第58話 学園祭での出来事その二


 俺と柏原さんは早速巡回に出た。今日は外回りだ。二日目は出店する側も慣れて来て緩みもでる。更に外部の方生徒関係者だけど入って来るので特によく見て欲しいと柏原さんから言われた。


 校門を先に見て外部の方への案内が問題ないか見た後、生徒の模擬出店を見る事にした。その後はイベント会場だ。


 俺達のクラス三Aの模擬店にもいったが、紗耶香はテントの後ろで具材準備をしている。近づくと紗耶香と視線が合った。微笑んでいたので問題なさそうだと思い、他の模擬店も見た後、イベント会場に行く。


 体育館で開催されているが、ここに来て柏原さんが、

「ねえ、巡回も問題なさそうだからこれ少し見て行こう」

「えっ、良いんですか?」

「いいのいいの」

「…………」

 いいのかよ。全く!


 中々人気のあるバンドみたいで女子達がキャアキャア騒いでいる。後ろの方に来るといきなり柏原さんが俺の腕を掴んで来た。

「柏原さん!」


 振り払おうとすると

「こういう所はこうするんでしょ。私の心のケアよ」

 何言っているんだ。もう一度離そうとすると

「お願いだから!」


 上目遣いで頼み込んで来た。

「このイベントだけですよ」

「うん、わかっている」


 ふふっ、思い切り彼の腕に私の体を擦り付けてあげるんだ。



 このバンドは二十分ほどで終わった。

「もう良いでしょ。腕離して下さい」

「ええ、もう少し」

「だめです」


 強引に彼女の巻付きから腕を抜くと

「ちぇっ、ケチ。もうちょっとさせてくれも良かったのに」

「だめです!」


「仕方ないわ、もう一度校門の所を見てから戻りましょう」


 校門に行きながら

「ねえ、水森君、放課後とか休みの日に外で会えないかな。もちろん一条さんがいるのは分かっているけど」

「無理です。お断りします」

「少し位ならいいでしょ。一条さんの二割。いや一割でも良いからさ」

「駄目です。柏原さん位素敵な人なら、俺なんかより格好いい男子が一杯いるじゃないですか」


「私、見た目に興味無いの」

「じゃあ、俺がブ男みたいじゃないですか」

「そんな風に取らなくても」

「もう校門ですよ」

「今度またね」


 校門で何もない事を確認した俺達は、生徒会室に戻った。

俺は巡回腕章を取ると椅子に座って目の前にあった、まだ口の空いていないスポドリを貰った。まだ紗耶香は戻って来ていない様だ。


「水森君、お疲れ様」

「あっ、鏡先輩」


俺の隣に座ると口を俺の耳元に近付けて

「明日の件は、今日の夜連絡するわ。」


 それだけ言うと直ぐに傍を離れて行った。


ガラガラ。


「明人いた!」

「あっ、紗耶香終わったの?」

「うん、早く終わったから明人探したんだけど。ここで待っていればよかったかな」

「えっ、探しに行ったの?」

 まさか柏原さんとイベント見てたのバレていないよな。紗耶香に誤解されたくないし、誤解しなくても今の彼女の心に要らぬストレスを掛けたくない。


「うん、廊下とか見たんだけどいなかったからここに一度戻って。もしまだ戻っていなかったら外に探しに行こうと思っていたの」


 良かった。

「そうか。じゃあいいタイミングで戻って来たな」

「うん」


「水森君、お疲れ様。まだ昼食に早いからお弁当持って行ってもいいし、ここに食べに来ても良いよ」


「ありがとうございます。でも二人で外で適当に食べますから。失礼します」



 柏原さん視点

 

 まあ、今日も水森君と二人で回れたし良かったけど、まだガードが堅いな。何とか崩したい。


 一条さんは水森君の事を好きだけど、ちょっと引いているところが有る。多分あの事が原因。水森君はあの事は気にしない様にしているけど、まだ心に残っている。


 今がチャンス。何とか彼の心の中に入りたい。五分五分とは言わないけど三分位こちらを向かせれば、後は……………。



 鏡さん視点


 ふーん、まだ一条さんは、明人に負い目があるのね。まあいいわ。彼は半分以上私のもの。彼女の実力では、あの大学には来れない。

 もっとも彼が卒業するまでには決着は着いているけどね。彼とは明日も会える。



……………。



 生徒会室を出た俺達は、早速三Cがやっている喫茶店に行った。少しゆっくりする為だ。


「やっと二人きりになれたな」

「うん、模擬店の具材準備結構大変だった。人気有ったよ」

「それは良かったな」


「ねえ明人、私が重いの知っているよね」

「まあ少し」

「柏原さんと巡回している時、変な事無かった?」

「変な事って?」


「例えば、彼女が明人の腕に思い切り絡みつくとか」

「……ちょっと有った。拒否したけど強引に掴まれて」

「そうなんだ。やっぱり。あの人明人の事好きだから何とか明人をあの人に振り向かせようとしているんだ」


「まさか……」

 確かにあるけど。


「明人、彼女と慣れ合わないで。嫌だよ私」

「大丈夫だって。俺を信じて紗耶香」


「あの、盛り上がり中済みません。注文の品を置いて行きます」

「あっ、はい」

 紗耶香が赤くなっている。俺もちょっと恥ずかしい。


 二人でカスタードクリームのケーキを食べてとアイスティを飲んだ後、丁度昼食時間になった。


「紗耶香、今食べ終わったばかりだけど、もう少しお腹空いている」

「うん、いいよ。何食べようか」

「焼きそばとたこ焼き」

「そうしようか」



 俺は紗耶香と模擬店で食事を取ってイベントを見て回った。やがて学園祭も終了時間になり、教室に戻ると他のクラスメイトもぞろぞろ帰って来た。


 普段良く話している男子が、

「水森、この後打ち上げ行くけど来ないか」

「いや、俺手伝ってないし。悪いよ」

「そんな事ないけど。そっか。仕方ないな」

 お誘いは丁重に断って紗耶香と一緒帰った。


 駅まで行く途中

「ねえ、明人。明日は用事あるって聞いているけど明後日は絶対会えるよね」

「うん大丈夫」

 学園祭は土日に開催された為、次の月火がその代休だ。


「じゃあ、私の家に九時半で良いかな?」

「うん行くよ」


 俺は紗耶香を家まで送って行った後、自宅に戻った。


「ただいま」


直ぐに姉ちゃんが玄関に来た。


「お帰り明人。どうだった文化祭?」

「疲れただけ」

「でも紗耶香ちゃんとデート出来たんでしょ」

「うん、半分位だけど」

「そう、良かったわね」


 俺は母さんと姉ちゃんと食事をした後、風呂に入ってから鏡先輩に電話した。本当は彼女から来る予定だけど。


 ツーコールで出た。


「もしもし水森です」

「はい」

「明日の件ですけど」

「明日は、明人には悪いけどデパートのあるこの前会った駅まで来てくれる。午前十時で良いかな?」

「良いですよ先輩」

「明人、二人だけの時は名前呼びでしょ」

「はい京子さん」

「じゃあ、明日ね♡」


―――――

 

 ふむ、明人君どうするの、この状況?


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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