第61話 現実は厳しい


時間の流れが速いです。


―――――


三学期が始まった。


 俺と紗耶香は一月中旬に実施された共通テストを受けた後、二人で結果を確認した。俺も綾香も問題ない結果だった。


 そして二月中旬、紗耶香は第一次選抜を通り、俺は志望大学から合格通知を受け取った。


「明人、合格おめでとう」

「ありがとう。紗耶香も第一次選抜は通っているから、後は二月末の二次試験と面接だけだよ」

「だけだよって言っても」


 紗耶香は一応滑り止めとして東京の私立大学を受験している。そしてそこは合格した。だが、そこは俺と一緒に行く予定の大学の二次試験と面接の結果を待たず手続き締め切りになっている。


「明人、両親と話してこっちは手続き取る事にした。もし明人と同じ大学に行けなくても東京の大学には行ける。そうすれば……」

「うん。分かっている。でも紗耶香も受かるよ」

 紗耶香の家は我が家と違って裕福だ。それに一人っ子。経済的に問題ないんだろう。


 俺は家に帰ると早速姉ちゃんが


「明人、アパート探し早くしないとね。三月に入るとアパート探しも大変になるから」

「うん、でも紗耶香が決まってから見つけたい」

「あんた達同棲する訳じゃないでしょ」

「同棲!」

 母さんが反応した。


「いやいや、するわけないだろう。近くには借りたいけど」

「同じじゃない!」

 母さんがまだ気にしている。


「母さん、そんなことないよ」

「お母さん、明人と紗耶香ちゃんが同じ大学なら向こうの親と話して同居させたら。安く済むわよ」

「何言っているの姉ちゃん。そんな事許される訳ないだろう」

「ふふっ、冗談に決まってるわ。でもアパートは早く探した方が良いわよ。東京の通学はこっちの比じゃないから」

「噂では聞いている」


「京子に聞いてみようか?」

「勝手にするなよ。自分で決める」

 冗談じゃない。京子さんには一般入試と伝えてあるからまだ分からないはずだ。


「そう、でも京子から連絡来るかも。私あんたが合格した事伝えたから」

 私としては紗耶香ちゃんには悪いけど、明人には京子を選んで欲しい。この子の為にも。


「えーっ。なんで言っちゃったの?」

「いいじゃない。どうせ分かるんだから」


 今まで受験があるからと二週間に一回会う約束は止めていた。これじゃまた復活してしまう。いやもっと始末に悪いかも。




 そしてその日の夜、ベッドに入りながらまだ寝るには早いと思っていた時間


ブルル。ブルル。


スマホが震えている。嫌な予感。スマホの画面を見ると、やっぱり。


「はい、明人です」

「明人。合格おめでとう。凄いわね。推薦入学なんて」

「いえ。京子さん、いつもなら今週の土曜ですよね。連絡するの」


「いいじゃない。明人が合格したんだから。ねえアパート探すんでしょ。私のアパート空き始めたよ。早く手続きしようよ」

「いや、待って待って。俺京子さんのアパート知らないし」

「そうか、じゃあ教えてあげるから、今度の土日来る?」


「えっ、それは無理です。いきなり東京なんて」

 紗耶香の件が落着くまでは決める訳にはいかない。


「でも明人、これで二週間に一回会うの復活出来るわね。あっ、そうか東京に来て同じ大学だったら毎日会えるか。同じ学部だし」

「でも京子さん三類でしょ。俺二類ですから」

「大した距離じゃないわ。ねっ、アパート一緒にしよ。私の所でもいいよ。2LDKだから大丈夫だわ」


 駄目だこの人、頭の中で勝手に話が進んでいる。


「とにかくちょっと待って下さい。こちらにも準備が有りますから」

「……分かったわ。でも今週末は会えるわよね。彼女(紗耶香)入学試験と面接でしょ」

 知って言っているのか。この人は。参ったな。




 そして三月卒業式の日がやって来た。紗耶香の結果はまだ分かっていない。


 いつもの様に紗耶香の家のあるホームで待合せ、一緒に学校に行く。今日は紗耶香も少しメイクしている様だ。いつもより一段と可愛い。



