第44話 ホワイトデーはただじゃ終わらない

 

 今日はホワイトデーだ。お菓子業界が勝手に作った行事とはいえ、やはり無視する訳にはいかない。


 もちろん本命は紗耶香だけど、一応柏原さんやチョコをくれたクラスの女の子達にも義理は持って来た。鏡先輩はいないから無視。


 しかし、あの人どういうつもりなのか良く分からない。高校卒業したら接点無いだろうに。


 後、問題は綾乃だ。チョコを貰ったとはいえ、義理でも返す事は問題だ。

何が問題と言うと紗耶香の心情だ。しかし、俺の性格上返さない訳にはいかない。


 いつもの様に紗耶香とホームで待ち合わせするが、今日は電車が駅に着くと紗耶香はもうホームに立っていた。


「おはよ明人」

「おはよ紗耶香。早いね」

「だって、今日は、ねっ」

 電車の中だから気を付けたのだろう。


「そうだな」


 学校のある駅に着くと改札を出てから直ぐに紗耶香が手を繋いで来た。

「明人、いつくれるの」

「朝一番にしようか」

「うん、今更だけど明人は私ってアピール出来るからね」

「そうだな」


 二人で教室に入ると俺をじっと見るいくつかの視線があった。俺の隣に座る柏原さんと他の女子だ。


鞄を机の上に置いてから紗耶香の机まで行くと

「紗耶香、これ。チョコレートありがとう」

「うん、ありがとう明人♡」


 仕方ないか。やっぱり本命は一条さんだものな。あっ、私の所に来た。

「柏原さん、チョコありがとうございました」

「うん、チョコ返してくれるだけでも嬉しいよ」

 今はこれが限界かな。


 俺はチョコレートをくれた女子にもチョコを返した。まあ一般市販品だけど。気持ちということで。


 後は最後の一つ。いつ渡すかだ。自分の席に戻って考えていると紗耶香がやって来た。

「明人まだ一つ残っているよね。誰に渡すの?」

「うん、ちょっと考えている」


「どういう意味?よそのクラスの子でしょ。まだ一限目に時間あるわ。渡してきてしまったら」

「いや、後にするよ」

「そう、明人がそう言うならそれで良いけど」


 まだ、あのチョコが綾乃から貰ったものだとは言っていない。不味いな。


一限目の後の中休み、紗耶香が来る前に柏原さんが話しかけて来た。

「水森君、あなた鏡先輩からチョコ貰っているよね。その残り鏡先輩の?」

「い、いや違うんだ」

「えっ、じゃあ誰?」

「別に君には関係ない」

「じゃあ、鏡先輩へは?返さないって言わないよね」

「ああ、そのつもりだ」

 本当は無視したい。


「実は鏡先輩から水森君の事言われていたの。もし水森君がチョコくれるなら、会いに来るって」

「え、えーっ?冗談だろう。鏡先輩は東京の大学だろ。まさかチョコの為に帰って来るなんてないだろう」

「それがあるのよ。水森君そうとう好かれたみたいね。先輩凄いわよ。狙った獲物は逃さない人だから」

 俺はメスライオンに目を付けられたシマウマの子供か。不味い。


 あっ、紗耶香だ。

「柏原さん、どういうつもりで鏡先輩の事言っているか知らないけど、明人には、そんな人関係なから」

「一条さん、あなたの気持ちは分かるけど、これは水森君の問題だから」


 二限目の開始を知らせるチャイムが鳴った。良かった。下手すれば修羅場にでもなりそうな雰囲気だったからな。


「じゃあ、水森君また後でね」

 何故かウィンクをして来た。意味分からん?



