第63話 綾乃は諦めない


気分悪くなったらごめんなさい。

時間は少し戻ります。


―――――


 私高橋綾乃


 六月の中旬に警察に任意同行を求められた。


 私はたぶん聞きたいであろう事を先にこちらで話してしまった。やり取りが面倒と思ったからだ。


 事情聴取を担当した女性警察官は、目を丸くして呆れた顔をしていたが、その後少しの質問の後、家に帰された。


 この時点では逮捕状も司法判断も出ていない、聞きたい事は全て話してくれたという事だが、刑事と民事の両方で訴訟を起こされるだろうから、勝手な動きはしない事、但しそれは学業を妨げるものではないと言われた。


 そんな事言われても、もう退学は確定している。近隣高校は転校しても直ぐにばれるだろうからという事で、両親と相談して県を変えて転校する事にした。


 警察にはお父さんとお母さんが弁護士を通して説得に当たってくれ、親が私を完全保護下に置くと言う事を条件に他県への転校を許可してくれた。


 転校したのは、その県でもトップの進学校。でも転入試験は簡単だった。問題なく転入出来たが、夏休み直後に転校してくる生徒という目で見られた。


 一人で居るのは慣れている。ここでも勉強に集中した。


 そして二学期の中間テストの結果は、私が一位だった。それも満点に近い点数で。

それから周りの見る目が変わった。


「ねえ高橋さん。少しお話しても良いかな?」

「高橋さん、お弁当一緒に食べない?」

 まあ女子生徒からはこんな感じだが、男子生徒からは


「高橋さん、今度勉強教えて下さい」

「高橋さん、趣味なんですか?」

「高橋さん、今度学校の帰りに話でもしませんか」


 一気に五月蠅い状況になってしまった。男子生徒はともかく女子生徒には良い顔しておこうと思い、一応教室内での話やお弁当は一緒に食べる事にした。


 ただ、その頃から下駄箱に手紙が入る様になった。それらは全く無視した。呼ばれた場所に行く事等していない。時間の無駄だから。


 この学校に来た目的はただ一つ、明人と同じ大学に入る為。そして志望校としてあの大学だけを書いた時、担任の先生が飽きれた顔をして


「高橋さん、本当にここだけで良いんですか?」

「ここ以外の大学に入る意味が無いので」

「そうですか。滑り止めとか考えておいた方がいいですよ」

「興味ありません」

「…………」


 先生は呆れた顔をしていたが、明人のいない大学なんて行っても意味が無い。万一今年落ちても来年受験するだけだ。




 そして一般入試発表当日、帝都大学のHPで私の受験番号は有った。一応その日の内に担任に報告に行くと手の平を返した様に喜んでくれた。


「高橋さん、先生あなたが受かると思っていたわ。それも理学部三類なんてすごいじゃない。

 この大学にはもう一人受かった事がいるけど、その子は別の学部だもの。先生嬉しいわ。ちょっと待ってね」


 そう言うと教頭先生の所に行って、更に二人で校長先生の所に行った。はっきり言ってもう帰りたい。

先生が帰って来た。

「ねえ、高橋さん、ちょっとだけ時間ある。校長先生がお話したいって」

「いいですよ」


 ここで断っても悪い印象になるだけだ。その後はやたら褒められ、最初転校してきた時は心配したとか、担任の先生は凄いとか言っていた。担任が私を待たした理由が見えた気がした。


 卒業式当日は大変だった。クラスメイトは私学だけ。それも京王、和瀬田はいない。それだけに私をほめそやしていたがうんざりだった。一応私も謙遜したけど。上辺だけね。


 それよりもうこの人達と会う事が無いと思うと気が楽だった。


 言い忘れたけど、私がこの高校にいる間、アパートを借りてお母さんがずっと面倒を見てくれていた。それだけに今回の合格はお父さんもお母さんもとても喜んでくれた。


 今回ばかりは医者になって親に孝行しないといけないと思った。後は、東京での生活の準備。


 明人は、大学から三十分圏内位のアパートを借りるはず。付き合っていた時の彼の性格から簡単に想像できる。


 でもあまり近すぎても駄目。上手く探さないと。ここまで来れば一条さんや柏木さんは関係ない。一番気になるのは鏡さん。



 私は、大学の相談会を利用して郊外方面に三十分以内のマンション形式のアパートを見つけた。両親が女の子を一人で東京に出すのは心配と言う事でオートロック式で管理人常駐のセキュリティの高い所を選んでくれた。親には感謝しかない。


 ここからは南北線で大学まで一本で行ける。駅からは五分。コンビニやスーパーが駅からアパートまでの間にある。生活にも困らなそうだ。


 アルバイトは二年から。慣れるまでは親が小遣いや勉強に必要なお金などはすべて出してくれるという。


 準備は整った。後は四年間という時間を使って明人との関係を再度築き上げるだけだ。


―――――

 

 刑事や民事及びその被疑者に対する対応は作品の都合に合わせたものであり、住居制限など実態とそれているかもしれませんが、ご配慮の程お願いします。


 綾乃、君は凄いよ。

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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