「紗耶香今日は一段と可愛いな」

「ふふっ、これで学校最後だものね」


 教室に入るとみんなが浮足立っているのが分かる。まあ俺もそうだが。早速柏原さんが寄って来た。


「水森君、おはよ。志望校は受かったんだよね?」

「ああ、二月中旬にね。もう入学手続きも終わっている」

「えーっ、私なんかまだ発表待っているというのに」


 他の女子達が寄って来た。

「ねえ、ねえ、水森君、帝都大学の入学手続きもう終わっているの?まだ結果発表してないよね?」

「ああ、俺推薦だったから」

「え、え、えーーーーっ。推薦で合格!あの大学に!」

「ああ、やっぱり私、水森君に一年の時から仲良くしていれば」

「「私も」」


 側にいる紗耶香が思い切り不満顔している。

「いや、俺紗耶香がいるから」

「ぶ、ぶ、ぶーっ、一条さんだけ狡い!」


 急に紗耶香の機嫌が良くなった。良かった。


 卒業式は在校生と両親を迎えて盛大に行われた。柏原さんが卒業生代表として挨拶している。生徒の間からもすすり泣く声が聞こえてきて、ああ本当に終わるんだなと実感して来た。



 卒業式もつつがなく終わり教室に戻ると

「水森君、私が大学受かったら、向こうでも宜しくね」

「ああ、そうだね。でも学部違うでしょ」

 紗耶香の手前ちょっと冷たく言った。ごめん柏原さん。


「冷たいなあ。一条さんも一緒なんだからみんなで楽しくしようよ」

「そうだね」

「柏原さん、そうですね。あなたが受かればですけど」

「一条さん強気ね。私は大丈夫よ。あなたは大丈夫なの?」

「柏原さんこそ強気ね。私は受かるなんて言わないけど」


 何となく不穏な空気が流れ始めた頃、担任の黒沢野乃花先生がバッチリとメイクして素敵な洋服で入って来た。良かった。



 そして高校生活が終わった。



 俺と紗耶香、それに正則と今泉さんも合流して一緒に帰っている。みんな手には卒業証書の筒を持っている。


「明人、流石だな。帝都大学推薦合格とは」

「ありがとう。でも正則も今泉さんも決まっているんだろう?」

「ああ、二人共京王大学だ。東京では一緒に住む事になっている」


 ドカッ!

 思い切り今泉さんに正則が背中を叩かれた。


「痛っ!」

「もう、正則は口が軽いんだから。そんな事言わなくてもいいでしょ」

「だって、俺達もう婚約もしたし」

「えっ、そうかおめでとう」

「ありがとう」

 今泉さんが下を向いて耳まで赤くしている。


「正則良かったじゃないか」

「ああ、とっても嬉しいよ。でも明人、向こうでも会えるな。楽しみにしている。アパート決まったら教えてくれよ」

「ああ、正則もな」



そんな事を言って正則と今泉さんと駅で別れた。


「いいなあ、あの二人」

「そうか。俺はまだいいや。後四年好きな事してからでも遅くないし」

「明人……」

 紗耶香が寂しそうな顔をしている。


「そんな顔しないの。正則達と俺達は違うんだから」

「分かっているけど」


 


 そして帝都大学一般入試の結果がHPに公開された。


「明人、私の受験番号が無い」


―――――

 

 紗耶香ちゃん。合格しなかったの?


 ここまでが本作品の高校までのお話です。お楽しみ頂けたでしょうか。

後半少し急ぎ足でしたが、何とか明人達を高校卒業までさせる事が出来ました。


そして、次回からは大学編になります。

そう言えば第五十話で綾乃がもう少し出て来ますと書きましたが、出て来ていないとお気づきの読者様もいると思います。

 実は大学編で出て来ます。高校時代の様な警察沙汰にはなりませんが、まだまだ賑やかです。

 

次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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