第62話 東京に行く前に
大学編が始まるまでの束の間です。
―――――
俺は紗耶香と一緒に彼女の部屋で帝都大学のHPを見ていた。何回見ても紗耶香の受験番号がない。
「明人。落ちちゃったよ。どうしよう」
紗耶香の目に段々涙が溜まって来ると俺の肩に顔を乗せて大きな声で泣き始めた。
俺も彼女は受かるとばかり思っていた。何処が悪かったなんて今考えても仕方ない。ただ彼女の背中を擦る事しか出来なった。
ずいぶんの間泣いた後、顔を肩に着けたままで
「明人、落ちちゃった。もう一緒に同じ大学に行けない」
また泣き始めた。彼女の心情を思うと声の掛けようが無い。今は泣くままにさせておくしかなかった。
また泣き止むと
「明人、私が別の大学に行っても私達ずっと一緒だよね。私を捨てるなんて無いよね」
「何言っているんだ紗耶香。そんな事ある訳無いだろう。アパートを同じ所にしてもいいじゃないか。部屋は分けないといけないけど。駄目でも近くにすればいいだけだし」
「でも、そんな事出来るの?」
「まだ、東京でアパート探ししていないけど何とかなるだろう」
東京のアパート事情を知らない俺はこの時そう思っていた。
この時間まだ紗耶香のご両親は仕事中だ。この事は知らない。
「紗耶香、とにかくこの事をご両親に伝えて今後の事考えよう。紗耶香の大学もそんなに遠くにある訳じゃないし」
「うん。明人……」
「なに?」
「私をぎゅうっと抱き絞めて。思い切り。私が壊れてしまう位。そしたら大丈夫な気持ちになれるかもしれない」
「分かった」
俺は紗耶香を思い切り抱きしめた。少し痛いんじゃ何かと思う位。彼女の顔は俺の胸にある。そうしていると紗耶香は顔を胸からずらして上目遣いに
「明人やっぱり……」
「分かった」
………………。
やっぱりこれが一番落ち着く。明人が私の側にいてくれるという気持ちになる。
明人を離したくない。ずっと彼とどんな時でも一緒にいれると思っていた。でも大学が違ってしまった。不安しかない。
彼が目を開けた。
「明人、もっとして」
私の方から彼に激しく求めた。こうしている時が一番安心できる。彼と一緒に居るって。
もう午後五時を過ぎていた。お母さんが帰って来ている。お母さんには直ぐに結果を伝えた。とても残念がっていたけど私立が合格しているんだからと言って励ましてくれた。
時間なので仕方なく明人を駅まで送って行った。もうこの季節この時間でも明るさはあるけれど、彼が心配だからってまた家まで送ってくれた。そして送って来て貰った明人が帰って行った。
彼の後姿を見てこんなに寂しく不安になったのは始めただ。でも何とかしないと。
俺は家に帰ると
「ただいま」
「お帰り明人」
何故か最近姉ちゃんが玄関に迎えに来てくれる。
「紗耶香ちゃんどうだった?」
「駄目だった」
「え、えーっ。…受かるとばかり思っていたのに。そう」
姉ちゃんが本当に残念そうに言っている。でも落ちた事はもう仕方ない。俺は一度部屋に戻って部屋着に着替えた後、ダイニングに行った。
母さんが、
「明人、東京に行く為の準備しないとね。色々買うものあるんじゃない?」
何故か嬉しそうに言っている。
「お母さん、明人がアパート決めてからのが良いよ。向こうで買って入れて貰った方が簡単だし」
「そう」
今度は母さんが残念そうな顔をしている。
「明人、それより早くアパート決めないと。今の時期だと結構厳しくなっているよ。特に大学の近くはね」
「うん、紗耶香と一緒に決めるよ」
「明人、可哀そうだけど急いで決めなさい。あなたが決めてから紗耶香ちゃんが決めればいいじゃない」
「そうかもしれないけど」
本当は大学側から住まいとかも含めて色々な相談会があるけれど、紗耶香の事があるからと参加しないでいた。他の案内はネットでも参加できる。
だけど、いずれにしろ急ぐ必要ある。
「美里、早速一緒に東京に行って探して来て」
「お母さん、今はネットで探せるから。絞り込んだら現場を見に行くよ」
「そうなの?便利になったものね」
ちょっと美里視点
私は、明人が大学生活を素敵に送れる場所を探してあげたいけど、家賃や周りの物価も考えないといけない。おいそれとここですとは言えない。
やっぱり京子に声を掛けるのが一番か。弟には分からない様に聞いて勧めて見るのが一番ね。
でも彼女お金持ちだからな。庶民感覚あるのかな?とにかく連絡して見るか。
…………。
俺は、風呂から上がると自分の部屋に戻ってから紗耶香に連絡した。
『はい、紗耶香です』
『紗耶香、東京のアパートの事なんだけど。俺がアパートを先に決めるからその後、紗耶香のアパートを決めようか。そうすれば俺のアパートの近くに紗耶香のアパートを借りる事が出来る』
『うん、良いけど。でも明人のアパートいつ決まるの?引越しとか考えるともうあまり時間無い』
『なるべく早く決めるよ』
でもまだ何も見えていない。
翌日、朝食をとっていると姉ちゃんが二階から降りて来た。
「明人、ちょっと私の方で昨日の夜、探した物件がいくつかあるの。スマホに送っておくから見て。あんたが良さそうだと思った所見に行きなさい」
「えっ、俺一人で」
「そんな訳無いでしょ。不動産屋と話も出来ないでしょ。あんた。私がついて行く」
「ありがとう」
その日の夜、父さんに姉ちゃんから勧められたアパートを説明した。家賃の件とか色々ある。
俺には書いて有る家賃が高いか安いかなんて基準を持っていない。ネットで掲載されている値段で判断するしかなかった。姉ちゃんも一生懸命父さんを説得してくれた。
そして翌日、不動産屋に連絡を入れてその日の午後、案内してもらうことになった。
築二十年で六階建ての五階、風呂トイレ付の1DKだ。学校から電車と徒歩で三十分。悪くないと言う事で決める事にした。
仮契約とか直ぐにして、本契約は親とするという事で決まった。
少し遅くなったが、家に戻ると直ぐに紗耶香に連絡した。
でも大学の位置関係が分からなかった俺は決めたアパートが、俺の行く大学から見ると紗耶香の大学方向とは反対側だった。
―――――
ふむ、そうですか。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます