第50話 守らなければならない事


 綾乃と紗耶香が出席しなくなって数日が経った。俺はいつもの様に電車に乗って学校に向かう。


 紗耶香の家がある駅のホームに電車が入って来た時、っ!紗耶香がホームに立っているのを見た。俺が乗っている車両から少し後ろの位置になる。


 人をかき分けて急いでホームに降りて後ろの車両の方を見た。紗耶香が電車に乗ろうとしている。


「紗耶香!」

 思わず叫んでしまった。


 彼女は俺に気付いたのか、車両に乗らずにそこに立っている。急いで紗耶香の側まで行くと

「乗るぞ」

 彼女の手を引いて車両に入った。


 彼女は何も分からず目を丸くしている。

「ふーっ、何とか間に合ったな」


 今まで嬉々とした目で見ていた周りの人が単なる恋人か友達だと分かると急に視線を変えるのが分かった。彼女は俺の顔を見ずに視線をそらしている。

「紗耶香、今日から登校するんだ?」

「…………」


 手は離さない。紗耶香からも離そうとしない。ただ下を向いている。


 学校まで三駅あっという間に着いた。改札を出ても手は繋いだままだ。


「紗耶香」

「あ、あの。明人。私……」

「何も言うな。分かっていてこうしている」

「……あ・り・が・と」



 下駄箱で一回手を離して履き替えた後、もう一度手を握って教室に向かった。

階段ですれ違う同級生達が怪訝そうな目で見たり、驚いた顔で見ている。まあ、あれだけの騒ぎだみんな知っているんだろう。


 教室に入ると

「えっ!」

「一条さん!」

女子達も驚いた顔で見ている。



「紗耶香、鞄置いたら俺の所に来い」

「うん」

 下を向きながら頷いた。



 俺の席に来た紗耶香を座らせて俺が立った。何も話さない。


ちょっと柏原さん視点


 ありゃ、一条さん久々に登校したと思ったら水森君と手を繋いでいる。いったい?

 水森君は一条さんが自分の席に来ると席を譲った。うーん。どういう事だろう。でも水森君が立ちっぱなしは悪目立ち過ぎる。

「ねえ、水森君、私の前の席空いているから座ったら」

 彼を私の顔を見ると


「そうだな。ありがとう柏原さん」


 水森君は一条さんを見ているけど一条さんは俯いたままだ。これじゃあちょっと口挟めないわ。


 授業が始まる前に一条さんは自分の席に戻って行った。



…………。


午前中の授業が終わり昼休みになると俺は直ぐに紗耶香の所に行った。

「今日はお弁当持って来ているのか?」

 何も言わず頷いた。


「じゃあ、俺の席で待っていてくれ」

「でも……」

「俺が頼んでいるんだ」

「分かった」

「購買に行って来るから」

 急いで教室を出た。


「ねえ、どういう事」

「さあ、でも水森君。誰とも話さなかったんじゃ」

「それに一条さんは、ねえ」

「あっ、水森君が戻って来た。聞かれたかな」



 少しだけ女子達が話している事が聞こえたが無視した。

「紗耶香買って来た。食べよう」

「うん」


ちょっと紗耶香視点

 明人がとても優しくしてくれる。こんな女なのに。あいつにひどい事されてしまった。とても明人とまともに話せない。


…………。


「紗耶香、ほら食べよう」


 少しだけ涙が出そうになった。


 二人で食べ終わると

「紗耶香、外に出よう」


 俺は紗耶香の手を取って校舎裏の花壇の側に来ている。誰もいない。



「紗耶香。大丈夫か?」

 彼女は首を横に振った。


「紗耶香、俺も自分の気持ちが整理できていない。でも俺の所為でお前を酷い目に合わせてしまった。

 だから学校に来るの辛いだろうけど俺が守る。朝は前と同じように登校しよう。お昼も一緒に食べよう。

 帰りは図書室があるから一緒に帰れないけど」


 私は明人の言葉に涙を止めれなかった。只々、頷くしかなかった。こんな女を守ってくれると言ってくれた。同情や責任だろうけど、今は嬉しい。

 今日は学校に来ることが辛かったけど、何日も休んでいる訳にはいかない。だから思い切って来たらホームで明人が声を掛けてくれた。




「明人、明人。ごめん。私、私」

 えっ、明人が私の背中に手を回して抱いてくれている。


「ゆっくり癒せばいいさ」




 それから数日、俺は前と同じように毎日紗耶香と一緒に登校して一緒にお昼を食べた。でも紗耶香が図書委員に戻る事は無かった。


 もうすぐ一学期末考査だけど一緒に勉強する事もない。塾でも離れた所に座った。俺が意図的に隣に座っても離れる事は無かったけど。



一学期末テストの結果は


一位水森明人

二位柏原桃子

七位一条紗耶香



「紗耶香、何とか十位以内を維持できたな」

「うん」


 最近は少し話してくれる様になった。



「あの二人よりもどしたのかな?」

「うーん、でもそんな感じに見えないよね」

「どうなんだろう?」


 女子達の話を無視して二人で教室に戻る途中

「紗耶香、今月末には第二回の全統共通テスト模試がある。それが終われば一回目の○○入試オープンだ。一緒にがんばろう」

「うん」


 私、一条紗耶香は明人が私に優しくしてくれればくれる程、心に痛みを感じた。明人の事は今でも好き愛している。

 でもこんな体で本当に明人ともう一度やり直していいんだろうか。でも今は彼と一緒に居る事が心の落ち着きどころでもある。矛盾しているんだけど。




今日で学校も終わり明日から夏休みだ。


学校からの帰り道

「紗耶香、今年は七月末の全統共通テスト模試向けの勉強を先にやろう。その後で夏休みの宿題をしようか。でも塾の夏期強化合宿もあるからうまくこなさないとな」

「うん」


「紗耶香、勉強は俺の家でやるか?」

「でも、いいの。こんな私だよ。あなたのご両親に合わせる顔もないよ」

「誰もそんな事思っていない。一緒にやろう。明日迎えに行くから」

「ありがとう」


―――――


 ちょっと明人がかっこよく見えます。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る