第69話 紗耶香の周りの変化


 この大学に入ってもうすぐ一ヶ月。GWも目の前。GWは明人と出かける予定だ。二人共東京は初めてなので、色々な所を見て回ろうという事にしている。


 そして、今日も授業を受けている。経済学部に入ったけど、ミクロ経済学とかちょっと難しい。これで初歩なんて。こんな時明人がいればとつい思ってしまう。


 でも少しずつ同じ顔触れの人達と挨拶するようになった。今、私の隣に座っているのは、遠藤幸子さん。


 彼女も地方から出て来て一人で寂しかったらしい。何気なく挨拶するようになってから一緒に授業を受ける様になった。


授業が終わると

「一条さん、食事行こうか」

「うん、そうですね」


 通りに面した学食に向かう。この大学は外部業者を入れたカフェ形式の所もあれば、普通に学食もある。

 当然私達は学食。まだ外部業者のカフェは敷居が高い。


二人でテーブルに向かい合って座って食べていると

「あのここ座っても良いですか?」


「…………」

「…………」


 二人で顔を見合わせて声の主を見た。二人の男の人が立っている。特に断る理由もないので


「どうぞ」

と言って、また二人で話しながら食事を続けた。


 食事も終わりそろそろテーブルを離れようかという時

「あの、さっきミクロ経済学を受けていた方ですよね?」

「…………」

「…………」


「すみませんいきなり声を掛けて。俺今年経済学部に入った青山幸三って言います。こっちが白鳥康夫。こいつも同じです。ちょっと話とか出来ますか?」


 私は遠藤さんの顔を見ると

「私はこの後図書館に行きたいので。遠藤さんは?」

「私も」


「…そうですか。じゃあまた」



 二人で学食を出て図書館に向いながら

「なんか嫌だね。一条さんはどお?」

「私も、まだ学校にも慣れていないし、こんな時期に声掛けるなんて」

「そうだよね。地方から出て来たから目を付けられたって感じ」

「あういう人達は気を付けないとね」

「そうだよね」

「うん、そう言えば遠藤さんこの後バイト?」

「うん、生活余裕無いし。じゃあね」


 遠藤さんが門の方に歩いて行く姿を見ながら、私は恵まれている方か。でもバイト経験ないからなあ。次の授業まで一コマ空いているから図書館行くか。あっ、そうだ。明人にメール入れておこう。

『明人、夕方で良いから連絡して』


これでいいわ。話をするだけでも嬉しいし。でも会いたいな。



…………。


 さっき一条さん達に声を掛けた二人の男の会話


「あーあ、行っちゃった」

「青山、だから言っただろう。いきなり声掛けても警戒されるだけだって」

「でも友達になりたいだけなんだけど」

「無理。せめて授業の時に何気なく近くに座って、挨拶して、何気なく話していかないと。これで俺達、あの子達の頭の中のブラックリストに載ったぜ」

「失敗したなあ」

「まあ、もう一度近づく方法を考えな」

「はぁ」


…………。



 俺は学食で一人で…実際にはプラス二人、隣の柏原さんと離れて座る綾乃と食事をしている。最近この光景が慣れてしまった。


ブブブッ。


 ポケットに入っているスマホが震えた。ポケットからスマホを取出して画面を見ると紗耶香だ。直ぐに開けると

『明人、夕方で良いから連絡して』


 俺は直ぐに片手で

『了解』

と送ってポケットに仕舞うと、それを見ていた柏原さんが、


「水森君、誰?」

「ああ、柏原さんも知っている人」

「だから誰?」

「紗耶香」


「えっ、一条さん?でも彼女他の大学だよね」

「別にいいじゃないですか。他の大学でも」

「そ、そっか。そうだよね」

 まさか、まだ付き合っているとは。大学が違うから二人は遠のいたと思っていたのに。でも想定内だわ。


「水森君、今でも一条さんと会っているの?」

「柏原さん、どういう意味で聞いているか知らないけど、紗耶香とは今でも付き合っている」

 この位言っておけば良いだろう。


「俺、また図書館に行くから」

「あっ、私も行く」



 明人と柏原さんが食堂から出て行った。明人はまだ一条さんと付き合っているのか。あの件で二人の仲が壊れたと思ったのに。

 私は何の為にあんな事したのか。全く意味が無かったなんて。でも一からやり直しだからいいわ。きちんとこの四年で明人の心を私に向かせる。


 私が、そんな事を考えていると

「あの、ここに座っていいですか」


 誰と思って声の方を向くと一人の男の子が立っていた。

「どうそ、私はもう離れますから」

「…………」


 他の男は虫けら。まあ外見だけなら柏原さんなんかには負けないけど。私も図書館行こ。今日はもう一つ明人と同じ授業がある。



 今日の授業が終わり、俺は紗耶香に電話した。


ブルル。ブルル。


 あっ、明人だ。

『明人』

『ああ、俺だ。メッセージ見たから電話した』

『うん、今はどうしているの?』

『学校から帰って部屋にいる。夕食作成中』

『何食べるの?』

『カップうどん』


『えーっ、駄目だよ。ちゃんと食べないと。私が作ってあげられたらいいんだけど』

『まあ仕方ないよ。それよりGWの件だけど。スカイツリーとか行ってみる?』

『うんいいよ。後、明人の所に泊りたい。いつもこっちだし』

『構わないけど』

『嬉しい。美味しい物作ってあげる』

『楽しみに待っているよ』

『じゃあ、明人お休み』

『お休み』


 さっ、お風呂入ろかな。言えば良かったかな明人に。私の恰好。そしたら…ふふふっ。




 紗耶香との電話を切ってから直ぐに京子さんから電話があった。

『はい』

『明人、GWの件なんだけど、二人でどこかに行かない?』

『えっ、急にどうしたんですか。もう目の前ですよ』

『目の前でもいいじゃない。箱根とか行く?』


『箱根ですか。噂じゃあ高いし混んでるしって聞いてますから遠慮します。それに予約も取れないでしょう』

『予約は取れるわ。高いけど。行こ』

『遠慮しておきます。お金ないですし』

『私が出すわ。明人はお金の事心配しなくていい』

『いやいや。それだったら余計行きません。お断りします』


『分かったわ。仕方ないから都内にしましょう。後お泊りもね』

『はあ、分かりました』

『ねえ、今からそっちに行って良い』

『駄目です。食事中です』


ピンポーン!


『えっ!』

『ふふっ、もうドアの外にいる。あ・け・て』

『……』

 俺どうなるの?


―――――

 

 大学生活が始まって一ヶ月弱。取敢えず静か、かな?

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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