第65話 入学式までもう少し


 俺は、入学までの間、なれる為に学校まで行ってみたり、近所を散歩したりしている。俺の住んでいるここは結構静かな所だけど、地下鉄の入口のある大きな通りに出ると神社、公園、それに病院と消防署まである。

 車の通りは結構多い。実家のある町では考えられない位だ。


 紗耶香とは毎日電話している。引越しを手伝うと言ったが、業者が全部やってくれるらしい。それにお父さんが一緒に出て来ているからという事で遠慮した。


 問題は……問題でもないが、京子さんの住むマンションが、俺のアパートから歩いて三分も掛からない所だったという事だ。


 姉ちゃんと先輩にはめられた感はあるが、もうどうしようもなかった。毎日とは言わないが、連絡も無しに二日に一回は訪ねて来る。

 流石に来る時はスマホで連絡してくれと言うと


「じゃあ、合鍵貸して」

「いや、流石にそれ不味いでしょ」

「なんで、何か不味い事あるの?」


「俺まだ越して来たばかりだし、いきなりは」

「じゃあ、いずれ貸してくれるのね。そうだわ。私のマンションの合鍵はいま渡してもいいわよ」

 なんて事言う人だ。まったく。


「貰えないに決まっているじゃないですか。俺がもし落としたらどうするんですか」

「ふふっ、その時は責任取って貰うわ。私がこっちに住む」

「いやいやそれは」


 そんなやり取りをして何とか、とにかく駄目です。来る時は連絡が先という事で納得?して貰った。




 私鏡京子、明人君が東京に出て来るという事で、早速水森先輩と相談して私の近くに有るマンション形式のアパートを紹介した。物件としては問題ないはず。


 彼は直ぐに気に入った様で仮契約を済ましたと先輩から電話があった。後は引越し日を聞いておけばそれでいい。


 引越しは三月の中旬。一通り引越しが終わった三日後、彼のマンションの前で待った。運のいい事に彼は待ってから十分もしない内に降りて来た。


 私はいかにも偶然の様に振舞って、私の住まいも近くなのと空々しく言っておいた。後は簡単。知ってはいるけど彼の部屋に案内して貰って、次は私のマンションに招いて今に至る。


 学校開始まで後四日。入学式は中旬にある。楽しみで仕方ない。いずれは彼と一緒に……。




 ちょっと一条紗耶香視点


 お父さんが借りてくれたマンションは、ほんと街中にあるという感じだ。大学まで歩いて十分。大きな通りは車も多く、人通りも多い。最初は目が回る様だった。


 大学へは入試の時と手続きの時に行っているが、こっちに来てから何回か行って感覚を慣れる様にした。

 やはり私が住んでいた所とは違う。期待より不安の方がまだ大きい。


 近くにはスーパーやコンビニもあるけどちょっと高い。支出をしっかりしないといけないと感じた。


 明人とは毎日連絡している。昨日も会えた。私の所から明人のアパートまで四十分位。少し遠いけど会えない距離じゃない。遅くなったらどっちかに泊れば良いだけ。


 

入学して少し落ち着いたら明人の所に泊りに行ってみよう。


…………。


 俺は大学生活が始まる前に大学の周りの事も知っておこうと思い、昼前にアパートを出て大学のある駅に来た。


 少しお腹も空いていたので地下鉄から出た所で何気なく駅近くに有ったラーメン屋に入った。少し濃いめ系ぽっかたが、探すのも面倒と思ったからだ。


 券売機でラーメンのチケットを買いカウンタに座ってチケット渡して待っていると

「水森君♡」

「えっ?」

 いきなり後ろから声を掛けられた。後ろを振り向くと


「柏原さん!」

「えっ、何そんなに驚いているの?」

「いや、いきなりなんで」

「ねえ、隣に座っていい?」

「良いですけど」

 俺に断る権利はない。ここはラーメン屋だ。


「あの、何で柏原さんがここに?」

「何でって、目の前にある大学に四月から通うからよ。今日は下見。水森君もでしょ」

「そうですけど」


 まさか柏原さんと会うとは思わなかった。確かに彼女ならおかしくないけど。偶然過ぎる。

「ねえ、水森君は理学部よね」

「ええそうです」

「そう、私もよ。本当は文学部にしようと思ったんだけどね。最初は基礎だから一緒ね」

「そうなんですか?」

 この人何を言いたいのか分からない。



「水森君はどの辺に住む事にしたの?私はここから二十分位の所」

「…………」

「教えてくれたっていいじゃない。同じ高校だったんだし」

 柏原さんなんか突っ込んでくるな。


「ここから三十分位の所です」

「そうなの、じゃあ近いわね。嬉しいわ。ここ同じ高校から入ったのって君と私位だから会えないかなと思っていたんだ。

 でも良かった。偶然でも会えたし嬉しいな。これから宜しくね」

「あっ、はい」

 なんか不味いな。



ちょっと柏原桃子視点


 ふふっ、通学になれる為、下見に来てみた。駅から出て少しブラっとすると、えっ、水森君がラーメン屋に入っていく。


 これは偶然というより私の気持ちが恋の女神に届いたのかと思った。直ぐに入ると彼がカウンタに座っていた。


 券売機でチケット買って、後ろからススッと寄って声を掛けたら驚いていたけどこれできっかけが出来た。後は彼の授業になるだけ一緒に出れば。



 高橋さんもいない。一条さんもいない。高校の時から溜めていた思いを思い切り彼にぶつける事が出来る。


 注意すべきは鏡先輩だけど彼女は二年それに三類。私達とはそんなに接触機会はない。これからのキャンパスライフが楽しみだわ。



 俺は、ラーメンを食べて素早くその場を出ようとすると

「あっ、ちょっと待って水森君。もうすぐ食べ終わるから」

「でも」

「いいじゃない」


 仕方なしに柏原さんが食べ終わるのを待ってラーメン屋を出た。もう帰りたくなって駅に向おうとすると

「ねえ、水森君少し話できないかな?アパートに帰っても誰も居なんだ」

 上目遣いに聞いてくる。はっきり言って断りたい。でも無下にするのは良くないし。


「じゃあ、柏原さんのアパートの最寄りの駅まで」

「うんいいよ」


 地下鉄ホームに入って電車を待つ。何故かこんな時に限って中々来ない。やっと電車がホームに入って来た。

 

 でも彼女が駅で降りるまでに俺は入学式の会場入り口で待ち合わせをする約束をさせられた。



―――――

 

 明人、君は運が良いのか悪いのか?

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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