第39話 晴れていた空に雲がかかる時


 三学期が始まった。今日は始業式。いつもの様に紗耶香の家のある駅で一度降りると紗耶香が来るのを待った。紗耶香がいればすぐに乗るのだけど今日はいない。


 階段を上がって来る紗耶香が目に入る。昨日も会っていたが、普段着の時とはやっぱり違う。学校指定のコートを着ているとはいえ新鮮な感じがした。


「おはよ明人、待ったあ?」

「ううん、今来た所」

 実際自分が降りた電車から次の電車は来ていない。


「今日から三学期だね。でも直ぐに模試がある。やだな」

「紗耶香が心配する事無いだろう」

「そういうんじゃなくてテストっていやじゃない?」

「まあな」


 そんな話をしている内に学校ある駅についた。改札を出ると紗耶香が俺のコートの右ポケットに手を入れて来た。

「えへへ、暖かい」

「…………」


 そのまま下駄箱で綺麗に洗った上履きを袋から取り出すと外履きのローファーを脱いで履き直した。直ぐに紗耶香が近寄って来る。


 二人で教室に入り机の上に一度鞄を置くと正則が直ぐに声を掛けて来た。

「おはよアンドあけおめ明人」

「おう、あけおめ正則。元気そうだな」

「まあな、話は上手く進んだから」

「そうか良かったな」

「ああ」

 しかし、高校二年生で婚約なんて早いものだ。学校にはどう言っているのかな?


 柏原さんがやって来た。

「おはよう水森君、今年も宜しくね」

「おはようございます柏原さん」

 何故かそのまま自分の席に戻ってしまった。挨拶だけなのか?


「明人、柏原さん何か用事あったのかな?」

「さあ?」


 正則と話していると担任の南沢先生が入って来た。しっかりとお化粧していてとても可愛く見える。


「皆さん。おはようございます。廊下に出て体育館に行って下さい」


 がたがたとクラスの全員が廊下に出る。俺は後ろの入口から出た時、偶々綾乃と目を合わせてしまった。

彼女は一瞬目を輝かせたが、直ぐに別の方を見た。吹っ切れてくれたのかな。



 いつもの事だが校長先生の長ーいお話の後、俺達は教室に戻った。



ちょっと三年生のある男子の視点


 もうこの学校とも終わりだ。大学は推薦で決まっている。時間つぶししかないが三学期の出席日数は満たさないといけないから今日も学校に来た。


 体育館に入りながら見慣れた景色だがキョロキョロしていると

 えっ、あの子。二Bだったのか。話せないものかな。二Bは確かあいつがいるな。ちょっと声を掛けて見るか。


………………。

戻ります。



 教室でみんなで好き勝手に話していると南沢先生が入って来た。

「みんな、席について。時間あるから席替えしちゃおうか。廊下側の一番前の人からこの箱の中の席順カード引いてね」


 俺は最後、紗耶香は俺の一つ前だ。待っているとあっという間に順番が来た。紗耶香が先に行く。彼女が引いて席に戻ってから俺が引きに行った。最後だから一枚しか残っていない。