 昼休み、俺は紗耶香と昼食を食べた後、トイレに行くと言って廊下を出た。まさかBクラスに行く訳にはいかない。


それこそ俺が綾乃とよりを戻して紗耶香と二股していると思われてしまう。仕方ないくスマホでブロックしていた綾乃のアドレスをブロック解除する。昼休みメッセージだけなら構わないだろう。

『綾乃、図書室前に来れるか』



 あっ、バイブしてあるスマホが震えた。 えっ、明人!図書室前に来てって。私は直ぐに『行く』と返事すると教室を出た。



図書室前

「綾乃、これ。一応チョコ貰ったからお返し」

「明人、嬉しいよ。とっても」

 綾乃が俺のチョコを胸に抱いて本当に嬉しそうな顔をしている。


「綾乃、俺もう行くから」

「うん」



 仕方ない事だった。当たり前だ。私にチョコを返している姿を他の人に見られたら明人が要らぬ誤解を受ける。


 でも嬉しい。明人がチョコをくれた。この前は、下駄箱で私を友達と言ってくれたし。今度は失敗しない様にゆっくりと関係を修復する。あの件が上手くいけばチャンスは大きくなる。




 綾乃にチョコを渡した後、一応トイレに入ってから教室の紗耶香の所に戻った。

「明人、また時間かかった。この前の事と言い、体の調子悪いの?」

「いや、そんな事ない。ちょっとな」

「ちょっと何?」


 俺は仕方なく小声で逃げ口上した。

「ちょっと便秘気味なんだ」

「そう、私の所為?」

「何言っているんだ。いつも座りっぱなしだから」

「そうなの。薬は?」

「紗耶香、気にしなくていいよ。ありがとう」

「そう。でも……」


 午後の予鈴が鳴った。助かった。




 それから数日して学校は午前授業のみになった。もうすぐ春休みだ。図書室ももう開かない。


 柏原さんが声を掛けて来た。

「ねえ、水森君。鏡先輩が後二日で東京に行ってしまうから会いたいって」

「でも」

「いいじゃない。会う位」

 紗耶香がこっちに来た。


「どうしたの明人」

「一条さん、あなたには関係ないわ。私と一条君の話」

「明人!」

 これは素直に言わないと不味いな。


「紗耶香、鏡先輩が後二日で東京に行ってしまうらしい。だからその前に会いたいと言っているらしい」

「そんなの無視してよ」

「一条さん、鏡先輩はバレンタインのチョコのお返し水森君から貰っていないわ。水森君は返すでしょ。だから会わないと渡せない」

「明人は会いたいの?鏡先輩と」

「いや、会いたいとかじゃなくて義理は返さないと。どうせもう会わないだろうから」

「…………」



 俺は仕方なく、翌日鏡先輩と会う事にした。場所は柏原さんが知っている。もちろん紗耶香も一緒だ。


場所は学校のある駅の傍の喫茶店……とかではなく何故か俺の家だ。どういう事?


紗耶香と二人で帰宅すると

「ただいま」

「お帰り明人、京子が待っているわ」

「えっ?!」


 家に帰ると何故か姉ちゃんがいて鏡先輩がリビングで寛いでいる。


「あっ、明人君。お帰り」

「な、なんで名前呼びなの?」

 紗耶香が食いついた。


「だって、水森先輩の家だから水森君って呼ぶのおかしいでしょ」

「…………」


 俺は柏原さんに言われて昨日のうちにチョコを買っておいた。一応贈答用にラップして貰った。それを自分の部屋から取って来ると

「はい、鏡先輩。チョコありがとうございました」

「うん、ありがとう」

「ではこれで」


 いきなり手を掴まれた。

「ちょ、ちょっと。明人君はいつもそれなんだから。偶には少し話そうよ。良いですよね美里先輩」

「良いんじゃない。明人も話してあげないよ」

 紗耶香が面白くないという顔をしている。


 仕方なしに姉ちゃんと鏡先輩の話に適当に応じていると

「明人君。大学はどうするの?」

「京子、明人はあなたと同じ大学に行くわ。私にはっきりそう言ったから」

「姉ちゃん!」


「そう、安心した。では来年から一緒ね」

「学部違いますよ。多分」

「何処受けるの?」

「言いません。紗耶香と一緒です」

 あえて紗耶香の名前を出した。紗耶香の顔がパッと明るくなった。


「ええーっ、教えてくれたって良いのに。だっていずれ分かる事だわ」

「それでもです。俺達もう出かけます」

「そうなの?」

 姉ちゃんがなんでって顔している。


「ふふふっ、じゃあまたね。受験で分からない事あったら連絡して。美里先輩は私のアドレス知っているから」


「紗耶香行こう」

「うん」


 俺達は自分の家を出ると紗耶香の家に向かった。

「明人、上書きする」


―――――


鏡先輩凄いですね。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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