第60話 賑やかな新年


 あっという間に新しい年が明けた。俺と紗耶香は、塾の冬季特別講習も終わり元旦に近くの神社にお参りに来ている。

 当然、紗耶香の家に迎えには行っている。


「今年も並んでいるね」

「ああ、そうだな」


 境内に続く参道は両脇に出店が出て賑わっている。そんな風景を見ながら歩いていると順番が来た。


 大きな賽銭箱にお賽銭を入れ両手で今年の大事なお願いをする。頭に有った事を一通りお願いして顔を上げるとまだ紗耶香が手を合わせて祈っていた。


 長いなと思いつつ勝手にその場を離れられないので、後ろの視線を気にしながら待っているとやっと彼女が頭を上げた。


 俺に目を合わせると少し恥ずかしそうな顔をして

「一杯お願いしちゃった」


「長かったね」

「うん、色々お願い事が合って」

「そうか。聞きたいけど止めとくよ」

「ふふっ、そうだね。言ったら叶わないからね。ねえ、今年もおみくじしよ」

「うん」


 二人でお金を箱に入れた後、じゃらじゃらと番号の書いて有る棒を筒の中から出して出た番号が書いて有る棚の箱を引いておみくじを取る。


「おっ、大吉だ。願い事叶う。やったぜ」

「私はっと、えーっ、吉だよ」

「でも吉って大吉の次だから良いんじゃないか」

「やだ。明人だけ大吉なんてずるい」


 そう言って、俺の腕をポカポカと叩いた。なんかこのシチュエーション思い出すような?


「明人、今年も私の家でおせち食べよ」

「うん」



ちょっと鏡京子

 水森先輩に新年挨拶を兼ねて明人にも会えないかと彼の家に行ったけど、先輩が彼は初詣に行ったと言っていた。


 行けば彼に会えるかもしれないと思い、せっかくだから先輩も誘ったが、家にいると言う事で私一人で神社に来た。


 やはり明人はいた。一条さんが楽しそうにしている。まあいいわ。水森先輩に聞いてわざわざ明人の家近くの神社に初詣に来たけどやっぱりって感じね。


 今年明人とは大学で一緒になる。ゆっくりと過ごせる。もう彼とは十分に関係を作れている。問題はないわ。


…………。


紗耶香の家にて


「明人君、あけましておめでとう」

「明けましておめでとうございます。紗耶香のお父さん、お母さん」

「嬉しいわ。お正月元旦から我が家に来てくれるなんて」

「その通りだ明人君。去年は娘がだいぶお世話になったと聞いている。今年も宜しくお願いする」


「いえ、俺は何も」

「そんな事ないわよ。明人君がいなかったら……」

「お母さんもお父さんもその辺にして。せっかく来ているんだから」

 なんか変な方向に話が行きそうなのでお母さんの話を遮った。


「そうか。明人君、私は挨拶も有って外出するがゆっくりとしていってくれ」

「ありがとうございます」


 俺は、午前中一杯紗耶香の家にいた後、明日も会う約束をして家に帰って来た。




「ただいま」

「お帰り明人」

 最近姉ちゃんが玄関に迎えに来ることが多い。


 手洗いとうがいをしてリビングに行くと

「お帰りなさい。明人君」

「えっ、京子さん」

 なぜ、京子さんが俺の家に?