 ちらりと見ると、あーっやっちまったあ。なんと廊下側後ろから二番目最悪だ。席に戻ると

「はい、早く移動してね」


「明人どこ?」

カードを見せると


「えーっ、私窓側前から二番目だよ」

「仕方ない。移動しよう」


 紗耶香が肩をがっくりと落としながら席を移動した。俺も移動すると

「水森君、宜しくね」


 なんと、俺の左隣は柏原さんだ。

「よろしく柏原さん」


 正則を探すとあいつは廊下側から三列目後ろ前から二番目だ。後ろの生徒が見えないんじゃないか。


「はい、移ったね。早速だけど今週木、金と模試があるから気を抜かないでね。少し時間あるけど自習にする」

 そう言って出て行ってしまった。


 早速、紗耶香が俺の所にやって来る。

「明人遠いよ」

「さっきも言ったけどくじ引きだから仕方ないよ」

「一条さん、あなた二学期はずっと水森君の前だったんでしょ。三学期は離れても仕方ないわ。みんな平等よ」


 紗耶香が、柏原さんの言葉に寂しそうな顔をするがどうしようもない。少しの間話していると中休みを知らせるチャイムが鳴った。


「紗耶香、ちょっとトイレ」

「あっ、私も行く」


 はあ、何あの二人。まあいいわ、三学期はずっと彼の隣。一杯チャンスはある。



 俺がトイレに行こうと後ろの出入り口から出ると白石が三年生と話していた。俺には関係ないが、相手が白石だからちょっと気になった。




 放課後、図書室は今日から開ける。紗耶香と一緒に担当の先生に鍵を借りに行って図書室を開けると

「やっと明人と二人きりになった」

「でも利用者が来るよ」

 PCを立ち上げながら言うと


「でも直ぐ来ないでしょ」

 いきなり後ろから抱き着いて来た。


「ちょっ、ちょっと紗耶香」

「良いじゃない少し位」

 俺の背中への紗耶香の胸の圧が凄い。


 直ぐに廊下から足音が聞こえた。

「はい、終わり」

「もう」


 今日は俺が当番だ。紗耶香がすぐ傍のテーブルで本を開き始める。今日は冬休みの宿題の答え合わせなので復習するほどの内容は無かった。



 今日は二時半で閉める事にしている。常連さんも今日は少ない。冬休み中に借りた本を返却する為に来た生徒が数人来ただけだ。


 俺も暇な時間は本を読んでいると柏原さんが来た。

「ねえ水森君。図書室閉めたら、生徒会室に来て。鏡さんが呼んでいる」

「……分かりました」


 変な約束をしてしまったものだ。そう言えば綾乃来なかったな。朝の事といい、もう吹っ切れたのかな。俺にとっては嬉しい事だけど。



 図書室を閉めて生徒会室に行く。もちろん紗耶香も一緒だ。これが条件だから。


コンコン。


「入ります」

 生徒会室のドアを開けると生徒会の新メンバと現三年生の旧メンバが揃っていた。今日は賑やかだ。


「あっ、水森君。来てくれたわね。みんな席について。水森君と一条さんはそこの空いている席に座って。

 紹介するわ。二年A組の水森明人君。知らない子はいないわよね。彼は正式な生徒会メンバではないけど生徒会長のメンタル面でのサポート役になって貰ったの。

 そういう訳で彼はここに自由に出入りするからみんなも覚えておいて。後その隣にいる人は、水森君のお友達。彼女も水森君と一緒にここに出入りするから。

 以上よ。水森君何か話す事はある?」

「いえ有りません」


「では以上です。みんな自分の仕事に戻って」

 なんか凄いな生徒会って。


「水森君、いきなり呼び出してごめんね。一応皆に知っておいてもらわないといけないから呼んだの」

「分かりました鏡先輩。じゃあもう帰っていいですか?」

「だめ!」

「えっ?!」


「約束でしょ。ここで柏原さんと私と一緒にもう少しお話をして」

「はあ」



結局鏡先輩から解放されたのはそれから三十分後、もう午後三時をとうに過ぎていた。


駅に向かいながら

「ねえ、明人。あれ止められないの。私がストレス溜まるよ」

「ごめん、俺も止めたいんだけど。もう約束してしまったし」


「いつまで続くの?」

「三年生一杯」

「えーっ、その間私のストレス解消してくれるわよね」


「うっ」

「何がうっなのよ。今日は私の家に行こう。六時まで誰もいないから」

「紗耶香もうすぐ模試だよ」

「だから一緒にするの」



 結局、そのまま紗耶香の家に行き………………。


ちょっと疲れた。


 誰にも明人は渡さないから。


―――――


 やっぱり新しい年ですね。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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