第64話 一人暮らしは最初が大変


 紗耶香は結局大学の近くのマンション形式のアパートに住むことになった。彼女が通う事に成る城知大学四谷キャンパスは、俺が決めたアパートがある駅を通っている東京メトロ南北線という地下鉄線上にあり、紗耶香があまり俺と離れたくないという事で決まった。


 間取りは1LDK、俺のアパートより広く玄関もオートロック式のセキュリティのしっかりしたマンションだ。

 ご両親が可愛い娘を一人で見知らぬ土地に行かせるからと借りたらしい。




 俺は三月上旬には引越す事になった。せわしないけど向こうに行ってから揃えなくてはいけないものがいっぱいある。それを考えると仕方ない事だ。


 引越しをする数日前

「明人の荷物は業者に頼んだけど、向こうに行ってからの買い物は美里と一緒に決めなさい」

 母さんが、心配そうな顔をして言って来る。姉ちゃんは春休みなので時間は自由なようだ。バイトは大丈夫なんだろか?


「お母さん、任せておいて。取敢えずベッドとか、生活用品は直ぐに決めるから。でも一日では決まらないから一泊はする事になる。

 明人あんた寝袋あるでしょ。私はこっちから持って行くお布団で寝るからそれでいいわよね」

「えっ、姉ちゃん泊まるの?」

「あんたねえ。引越し日に散々付き合わせておいて、疲れた私に帰れっていうの?」

「……分かった」


「美里、頼んだわよ。お母さんも行きたいけど、行っても何も出来ないから」

「任せておいてお母さん」




 そして引越し当日、業者には午後一時位に現地で落ち合う事にした。俺の荷物と言っても二トン車とかいうトラックでも十分だった。


 父さんは仕事でいないので昨日内に挨拶をしておいた。母さんは少し涙ぐんでいたけどここからでも二時間位でアパートまで行ける。




 向こうについて予定の時間に業者から荷物を受け取ると

「さて、明人早速買い物行こうか」

「姉ちゃん何処に行くか知っているの?」


「あんたねえ、大丈夫?ちょっとネットで見れば二十分以内に〇ケヤとか〇ビとかいっぱいあるのよ」

「そうなんだ」

「呆れた。一人で大丈夫?」

「多分」

 多分大丈夫なはず?



