第48話 もう彼女なんかいらない


 次の朝、俺はいつもの時間に電車に乗った。でも隣駅で紗耶香と待合せする事はしない。ホームに電車が入ると紗耶香が立っていた。理由は分からないけどなんか悲しそうな顔をしている。新しい彼氏でも出来たんだろうけど。車両は違った。


 教室に入ると隣の柏原さんが声を掛けて来た。

「おはよ水森君。大丈夫?辛そうだけど」

「俺に構わないで下さい」


 柏原さんには悪いが俺は彼女を無視して外を見た。正則が同じクラスなら良かったのに。あいつBクラスなんだから。


 水森君どうしたんだろう。一条さんと何か有った事は間違いないけど。今はそっとした方が良いみたい。時間はある。




 昼休み、紗耶香はお弁当を持ってどこかへ行った。俺は仕方なく購買でパンとジュースを買うと教室で一人で食べた。

 手元に塾の予定が載っている説明書がある。塾が開催する全統模試が五月一日と十五日にある共通テストと記述式テストだ。

 

 俺が一人で出来るのは勉強だけだ。紗耶香の事忘れる為にもここに向けて集中しよう。


 でもなんで紗耶香が。考えても仕方ないのに。またどこかのイケメンでも気に入ったのかもしれない。綾乃の時と同じ様に。

 でもいつ会っていたんだろう。春休みはずっと一緒……いや一日だけ会っていない。でもたった一日では。


 もう考えるのも疲れた。もう彼女なんて要らない。こんな気持ちになるぐらいならいない方がいい。


「水森君」

 顔を上げると綾乃がいた。当たり前だ斜め前に座っているんだから。

「高橋さん、話しかけないでくれ」

「…………」




 放課後、俺は一人で図書室を開けた。先生には塾のある日は開けられないとお願いするとその時は自分が開けるから構わないと言ってくれたのが嬉しい。


 開けるといつもの常連さんがやって来た。でも顔が少し変わっている去年の三年生がいないからだ。

 

 開けて二十分もしない内に綾乃が入って来た。やはり窓際のテーブルで勉強を始めている。チラッとこちらを見るけど無視をした。その後綾乃目的の男子が数人入って来た。


 貸出返却処理が無い時は、教科書の予習をした。教科書は二学期始めまでには終わらせるつもりだ。




 平穏な日々が続いている。塾に行くと紗耶香もいるが席は遠く離れている。それでいい。俺が近寄っても嫌な顔をするだけだ。偶に塾生から声を掛けられているが、その時は胸がチクッとする。


 塾に行った時は自習室が閉まるぎりぎりまで次の回の予習を必ずやった。最低限これをしないと意味が無い。復習は大事だが、講義を聞いている時にすればいい。


 紗耶香がいなくなってから、毎日に変化が無くなった。少し寂しいけど仕方ない。




 GWに入ってすぐ、そう五月一日は全統共通テスト模試だ。塾で開催する。学校からも何人か受けるらしい。

 当日、早めに塾に行った。二年生の時の力試しとは違う。塾内とはいえ、本番共通テストにそった内容だ。



 一日中テストに向かったおかげで頭の中がパンパンだ。家に帰ると直ぐに横になった。


 夕食の時

「明人、どうだった?」

「まあまあかな。十五日に記述式があるからそっちも受けてからの評価だから。一応今日分は二十七日に分かるけど」

「そう、頑張ってね。ところで紗耶香ちゃんの件なんだけど」

「姉ちゃん、もうあの人この事は話題にしないで。理由は分からないけど俺は振られたんだ。もうこりごりだよ」

「あなたがそう言うなら良いけど」



 更に十五日全統記述模試が塾で行われた。結果は六月末頃になる。共通テスト模試の結果も今月の末位になるが、その前に明日から四日間の中間テストだ。

 今回は、あまり準備をしていないので結果は期待していない。



 結果は翌週に出た。


一位水森明人

二位高橋綾乃

三位柏原桃子

五位一条紗耶香


 満点取れなかったがこんなものだろう。


「明人、三年になっても凄いな」

「正則か久しぶりだな」

「ああ、教室が別々になったからな」

「ところで一条さんとはどうだ最近?」

「っ!ちょっと正則、こっち」


 俺は正則を廊下の隅に連れて行くと

「正則、紗耶香とは別れた。というか振られた」

「なに!どういう事だ?」

「理由は全く分からない。話もしてくれない。イケメンでも好きになったんだろう。

だけどもういい。もう恋愛にはこりごりだ」

「…………」


 その後、正則と別れて俺は教室に戻った。女子と男子が騒いでいる。


「ねえ、聞いた。Cクラスの白石君の事」

「うん、聞いた聞いた。ネットニュースでもやってたし」


「凄いよね。他校の女子を犯している所がネットに上がったじゃない。あれだけでもすごいのに、ネットにあげた男の人を刺したんだって」

「えーっ、ほんと!」


「死ななかったらしいだけど、白石君はもう学校に来れないわね」

「当たり前でしょ。それに刺された人って、うちの学校の卒業生の後藤なにがしって人らしいわ。今校長や教頭、先生達が職員室で大騒ぎよ」

「あちゃー。じゃあ今日は休みかな」

「そりゃ甘い」




ちょっと紗耶香視点

「っ!」

 白石が警察に捕まった!じゃああのビデオはどうなるの。あいつのスマホも警察よね。

 不味い。でもあいつがばらさなければ私だって分からないかも。ここは冷静に。

 でもこれで明人とまた元に戻れる。直ぐに明人の所へ。あっ、柏原さんと話している。

 後にしよ。




ちょっと綾乃視点

「っ!」

 後藤が警察に捕まった。じゃあ、あのビデオはもう世の中に出ないの。白石との約束も無くなる。

一条さんは明人と元に戻るの。冗談じゃない。あんな気持ち悪い男と二回も会ってやったのに。でも後藤が白石に刺された。ざまあ見ろだ。


 あいつは私と会うと直ぐに体を求めて来た。思い切り無視して直ぐに帰った。白石からもう一度だけ会ってくれとあの約束を盾に行って来たので仕方なく会ったら、私を抱くのは白石との約束だと言った。


 当然そんな事知らないと言って直ぐに別れたが、そしたらこれだ。二人共消えてくれて嬉しいけど、問題は一条さんだ。明人との間を時間置きすぎた。何とかしないと。

 今は柏原さんと話をしている。この女も邪魔かもしれない。


―――――


 綾乃怖いよ!


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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