが震えている。あっ、明人だ。直ぐに通話にタップした。


『明人』

『紗耶香、ごめん、もっと早く連絡できる予定だったんだけど、説明聞いて手続きの後、色々捕まってしまって』

『えっ、捕まってしまった?』

『うん、理学部の先輩達に、それでこんなに遅くなってしまった』

 嘘はついていない。


『そうなの、明人明日会いたい』

『いいよ。紗耶香の所行こうか』

『良いの?』

『地下鉄で六駅位だよね。行くよ。駅何時が良いかな?』


『じゃあ、八時半』

『えっ、そんなに早く?』

『明人と一緒に朝食食べたい』

『分かった。じゃあ、明日朝南北線四谷駅改札に八時半』

『うん』

 良かった。まだ授業開始は先。明日明人にいっぱい甘えるんだ。


 履修計画しないといけないけどまだ大丈夫。明日は紗耶香と一緒にいてあげよう。


 次の朝、


「おはよう明人」

 いきなり抱き着いて来た。人目が一杯あるのに。


「紗耶香、おはよう。まだ通勤時間だから」

「だって、随分会っていない」

 仕方なく彼から離れると、周りの人が変な目で見ている。


「明人行こう」

 彼の手を引いて直ぐに階段を登って地上に出た。


「明人昨日どうしたの。遅すぎだよ。途中連絡くれての良かったのに」

「ごめん、学校で手続きの説明を聞いた後、先輩達に色々話されていたのでスマホ触るの流石に気が引けて」



 横を歩いていた紗耶香が俺の前にいきなり出て来て

「明人本当なの?私嫌な事でも聞くけど、嘘つかれるのだけは一番嫌、絶対して欲しくない。だから言いにくい事でも聞くから言って」

「分かった。でも取敢えず紗耶香の所に行こうか」

「うん」



 紗耶香のマンションに行く途中、

「明人、コンビニに寄って行く」

「いいけど、何か買うの?」


 じっと俺の顔を見ている。そして

「買っておいて。…ねえ、買っておいて」

「あっ!」

 そういう事。仕方ないか。コンビニの入口に行くと素知らぬ顔で二人で入り、紗耶香は他人の振りしてお菓子を、俺は必需品を買った。


「ふふふっ、明人嬉しい」

「…………」

 何も言えない。



紗耶香のマンションは大通りから少し入った所にあった。俺の所より外観も綺麗だが、部屋の中が全然広かった。1DKと1LDKの違いよりLDKが広いし、寝室も八畳近くある。

「広いな。俺の所とは大違いだ」

「ふふっ、そうかな。明人早速朝食にしよう。もう半分準備してあるんだ」


 彼女は冷蔵庫からサラダとゆで卵とハムが盛ってある皿を二つ出すとパンをオーブンで焼き始めた。コーヒーもメーカーからドリップされ始めている。


「えへへ、お父さんが食器二人分用意してくれたんだ。明人は私の両親公認だから」

「えっ、嬉しいけど恥ずかしい」

「今更だよ」


可愛いダイニングテーブルに淹れたてのコーヒー、焼き立てのパン、それに先程の皿が置かれた。

「明人食べようか」

「うん、頂きます」

「頂きます」



 朝食を終えてから俺も食器を洗うと言ったが、狭いから一人で良いと断られた。俺の所よりはるかに広いけど。



 リビングにあるローテーブル前で座っていると紗耶香がいきなり俺の膝の上に乗って来た。


「紗耶香」

「いいでしょう。今日は思い切り明人に甘えたい。ずーっと一緒に居たい」

「いいよ。でも昨日の話は……」

唇を塞がれてしまった。


 やっぱり明人が良い。安心する。心が温かくなる。昨日の事なんかどうでもいい。こうやって私の側にいてくれるなら。


「明人、あっちに行かない?」

「いいの?」

「うん」


 早速必需品が役に立つ様だ。


……………。



紗耶香の寝顔が可愛い。俺はこの子を裏切りたくない。優しいし可愛くて、俺だけを見ていてくれる。京子さんの事はあるけど、俺は紗耶香を選ぶ。



「明人、起きてたの?」

「うん」

「ねえ、もう一度」



 結局午後三時になってしまった。

「明人、夕飯一緒でいいよね」

「うん、俺も手伝うよ」

「いい、明人って料理出来ないでしょ。私がお腹いっぱいにしてあげる」



 結局、夕飯もご馳走になった午後九時

「明人、私授業開始が十二日からなんだ。履修登録とかしないといけないけど、それまでまだ会えるよね」

「俺も履修登録まだしていないんだ。入学式は十二日だけど授業その前から始まる。でもまだ会えるよ」

「じゃあ、明日は?」

「紗耶香、明後日なら良いよ。明日は履修計画とか登録方法の確認とかしてみる」

「そうか。そうだよね。私も明日そうするから明後日会おうか」

「うん、いいよ。スマホで連絡する」

「今度は出てね」

「大丈夫だよ」


―――――

 

 まあ、何とかですね。

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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