 姉ちゃんと〇ケヤとかいう家具屋に行って寝具、カーテン、お風呂用品、洗面所、台所用品等を購入して、手に持てる物以外は送って貰う事にした。翌日には届くらしい。


 それが終わるとTV、冷蔵庫、電子オーブンとかの家電用品も購入した。これも明日には届くらしい。

 全て親からの支援だ。頭が下がる。



 帰りに姉ちゃんとファミレスに寄って食事をした。後はコンビニで姉ちゃんはお菓子とビールなんかを買っていた。俺は炭酸ジュース。


 帰ると早速、洗面所とお風呂に買って来た物を置いてお風呂に入った。まあ今日はシャワーだけだけど。姉ちゃんは時間が掛かるからと俺が先に入った。



ベッドもまだないので勉強部屋兼寝室になる予定の部屋で家から持って来た布団を敷いて寝袋を用意して待っていると


「明人出たわよ。お疲れ様会しようか」

 そう言ってコンビニから買って来たビールと俺用の炭酸飲料を出した。


 俺はジャージだが姉ちゃんは厚手のパジャマだ。ちょっと子供っぽい。でも胸の膨らみが中途半端じゃない。ちょっと目の毒だ。

「明人、お疲れ」


 姉ちゃんがビール缶のプルを取ると俺も炭酸ジュースを開けて

「お疲れ姉ちゃん」


 一口飲む、風呂上りには最高だ。

「…………」

「…………」

 少し沈黙が続いた。



「あんたがいなくなるとあの家も寂しくなるわね。私はね本当は東京の大学に来たかったの、合格もしているし。

 でもあんたもどうせ東京に出ると思うとね、お母さんの事が心配でこっちに来れなかった」

「…………」


「だから、あんたには自由に生きて欲しいの」

 姉ちゃんの顔が少しだけ赤くなって来た。もう二本目だ。


「ありがとう姉ちゃん」

「後さ、……まあいいか、あんたの自由だから」

「何の事?」

「ううん、何でもない。そろそろ寝ようか」

「うん」



 ビール缶やジュースとお菓子を台所に持って行って部屋に帰ってくると、姉ちゃんはお布団に入って寝ていた。


 疲れているんだ。


 電気を消して俺も寝袋に入って寝ようとしたけど、疲れて体が興奮しているのか寝れない。そのままぼーっとしていると


「明人」

「えっ?」


「ちょっとこっちに来てくれない。寒い」

「でも」

「良いじゃない姉弟なんだから。それとも私に風邪を引かせるつもり」

「……分かった」



姉ちゃんの布団に入って背中を向けて寝ようとすると


「明人こっち向いて」


「えっ、姉ちゃん」

「ふふっ、約束だから」


 俺は柔らかくていい匂いがするこの状態で気持ちがいいままに寝てしまった。




 私水森美里は、弟の明人が東京に出るのは仕方ないと思っている。弟は勉強が人一倍出来る。身長も高い。顔はイケメンとは言えないけど普通。性格は優しくて友達思い、人の悪口は聞いたことが無い。でもちょっと優柔不断。


 だから多分もてるだろうと思った。弟が初めに付き合った子は高橋綾乃という可愛くて頭が良くて内気な子だった。


 とても仲が良くてこのまま行くのかなと思ったら女の方が浮気した。挙句トラブルを色々起こして退学になっている。


 二人目は一条紗耶香という子。まあ普通に可愛い子。この子も内気だけど高橋綾乃より良いと思った。


 長く続くと思ったけど高橋綾乃の罠にかかって貶められた。でも明人とはその後何とか復活したみたい。長く続くかはわからない。


 弟が高校に入学して一学期が終わる頃、生徒会の後輩、鏡京子に弟の事を聞かれた。どうも弟に興味を持っているらしい。容姿端麗、頭脳明晰、性格積極的でお姉さん肌。


 明人にはこういう子がいいのだろうと感じた。そして京子は上手く明人を手に入れたみたいだ。少し安心。


 でも京子から別の話が入って来た。柏原桃子という子が明人を好いているらしい。その子は容姿は普通だが、頭がいい。性格もまずまずだ。でも明人にはそんなに積極的に接してはいないらしい。


 私はこの三人ならば鏡京子を選んで欲しいと思っている。当然明人次第だが。


 東京に出て来た明人の事は京子から情報が常に入るはずだ。問題ないだろう。このアパートは京子のマンションの近くだから。



 ふふっ、弟は私の胸の中に顔を埋めて寝ている。別に明人に抱いて欲しい訳じゃない。


 私は明人が可愛くて仕方がない。だから私が弟を抱き絞めている。普段こんな事出来ないけど今日位はいいだろう。

 弟が目を覚まして望むなら少し位触らせても良いか。明日の朝が楽しみだ。




 翌朝、俺は柔らかいものに抱かれている感じがした。覚醒しないままに手を伸ばすとなぜか気持ちいい。そのまま手を下に持って行くともっと柔らかかった。少し撫でていると

「う、うん」


 えっ、何?ゆっくりと目を開けると

「えっ、姉ちゃん」

「起きたの明人」


ぐいと頭を後ろから押さえられた。顔が埋もれている。

「ね、姉ちゃん、何しているの?」

「いいよ。明人もう少しこのままで。お姉ちゃんもう少し眠りたい。触りたければ何処触っても良いよ。お休み」



 なんか俺も寝てしまった。姉ちゃんの体は柔らかくていい匂いがしてとても気持ち良かった。

 少しの間眠った後、目を開けるともう姉ちゃんはいなかった。



 布団から這い出て部屋を出ると姉ちゃんが

「明人、起きたの。顔洗って来て。コーヒーとパンと目玉焼きだけだけど朝ごはんにしようか」

「うん、ありがとう」


 ふふっ、明人を胸に抱いて寝ている間、とても幸せな気持ちだった。この位いいよね。

 でも少し位触るかと思って期待していたのに。やっぱり明人ね。しっかり寝ていたわ。

 


 姉ちゃんは、昨日買った荷物が全部届いた午後四時ごろ帰って行った。


―――――

 

ふむ。お姉ちゃん母性本能に目覚めましたかね?

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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