第45話 嵐が忍び寄って来る
今日から春休みが始まった。宿題の無い素敵な休みだが、今年三年になる俺達には遊んでいられない時期だ。
俺は紗耶香と一緒に予備校の申し込みに来ている。春期特別講習だ。俺の家のある駅からは四つ目。高校のある駅の側だ。関西に本部がある関連の予備校だけどなぜか塾となっている。
ここでは○○オープンとか、予備校内だが模試も充実しているし、俺達が第一志望にしている大学に向けた取り組みがされている。まあ他に無かっただけだけど。
「明人、私ついて行けるかな」
「大丈夫だよ。うちの高校も県下有数の進学校だ。そこで三位なんだから自信もって勉強すれば大丈夫さ」
「自信もって勉強ってどういうこと?」
「私は頭いい。出来るんだ。学校で三位だと思って勉強すれば良いって事」
「何それ。明人私をからかっているの!」
「そんな事ない。おまじない自己暗示みたいなものだよ」
まあ、自信もって勉強ってなんだ?俺も分からない。でも少しでも彼女の心配を取り除ければ良いけど。
学校に行く時と同じように紗耶香と一緒に予備校に来る。午前中でほとんど授業が終わるけど自習室が開放されていて午後はそこでぎりぎりまでその日やった内容の復習と明日の予習をやるという流れで最終日まで過ごした。
周りを見るとみんな頭良さそうに見えるのは気の所為だろうか。最終日は当然テストがある。結果は後日自宅に配送されるらしい。まあ当然のことで四月からお入りくださいという案内も渡された。
入りたいのはもちろんだが、姉ちゃんはまだ学生だ。お金が掛かる。更に俺が年間で予備校に行くのは、我が家にとって結構なお金の負担だ。
父さんの収入は知らないが馬鹿にならないだろう。春期講習の比ではない。その日の夜、食事後父さんと話をした。
「父さん、俺四月から予備校に通いたいんだけど」
「今のままじゃ、行けないのか」
「うん、多分無理。大学受験専用の勉強する必要あると思っている」
「えっ、明人お前いったいどこの大学に行くつもりだ」
「帝都大学理学部」
「はーっ!真面目に言っているのか?」
「父さん、行かせてあげたら。私は地元の国立だけど我が家から一人くらいあの大学行ってもいいじゃない」
「そうよお父さん。私も楽しみだわ」
「でも受かったら東京に行くのか」
「そうなる」
「うーん。…………。分かった。しかし、美里といい、明人といい凄いな」
「我が家はお母さんが東京の国立だからね」
「……まあいい。頑張りなさい」
「ありがとう。父さん」
「ところで明人。明日父さんに付き合って欲しいんだが」
「えっ、何するの?」
「まあちょっとな。偶には父さんの趣味にでも付き合え。色々話したい事も有る」
「分かった」
始業式まで後二日しかない。紗耶香と会うつもりだったけど仕方ない。塾代出して貰えるし、今俺が行った事で父さんも俺に色々話したくなったのかもしれない。
俺はお風呂に入り自分の部屋に戻った後、紗耶香にスマホで連絡した。
『紗耶香、父さんから許可は出たよ』
『そう、我が家は私が志望校言ったら二人共喜んでいた。まだ受かるか分からないのにね』
『紗耶香。受かるつもりで勉強しないと』
『分かっているけどさ』
『ところで紗耶香、明日なんだけど。父さんの趣味に付き合わないといけない。だから会えない』
『えーっ、そんな。後二日で始業式だよ。全部会いたかったのに』
『ごめん。明後日会おうよ』
『うん』
それから少し話をして眠った。明日父さんの趣味は早いみたいだ。
私は翌朝いつもと同じように目が覚めた。予備校に行っていたおかげで午前六時半には目が覚める。ベッドの上で
「何しようかな。明人いないと思い浮かばない。まあいいや今日はもう少し寝よう」
コンコン。
ガチャ。
「紗耶香、もう九時よ。そろそろ起きたら」
「えっ、もうそんな時間」
「今日は明人君と会わないの?」
「うん、なんかお父さんの趣味に付き合うだって」
「そう。とにかく起きて朝食食べたら」
着替えてから顔を洗い、ダイニングに行くとお父さんはもう仕事で出かけたようだった。
「紗耶香、これ食べたらキッチンに置いといて。お母さんもそろそろ出かけないといけない」
確かに春休みは学生の特権だ。お父さんもお母さんも仕事している。社会人は関係ないか。
「分かった」
「じゃあ、行って来ますね」
「いってらっしゃーい」
お母さんが出かけて玄関が閉まる音がした。
どうしようかな。ゲームとかしないから一人で家にいるのつまらないし。予備校はもう空いてないし。図書館でも行こうかな。そうだそうしよう。
私はゆっくりと朝食を取った後、お母さんには悪いと思い、一応食器を片付けてから家を出た。高校のある駅から五分位。丁度学校と駅の間位にある。予備校は駅の反対側だ。
のんびりと図書館の中で書棚から好きな本を取出しフリースペースで読んでいると
「一条さん」
「えっ?!」
振り向くと高橋さんが立っていた。
「珍しいですねこんな所で会うなんて」
「そうですね。一条さん、ここは図書館なので外で話でもしませんか?偶には良いと思うのですけど」
高橋さんには複雑な思いだ。でも去年の学年末テスト以来、明人の周りには姿を見せていない。意図的にそうしているかは分からないけど。でも偶にはいいか。
「一条さん、私ちょっとトイレに行って来るから待っててね」
「はい、構わないですよ」
少し経ってから高橋さんはトイレから戻って来た。私達は図書館の外に出ると何気なく高橋さんが少しだけ先を行くような形で歩き始めた。
私高橋綾乃は、春休みに入ってから毎日図書館に来て勉強をしている。遊び友達はいないし、ゲームとかしない。カラオケなんてとんでもない。とすれば図書館が一番だ。ここは心が落ち着く。
ふと閲覧席から頭を上げてよそ見をすると一条さんがフリースペースで本を読んでいる。
信じられなかった。明人と一緒に居るとばかり思っていた。いいチャンスだった。何気なく声を掛けて外の散歩に連れ出せばいい。
一条さんに声を掛けると簡単に乗ってくれた。もっと嫌われていると思ったから意外だったけど。
トイレに行く振りをして直ぐにあいつに電話した。本人も驚いていたが、直ぐに指定の場所に来ると言っていた。
今からそこに向かうだけ。後はあいつが約束を果たすだろう。
―――――
むむむっ?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます