第41話 晴れ間が少なくなって来る


少し気分悪くなるかもしれません。


―――――


 一月も終わろうとしていた頃、昼休み学校の三年生のいる廊下で


「おい白石、まだあの子と話できないのか」

「済みません後藤先輩。中々うんと言ってくれなくて」

「早くしろよ。俺はもう卒業だぞ」

「分かりました。今日もう一度聞いてみます」

「絶対だぞ。分かっているだろうな」

「はい」


 俺は後藤先輩の後姿を見ながら

 自分で声掛けろよ。どうせ大学が推薦決まっているから、自分から変に動いておかしくならない様に俺を間に入れているだけだろうが。


 しかし、あれから何回か高橋に声を掛けたが、全く言う事を聞いてくれない。どうしたものか。石原達をも拒否しているみたいだしな。


 もう一度声を掛けて見るか。二年生の教室に戻ろうとするとうまい具合に高橋が教室から出て来た。


「綾乃、ちょっと話が」

「白石君、失礼ですね。名前で呼ばないで下さい。それに私はあなたと話をする事は有りません」

「ちょっ、ちょっと待てよ」

 仕方なく高橋の手を掴むと

「痛い!何するんですか」

 周りの生徒がおかしいと思って俺達を見始めた。


「これ以上暴力を振るうなら先生に言いますけど」

「ッ!」

 仕方なしに手を離したが、周りの生徒がまだ見ている。高橋は俺の顔を一瞥すると廊下を歩いて行ったしまった。


「くそっ、話も何も出来ないじゃないか」


「どうしたの白石君」

「石原か、高橋が全く口を聞いてくれないんだ」

「えっ、今更。まだあの子に未練があるの?」

「そんな訳無いだろう。ちょっと事情があってな」

「ふーん、そう。場合によっては話聞いても良いわよ」

「ちょっといいか」


 俺は石原を校舎の外に連れ出すと

「実は後藤先輩が高橋に興味を持ったらしくてな。放課後話をしたいと言っているんだ。だから彼女に声を掛けたんだが、全然相手にしてくれない」

「当たり前じゃない。自分がした事考えれば当然でしょ」

「しかし、先輩は三月早々に卒業だ。だからどうしても今日中に話を付けろって言われて」

「そう言えば、白石あんた後藤先輩に弱み握られていたわよね」

「…………」


「いいわ、手伝ってあげようか。でも今日は無理かな。それに会うなら卒業後でも良い訳でしょ。目的はあれなんだから。先輩には、卒業後にしておけば。その位言えるでしょ。その代わり…」

 このビッチ女が、だがここは聞くしかないか。


「わかったよ」

「じゃあ、またね。高橋さんと話付いたら連絡するわ」



 白石君はイケメンだしあっちが上手だ。でも年中したいって訳じゃない。それにこっちの立場が強い時でないとね。


 しかし、最近の高橋さんは一年の最初の頃の様だ。本を読むか勉強している。私達が偶に声を掛けてやっても全く興味をもたない。


だけどまだAクラスの水森君には固執しているみたいだ。表面には出ていないが、あの子の水森君を見る時の顔を見れば分かる。さて、ああは言ったけどどうするかな。




 そんな事が仕組まれつつあること等露知らず、明人達の日々は過ぎて行った。


 そしてバレンタインデーの日がやって来た。なんとその日は月曜日


「明人、今日バレンタインデーのチョコ、家に帰ったら渡すから帰りはうちに寄って」

「うん、いいよ。楽しみだな」

「ふふっ、その時まで内緒」

 そんな話をしながら下駄箱で上履きに履き替えて廊下を歩いていると教室が中々賑やかだ。

 まあ、誰もそうだろうな。そんな事を思いながら教室に入ると正則の所に今泉さんが来ている。あの二人まだ必要だっけ?


 教室に入って机の上に鞄を置くと直ぐに柏原さんが寄って来た。

「水森君、これ私の手作り。貰ってくれるかな?」

「ありがとう柏原さん」

 あっ、紗耶香が怖い顔している。でも断れないよ。


 その後、数人の女の子からバレンタインチョコを貰った。みんな可愛くラッピングされている。俺こんなにもてたっけ?


