第40話 冬の空気は冷たい


視点が色々変わります。


―――――


 模試は直ぐに終わった。今回はいつもの学内テストと違い外部の業者を利用している為、結果が知らされるまで一週間ほど時間が掛かった。

成績順位表も張り出されるがこれはあくまで校内順位だけ。同じ業者を使った高校の総合順位は個々の生徒に渡されている。


一位水森明人

二位高橋綾乃

三位一条紗耶香

四位柏原桃子


「明人、悔しい。あの人に負けた」

「次頑張るしかないよ」


「水森君一位の常連だね」

「そんな事ないですよ。柏原さん直ぐに抜かれてしまいます」

「何言っているの個別はどうだったの?」

「まあ、五位です」

「えーっ。信じられないわ」


 紗耶香や柏原さんと話をしていると綾乃と視線が合った。何も言わずじっと俺を見た後、紗耶香見た。明らかに何か言っている顔だ。でもそのまま教室に戻って行った。


「明人…」


それを見た柏原さんが

「高橋さん変わったわね。何か自信を持っているというか」

「俺には分からないですけど」




 私高橋綾乃。もう明人の成績に一喜一憂しない。明人は総合五位と言っていたけど私は七位。あの女(一条紗耶香)には負けないわ。


 教室に戻る為廊下を歩いていると

「綾乃」

 その声に振り向くと


「白石君、何か?」

「冷たいな。克己って呼んでくれよ」

「白石君、用事が無ければ教室に戻ります」

「参ったな。なあ今日一緒に帰らないか?」

「お断りします」

「…………」


 おかしいな。簡単に付いてくると思ったのだが。まあ次の機会にするか。


 少し戻ります。

 俺は始業式の日の中休み、三年生の後藤先輩に呼ばれ頼み事をされた。


「おい、白石。お前のところに可愛い女の子がいるだろう」

「可愛い女の子?」

「ほらそこの隅で本を読んでいる子だよ」

「ああ、高橋綾乃ですか。彼女がどうかしましたか?」

「一度話でもしたいんだが」

「それで俺に何をしろと?」

「何とか放課後連れ出せないか?」


 まさか俺が飽きて捨てた女をこの男が興味を持つとはな。笑ってしまいそうだ。


「良いですよ。取敢えず本人に確認してみます」

 一応そう言っておこう。どうせホイホイついてくるだろうけど。




 そう思っていた。だが高橋は予想外に俺の誘いを断った。どういう事だ。まあいい、後藤先輩には直ぐ連れて行くとは言っていない。



ちょっと綾乃視点

 冗談じゃない。同じ過ちをする程私は馬鹿じゃない。もう白石君達に近寄る事はしないわ。三年になればあいつらとも別れるかもしれないし。

 でもあの一条という子。明人に教えて貰っているのね。一年の時には順位表にも出ていなかった。何とかしないと。


………………。



 放課後、図書室を開けていると綾乃が入って来た。受付から離れた窓側のテーブルで勉強を始めたようだ。もう前の様に気にする事も無くなってホッとしている。


ただ綾乃の周りには何故か男子生徒が少しだが彼女をチラチラ見ながら本を読むふりをしたり勉強をする振りをしている。その光景が面白かった。


綾乃が入って来てから紗耶香が綾乃のをじっと見ている。そして受付に来ると

「明人、来週三日間うちの学校の入試で休みでしょ。この前の模試の見直ししたい。あの人に負けたくない」

「いいよ。一緒にしようか」

「うん」

 また顔が明るくなった。紗耶香が綾乃を気にする事なんてないのに。




 翌週入試で休みになった三日間は本当に紗耶香は真面目に復習した。半日位するかなと思っていたけどそんな事は無かった。ただ毎日俺の部屋で勉強しているとちょっと俺がストレス溜まる。


 今日は三日目の夕方だ。


「紗耶香頑張ったね。これで同じ系統の問題が出ても大丈夫だよ」

「明人は楽勝みたいだったけど?」

「そんなことないよ」


「ねえ、紗耶香今度の日曜日だけど」

 そう言いながらつい紗耶香の胸に視線が行ってしまった。


「ふふっ、珍しいわね。明人から求めるなんて」

「ごめん」

「でも嬉しいな。ゆっくり一緒に居たいから今度の日曜日にしようか」

「うん」



「母さん、紗耶香を送って来るね」

「分かったわ。遅くなる?」

「なんで?送るだけだから」

「そう分かった」

 母さん何考えているんだ。



紗耶香と駅まで行きながら

「ふふっ、なんか明人のお母さんにバレバレだね。私達の関係」

「そうかな。気の所為じゃないか」

「私のお母さんには、ばれているわよ」

「送って行った時キスしたから?」


「それだけじゃない。ゴミ箱にあれが入っているのバレちゃって」

「えーっ!」


「でもお母さん言っていたわ。明人なら良いって。でも子供作るのはまだ早いって。信用されちゃったね」

「…………」

 顔が赤くなっているのが分かる。


「もう行き辛いよ」

「何言っているの。良いじゃない。お互いのお母さん公認になったんだから」

「まあ、紗耶香が良いって言うなら良いけど。やっぱり恥ずかしいよ」

「まあ、少しね。でも私は嬉しいわ。明人が私のお母さんに信用されて。私は明人のお母さんに信用されて。明人ずっとこのままだよ」

「もちろんだよ。ずっとこのままだ」

「ふふふっ」


 紗耶香が俺のコートの中の手をにぎにぎして来た。やがて紗耶香の家に着くと

「上がっていく?」

「今日は帰る。毎日会えるから」

「そうだね。日曜もあるし」


 俺は自分から紗耶香の唇にキスをするとそのまま帰った。紗耶香とずっとこのままの関係が続けば良いと思った。

 鏡先輩の事もあるし、柏原さんのことも有るけど、俺は紗耶香を選ぶ。


 帰り道、陽は少し伸びたけどまだとても風が冷たかった。


―――――


一時とは言え、まだ平穏な時間で有ると良いですね。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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