「あら、もうお互い名前呼びなの」

 しまった。つい口から出てしまった。


「あっ、いや……」

「良いじゃない。私は別に構わないわよ」

「姉ちゃんがそんな事言っても…」


「明人君、明けましておめでとう」

「明けましておめでとうございます。京子さん。ところでなんでいるの?」

「酷いな。明人君の顔が見たくて来たのに」

「でもいきなりだから」

「明人良いじゃない。京子がせっかく来てくれたんだから」


「姉ちゃん、父さんと母さんは?」

「お父さんはダイニングでお酒飲んでいるわ。お母さんはその相手。お正月だからね」

「ねえ、明人君の部屋を見たな」

「えっ!」

「良いじゃない明人」

「…………」


 仕方なく、俺の部屋に連れて来た。ちょっと抵抗あるんだけど。

「へえ、ここが明人の部屋か」

 急に君無くなったよ。


「京子さん、何も無いですよ。男子高校生の部屋ですから」

「そうなの?男子高校生って言ったら色々あるんじゃない。例えば○○本とか」

「そんなもの、持っていません」

「そうなんだ。残念。ところで…」


 急に俺の側に来て腕を俺の首に回した。身長差の関係で丁度京子さんの頭が俺の顎辺りにある。体を少し引いているので上目遣いだ。ほんとこの人綺麗で可愛い。


「ねえ、初キスしない」

「えっ?!」

「良いじゃない」


 彼女がちょっと背伸びして俺に唇を合わせて来た。結構しっかりと口付けして来ている。仕方なく彼女の背中に手を回すと一度唇を離して俺をじっと見た後、またして来た。


 何分位続いたのかと思う位長い口付けの後

「ねえ、私五日に東京に帰るの。四日に会わない?」

「四日ですか?」

「だって、三が日は明人も用事があるでしょ。それは許してあげるから。ねっ」


 そういう事。俺が紗耶香と三が日会って良いから四日に会えと。

「良いですよ」

「本当!じゃあ、高校のある駅の二つ向こうの駅の改札に来て」

「それって?」

「うん、私の家の最寄駅よ」

「でも」

「構わないから」

「分かりました」



 その夜、ダイニングで家族で食事をしていると父さんが話しかけて来た。

「明人、受験の方はどうだ?」

「うん、後は共通テストだけ。共通テストは模試や、試しテストでA判定取っているから、多分問題ないと思うけど」

「そうか、じゃあ合格通知来たら直ぐにアパート探さないとな」


「うん、全然土地勘無いからどうしようかと思っている」

「京子に聞けば?」

「美里、京子って誰だ?」

「お父さん、昼間来ていたでしょ。私の高校時代の後輩で明人の一つ上。明人が行く大学の三類にいる子よ」


「ああ、あの美人さんか。そうか。それは心強いな。美里から連絡取れるのか?」

「ううん、もう明人から連絡取れる。仲いいから」

「姉ちゃん!」

 なんでここで京子さんの事言うんだよ。


「良いじゃない。先輩になるんだし丁度いいじゃない」

「えっ、美里どういう事」

「お母さん、別に京子と明人とは先輩後輩の仲というだけよ。あの子生徒会長やっていてその時、明人もちょっと関係していたから知合いになったていう事。ねっ明人」

「…………」


「そうなの。勘違いしてしまったわ。明人は紗耶香ちゃんと付き合っていると思っているから」

 不味い流れになっている。ここで切らないと。


「分かった姉ちゃんそうするよ。この話はもう良いだろ」

「そうだな。まだ先の話だ。合格してからの話だな」

 良かった。東京は分からないから少しは頼るしかないか。



 俺は翌日二日と三日は紗耶香と一緒に居た。流石に三が日は両方とも両親が居るのであれは出来なかったけど、二人でイチャイチャしていたから彼女はとても良かったみたいだ。


 そして四日目、俺は京子さんが指定した駅で降りた。言われた時間は午後一時。改札を出ると京子さんが待っていた。


「明人、来てくれてありがとう」

「まあ、呼ばれたので」

「つれないわね。もう少し言い方無いの」

「スミマセン」

「まあ、いいわ。さっ行こう」

 いきなり手を繋がれた。



 連れて来られたのは、大きな家が並ぶ一角にある結構な大きさの家。

「ここよ」

「大きいですね。我が家の二倍はありそう」

「そんな事気にしない。上がって」


 玄関に入るととても大きな上り口が有って、大理石が引いてある。凄いな。

「ご家族はいないんですか?」

「みんな出かけているわ。もう社会人は会社よ。こっちよ」


 廊下を歩いて途中で階段を上がると四部屋有った。

「広いですね」

「まあね。さっ入って」


 京子さんがドアを開けると八畳は有りそうな部屋が有った。

「ふふっ、やっと二人きりになれたわ。明人」

 俺の背中に手を回して来た。顔は俺の胸に当てている。

「えっ!」

「明人、私また明日から東京よ。だから明人の事、ねっ」


 ふふっ、明人は優しい。決して断らない。そして優しくしてくれる。


…………。


 嬉しい。これでまた二週間我慢出来る。明人。


 彼が私の横で寝ている。可愛い。体は大きいけど寝ている顔は本当に可愛い。

唇にキスをしてあげると目も開けないまま私の背中に手を回して来た。



 俺は目を覚ますと横に京子さんが寝ている。本当に綺麗だ。体も綺麗。完全に引きずり込まれている。

時計を見るともう午後三時だ。


「京子さん。もう午後三時ですよ」

「うん、まだ大丈夫よ」


結局俺は、夕方五時まで京子さんの部屋にいた。


―――――

 

静かで波乱な?年明けです。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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