 一限目が終わり中休みになった時、教室内の生徒がざわついている。

えっ!教室の前の出入口から一人の女子生徒が入って来た。その女子生徒は真直ぐ俺の所に来ると


「水森君、これ手作りのチョコ。君に食べて欲しくて一生懸命作ったんだ。貰ってくれるかな?」

「あっ、ありがとうございます。鏡先輩。でも今日はなんで?もう自由登校ですよね」

「ふふっ、君にチョコ上げる為と言いたいところだけど、ちょっと職員室に用事が有ったの。でもメインは君にチョコ上げる為。またね」


 みんな唖然としている。俺もだよ。やがて


「ね、ねっ、どういう事?」

「さあ?」

「でも鏡先輩、水森君に彼女いるって知っているよね」

「うん知っている」

「じゃ、じゃあさ。紗耶香さんに宣戦布告」

「「え、ええーっ」」

「こら声大きい」


 あっ、紗耶香がこっちに来た。

「明人、どういう事?」

「い、いやいや。俺に聞かれても」


「おい、モテ過ぎ水森が今カノから問い詰められているよ」

「そうだな。もしかして鏡先輩、将来カノかも」

「「ひっ!」」


 紗耶香がものすごい形相で今話していた男子二人を睨みつけた。


「「スミマセン」」


「とにかく、返して来て!」

「い、いやそれは…………」

プイプイしながら自分の席に戻って…こっちを見ている。怖い。


「明人、大丈夫か」

「正則、お前が羨ましい」

「ははっ、俺は薫一筋だからな。お前隙あり過ぎだよ」

「正則今更言うな」

「まあ、気を付けてな」

「何気を付けるんだよ」



 そして昼休み、紗耶香との食事が終わった後、トイレに行った帰り、

「明人、いえ水森君。バレンタインチョコ作ったの。貰ってくれるかな?」

「…………」


「やっぱり駄目だよね」

「高橋さんどういうつもり?」

「あれから一年経つけどまだ水森君の事が好き。あの後は誰とも会ったりしていない。水森君だけ思っている。勉強も少しでも水森君に近付きたくて……。お願い」


「水森君貰ってあげなよ。義理チョコのつもりでもいいじゃない」

「武田さん!」


「私はあなた達の色恋は知らないけど、実際高橋さんが白石に捨てられて、石原さん達から無視されて教室の人達からも無視されて辛い思いをしてきたわ。でもずっと君の事思って来たのよ。それは私が高橋さんを見ていたから間違いない。

 確かに高橋さんは悪い。悪かった。でも君だって一生過ち犯さずに生きれると思っているの。

 高橋さんの過ちは確かに大きいわ。してはいけない事だったかもしれない。でも切捨てなくてもいいじゃない。友達に位戻ってあげなよ。

 極端かもしれないけど人を殺したって刑務所に服役すればまた復帰できるのよ」


 武田さんの言っている事は確かに聞くものは有る。でも俺は許せないんだ。綾乃が悪いんだよ。俺が悪い訳じゃない。どうすればいいんだよ。綾乃の世間知らずは中学時代から。だからって。くそっ、どうすりゃいいんだよ。なんでだよ。


「武田さん、ありがとう。私の為にそこまで言ってくれて。でも水森君にした事は、彼にとって一生許せないものだったのよ。それに気付かない私が愚かだっただけ。

 水森君、ごめんなさい。嫌な思いさせちゃったね」


 高橋さんが教室に戻ろうとすると


「待て高橋さん。チョコ貰ってやるよ。せっかく作ってくれたんだから」

「「えっ!」」

「本当に良いの」

「良いって言っている」


「ありがとう」 

 綾乃が思い切り涙を流している。抱き着きたいのは顔見てわかるけどそこまでは許せない。


「良かったね高橋さん。さっ、チョコ水森君に渡して教室に戻ろう」

「うん」


 俺の手に綾乃のラッピングされたチョコが残った。


―――――


 明人の優しさかな。でも…。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る