第47話 信じられない日がやって来た


 今日は始業式。いよいよ三年生だ。いつもの様に紗耶香とホームで待合せした。


…………。

………。

……。


 紗耶香が来ない。急いでスマホで連絡を取ると出ない。どうしたんだろう。今まで一回もこんな事無かったのに。もしかして事故?いやいや変な想像は止めよう。

 時計を見るともう時間が無い。取敢えず学校に行くか。



 駅を降りて学校に向かう。何も変わらない風景。でも…隣に紗耶香がいない。どうしたのかな。


 下駄箱で履き替えてから掲示板に行った。


 またAクラスだ。あっ、紗耶香と一緒だ良かった。綾乃もか。柏原さんやいつもの女の子の名前もある。でも正則と今泉さんはBクラスだ。


 掲示板を離れて階段を三階まで登る。すぐ右に曲がればAクラスだ。前の出入り口から入るとあっ、紗耶香だ。


俺は急いで彼女の側に行くと

「紗耶香おはよ。なんでホームにいなかったの?」

 紗耶香は俺の顔を見るとサッと離れた。


「えっ、紗耶香。どうしたの」

「話しかけないで」

「えっ、どういう事?」

「もう話しかけないで水森君」

「紗耶香……」


「ねえねえ、どういう事?」

「さあ?」


 一年から一緒の子達が話している。みんながこっちを見ていた。



 やがて予鈴が鳴って新しい担任が入って来た。


敢えず席に座った。紗耶香は離れて座っている。


「はい皆さん。私が君達の担任になった黒岩野乃花です。早速だけど廊下に出て体育館に行って」


 紗耶香の事が気になって担任の顔もよく見れなかった。



 体育館での校長の話もほとんど耳に入らず始業式が終わり教室に戻って来た。紗耶香の顔を見ても全く俺を無視している様だ。

 他に目を逸らすと綾乃はチラチラ俺を見ている。柏原さんは心配そうな顔で俺を見ていた。



 担任の先生が入って来た。

「はい、さっきは時間無かったらもう一度自己紹介するね。私の名前は黒岩野乃花。一年間みんなの担任になるから宜しくね」


 紗耶香は気になるが、担任になった先生をよく見るとすっきりした顔の美人で胸もお尻もしっかりある。眼鏡をかけているがタイトスカートが似合うお姉さんという感じだ。


「みんなも知っていると思うけどAクラスは進学生徒の中でも優秀な生徒の集まりだからお互いが伸ばし合う様に期待しているわ。私は帝都大学教育学部卒。多少の事なら色々相談に乗れるわよ」


 凄い先生だな。初日からパワー全開って感じ。俺は静かに勉強したいんだけど。


「時間あるから席決めしようか。この箱の中から席順カードを引いて。廊下側一番からね」



 みんなが引き終わった。俺はラッキーな事に窓側後ろから二番目だ。残念だけど紗耶香は、廊下側から二列目前から三番目。

綾乃は、なんてことだ。俺の斜め前、窓側から二列目後ろから三番目だ。柏原さんは、俺の隣かよ。先が思いやられる。


 今日は授業がない。朝の事はあるが、紗耶香に声を掛けた。


「紗耶香帰ろう」

「…………」

 全く無視されて帰って行った。


「水森君。私と一緒に帰らない」

「いや、一人で帰るよ」

「そう。じゃあまた明日ね」


 一条さんどうしたんだろう。水森君にあれだけご熱心だったのに三年生になった途端まるで彼を拒絶している。春休み何か有ったのかしら。

 水森君が心配になって声を掛けたけど、まだ精神的に無理みたいだ。ゆっくりと接して行けばいい。




 ちょっとだけ綾乃視点


 春休み二日前、あいつが上手く一条さんの相手をしてくれた。証拠の為のビデオも撮ったものを送ってくれている。見たけどはっきり言って羨ましい体だった。でももうそんな事はどうでもいい。

 

 始業式の今日、クラス分け表を見ると一条さんと同じクラスだ。約束通りしてくれているか、毎日見る事が出来る。白石はCクラスだ。あのレベルではそんなものだろう。


 一条さんは明人を避けてくれている。このままでいい。もし元にも戻ろうとすればこのビデオがネットにアップされるだけ。


 今日は明人に近寄るのを止めた。間違いなく一条さんの事で混乱している。今日は駄目だ。


 白石から言われていた後藤という男とは、明日の放課後、私の家のある駅の隣の駅で待合せている。どんな話が有るかは知らないが適当にすればいいだけだ。


 明人にはゆっくり一条さんがいなくなった心の隙間を私が埋めていけばいい。柏原さんも明人に気があるみたいだけど、まだ対象外と思って良いだろう。

 ふふっ、これでまた元通りになれるかもしれない。




……………。

 戻ります。


 俺は今日の学校での紗耶香の態度が理解出来なくて、紗耶香の家のある駅で一回降りるとスマホで連絡を取った。

 えっ、ブロックされている。なんで?


 理解出来なかった。春休みの最後の日あれだけ俺を求めて来た子が翌日からこんなに変わるなんて。何か理由があるはず。

 

 今度の土曜日絶対紗耶香を捕まえてゆっくり話を聞かないと。それに明日から図書室も始まる。話せる時間はあるだろう。



 翌日の放課後、

「紗耶香、図書室」

「水森君、私図書委員辞めたから。もう話しかけないで」

「えっ!そんな」


 俺が呆然としている間に紗耶香は帰って行った。振られたのか。なんで?

肩を落としながら図書室管理の先生の所へ行くと


「先生図書室の鍵を下さい」

「ああ、そこに……おい水森どうした。それに一条が図書委員辞めるって言って来て…。

 大丈夫か水森。今日は家に帰れ。図書室は休室にしよう」

「はい」


 何も考えられないまま家にたどり着いた。そのまま上がり自分の部屋に行くとベッドに倒れ込んだ。

 涙が止まらない。どうしよう。


 コンコン。


 ガチャ。



「明人、ご飯よ。…明人!どうしたの?」

「姉ちゃん。紗耶香に、紗耶香に……」

「紗耶香ちゃんがどうしたの?」

「振られた」

「え、ええーっ。何かの間違いじゃないの?」


 俺は始業式からの学校での事を話した。

「どうしよう。姉ちゃん」

「…………」

 私は、弟から話を聞いて明らかに春休みのどこかで紗耶香ちゃんに何かがあったという事は分かった。


 あれだけ弟の事が好きで深い関係になっている弟を一日で振るはずがない。でも今のこの時では弟に何も言える事が無かった。何とかしてあげたいけど。だけど手が無いわけではない。



 結局俺は風呂にも入らずそのまま泣き疲れて寝てしまった。


―――――


 可哀想な明人です。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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