第53話 夏休みは先輩も帰ってくる


 私鏡京子は大学入って初めての夏休み。私は実家に帰って来ていた。バイトはまだしていない。東京に出て右も左も分からない、大学も慣れていない私がいきなりバイトするのは無理だろうと親が言ってくれた。


 おかげで生活費全般と小遣いまで貰っている。申し訳ないとは思っているけど。だからせめて元気な姿を見せて上手く生活しているという事を見せるのも大事だと考えての帰省だ。


 実家に帰ってきた理由はもう一つある。彼の状況を知りたかったからだ。そこでその情報を一番早く得れる相手、そう水森美里先輩に連絡を入れた。



『水森先輩久しぶりです』

『京子久しぶりじゃない。どうしたの?』

『夏休みを利用してこっちに帰ってきています。先輩、会えませんか?』

『いいけど、いつ?』

『明日にでも』

 明日か、まあいいか。バイトのシフト入っていないし。


『いいけど何時?』

『午後一時に先輩の家ある駅の近くのファミレスで良いですか?』

『うんいいけど』

『では明日』



 翌日の午後、

「お久しぶりです水森先輩」

「久しぶりね京子。どう東京の暮らしは」

「こっちと全然違って戸惑いましたが、今はだいぶ慣れました。偶に遊びに行くのは良いですけどずっと住む街かなという思いは有りますね」


「そうなの。私は生まれてからずっとこっちだと分からないわね。ところで今日私に会ったのは弟の事?」

「流石先輩です」


「まあ、京子が卒業してから色々有ったわ。今はその修復中ってところね」

「えっ、なんか大変そうな事があったみたいですね」

 私は京子に弟の明人の周りで起こったことを一通り話した。


「そうだったんですか。それで明人君はその彼女と元の状態に戻ろうとしている訳ですか?」

「うーん、ちょっと私がそそのかしたところもあるんだけどね。弟は責任感強いし、優しいからどうしても一条さんを元の状態に戻そうとしているみたい。

 恋愛感情かどうかは分からないわ。今日も我が家で二人で勉強しているけど。前みたいな感じじゃないわね」


「どうして分かるんですか?」

「まああれよ。男と女が密室に長い時間いれば偶には変な声も聞こえて来るでしょ。それが全くないから」

 先輩は平然と言っているが未経験の私にはきつい内容だ。


「で、京子はまだ明人の事諦めていないの?東京には良い男もいるでしょ」

 京子は本当に美人だ。その辺の芸能人とはレベルが違う。言い寄る男もいるんじゃなのかな?


「言い寄る男はいますけど眼中にないですね。外見だけで声かる男には興味も有りません。

 それに明人君を諦める理由が有りませんよ。先々私は先輩の義理の妹になるつもりでいますから」


「はあ、そこまで考えているの。でも弟と一条さん、恋愛感情、今はなくても復活するのは時間の問題よ。

 一条さんは明人の事をまだ好きなのは良く分かるし、今は彼女自身のメンタル面が弟にはっきりと気持ちを言えないという所よ。弟は愛情より責任感が勝っているわね」


「そうですか」

 先輩が明人君に変な事吹き込まなければ簡単に落とせたんだけどな。


「京子、もしあなたが明人の事を本当に思ってくれているなら、一度話してみたら。弟も夏休み中毎日彼女に会っている訳でもないだろうし」

「先輩、口聞いてくれますね。明人君に」


「自分でやりなさいよ」

「私明人君の連絡先知らなくて」


「もう、分かったわ。後、事を急いては仕損じると前に言ったけど今回は良いかもね」

「分かっています。時間はあまりないようなので」

「そうじゃあ明人の事お願いね」



 まあ、この子なら他の女の子より安心できる。高校時代に言い寄られた男の人は同じ学校だけじゃない。他校や社会人もいた。


 でもその人達を全て切捨てて、ちょっと危ない場面も切り抜けて来たから。でも恋愛経験なかったはず。その辺は大丈夫なのかな?



 京子と会ったその日の夜、今明人は自分の部屋で勉強をしている。良くやるものだと弟ながら感心する。


コンコン


ガチャ


「明人入るわね」

「あっ、姉ちゃん。何か用?」

「ちょっと話出来るかな?」


 弟は問題集をじっと見た後、

「いいよ」


 私はローテーブルの前に座ると

「ねえ、鏡京子って覚えているわよね」

「うん?ああ、あの変な人覚えているよ」

 印象良くないみたいだな。


「その京子が、いま東京からこっちに帰って来ているんだ」

「そう、だから?」


「京子に会ってくれないかな?」

「なんで?」

「京子が会いたがっている」

「俺は会いたくない。断って」

「…………」

弟が問題集に戻ろうとしたので


「ねえ、お願いよ。約束しちゃったんだ」

「えーっ、俺の知らない間に勝手に約束した事なんて知らないよ」

「お願い」


 俺の側に来て腰をこっちに折って、頭の上に手を合わせている。姉ちゃんは緩いTシャツを着ているのでブラが丸見えだよ。ほんとでかいな。


 ふっと姉ちゃんが顔を上げると俺の視線が分かったのか

「明人、何処見ているの!…でも私の見たいなら見せてあげても良いから京子に会って。お願い」

「い、いやそれはいいよ」

 ちょっと見たいけど。


「じゃあ会って。ねえお姉ちゃんの為と思って。ねっ!」

「仕方ないな。でも一回だけだよ。紗耶香一緒でいい?」

「うーん、流石に。一人で会って」


「……分かった」

「じゃあ、この番号に電話して。お願い」

 そう言うと姉ちゃんは出て行ってしまった。


 これで電話すると俺のスマホの電話番号が分かっちゃうじゃないか。非通知は失礼だし。


ガチャ。


「明人、私の見たいならいつでも良いよ。その代わり約束守ってね」

「いいよ。全く!」

 ちょっと残念。


 ふふふっ、これで明人は京子に会ってくれる。まあ、私の胸なんかどうでも良いけど。小さい頃は一緒にお風呂はいったんだから。彼だって弟だったら文句言わないでしょ。


―――――


 美里さん、何考えているんですか!


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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