第49話 梅雨入りはただじゃ済まない
白石が犯罪を犯してから一ヶ月が過ぎた。もう六月も中旬。そろそろ梅雨に入る。はっきり言って嫌いだ。今日も雨の中を一人で学校に行く。
教室に入ると俺は直ぐに本を取出して読み始めた。もう最近の日課だ。他の人からの接触は拒絶している。何か話すのも面倒になっている。
放課後、今日も図書館を一人で開けて一人で閉めた。今日も綾乃は来ていた。俺が下駄箱で履き替えて校門を出ると俺の数メートル後を付いてくる。ストーカーじゃあるまいし。
でも駅までだからもう気しにないでいたが……。いきなり綾乃が誰かからか声を掛けられた。
振り向くと綾乃が大人の男二人に囲まれている。側には警察車両が有った。どういう事だ?
私高橋綾乃は、放課後、駅に行く途中でいきなり二人の男に囲まれた。学生じゃない。誰っと思っているといきなり二人の男は胸ポケットから何かを取り出した。
「高橋綾乃さんですね。警察です。あなたに未成年者への強姦教唆(ごうかんきょうさ)の疑いが掛かっています。任意同行願います」
「えっ!」
白石の奴、私の名前を出したのか。ならばあの女も。そう思いながらも警察の人が私を車の中に入れと言っている。ふと明人の方を見るとあっ、こっちを見ている。
体が止まってしまった。
「高橋さん、早く車の中へ」
綾乃が警察に連れて行かれたどういう事だ?
分からないままに家に帰った。
食事中いきなり姉ちゃんが話しかけて来た。
「ねえ、明人」
「なに?」
「あんた、紗耶香ちゃんと話した?」
「何言っているんだ。話す訳無いだろうあんな奴。それに向こうが俺を拒絶しているんだ。もうそんな話に出すなよ」
「そうか……」
この子はまだ知らないんだ。私がまだ言う事は出来ないわね。
ちょっと紗耶香です。
私は家に帰って来るとスマホに着信があった。誰と思って画面を見ると警察!なに?
仕方なく出ると
『一条紗耶香さんですか。言いにくい事ですが、あなたが白石克己から受けた暴行について伺いたいので、明日署まで来て貰えますか。明日の朝、迎えに行きます』
え、ええーっ!
私は座り込んでしまった。なんで、なんであの事が警察に。どうしよう。
『もしもし、一条さん。聞いていますか?』
『は、はい、分かりました』
スマホを切ると
「紗耶香どうしたの?」
「お母さん、私……」
仕方なく、お母さんに全てを話した。
「そんな事が……辛かったわね。お母さん気が付かなくてごめんね。明日は私もついて行くから。お父さんには帰ってから話しましょう」
俺は次の朝、学校に行き教室で本を読んでいる予鈴が鳴った。一時限目の授業の準備をして待っているといきなり担任の黒岩先生が入って来た。
「皆さん、お知らせがあります。本日から高橋綾乃さんは登校しません。一条紗耶香さんは本人の意向で数日間欠席します。以上です」
黒岩先生が出て行くと教室がざわついた。
「どういう事だ?」
「分からん」
「ねえねえ、あの噂本当だったの?」
「どんな噂?」
「実は……」
「えーっ、それほんと?!」
「そうなの。春休み終わる一日前に私の友達が学校に来ていたのよ。それでね。体育館の道具室の中に白石が一条さん強引に引張って入って行くのを見たって。
それから一時間近くして白石が出て来たの。その時それまで外で待っていた高橋さんと何か話してた。白石が去って少ししたら道具室から一条さんが出て来て大泣きしたの」
「そ、それって、ええーっ!」
「おい、それ本当か」
俺はたまらず声を掛けてしまった。
「あっ、水森君」
「本当かと聞いている!」
「本当の話です。水森君怖い」
「あっ、ごめん」
なんて事だ。やっぱりあの一日でそんな事が起きていたなんて。俺はそんな事気付かずに!
どうすればいいんだ。
「水森君。大丈夫?」
「…………」
午前中の授業の内容は全く耳に入らなかった。
昼休みになって柏原さんが話しかけて来た。
「水森君、生徒会室に来て」
「何でですか?」
「私の心のケア。約束したよね」
「でも……」
「行こ」
柏原さんに連れられた生徒会室に来た。誰もいない。どうなっているんだろう。
「水森君、そこのソファに座って」
俺が座ると、柏原さんも横に座った。微妙に距離を取っている。
俺の顔をじっと見ていると俺の左手を掴んで両手で持って彼女の腿の上に置いた。
ただ俺の顔を見ている。恥ずかしくなって顔を逸らした。
ずっと何も言わずそのままにしている。
「えっと、柏原さん。何か俺に用があるんじゃ」
「うん、ずっとこのままにしていて。何も話さなくていいから」
仕方ないと思い、そのままにしているとどうしても綾乃と紗耶香の事が頭に浮かんでくる。
さっきの女子が話していた事から推測すれば、綾乃と白石が組んで紗耶香を貶めた。そう考えるのが普通だ。でもなんで。
紗耶香が始業式から急に俺を拒絶した。……なにか弱みを握られて、紗耶香が俺を拒絶するしかなかった。なんて事だ。でもそんな事あの時では分かる訳が無い。
これからどうすれば。
予鈴が鳴った。
「水森君、少しは落ち着いた」
「えっ、でもここに来た理由は」
「そうよ、私の心のケア。君の心が揺れ動くと私も落ち着かないの。だから私の心のケア」
「柏原さん……」
「さっ、教室に戻ろうか」
午後の授業は何とか先生の声が耳に届いた。
図書室の受付で一人で座っている。常連さんはいるが、綾乃がいない。もちろん紗耶香も。何か寒々しい感じがした。
家に帰り食事が終わって自分の部屋で一人で居ると
コンコン。
ガチャ。
「入るわよ」
「姉ちゃん」
「もう明人にも情報は入ったんだじゃない。高橋綾乃と一条紗耶香の事」
「姉ちゃん、何でそれを?」
「まあ、それはいいわ。でっ、どうするの?紗耶香ちゃんの事」
「分からない。俺の所為で酷い目にあった。でもどうすればいいか分からない」
「そう、あんたのここに聞いてみればいいじゃない。自分がどうしたいか」
そう言っておれの胸を指さした。
「私はね、あなたが大事な時期に色恋で頭を濁してほしくないのよ。ただそれだけ」
「…………」
「後さ、大きなお世話だけど、紗耶香ちゃんとよりを戻す戻さないは別として、学校では彼女守らなきゃだめよ。分かってるわよねそんな事」
「…………」
「じゃあね。あと京子が会いたがってたわよ。一度会ってみたら。気分が変わるかもしれないよ」
確かに姉ちゃんの言う通りだ。紗耶香は俺の所為で酷い目にあったんだ。心の整理はつかないけど、学校で彼女の盾になるのは当たり前か。でもどうすれば。
―――――
水森美里さん。ナイスアドバイスかな?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます