第38話 お正月


 クリスマスが終わった後は、紗耶香と一緒にサッと冬休みの宿題を片付けた。一緒にいるがもう彼女も宿題程度では俺に質問する事はない。ちょっと残念だけど。


 今年は、三年生になる年だ。四月からは塾に行こうと思っている。もちろん紗耶香も一緒だ。


 宿題は三日ほどで終わってしまったので、今は紗耶香と俺の部屋にいる。もちろん名目は宿題を一緒にやるという事だけど。


 二人共ゲームはやらないので本を読んでいる。でも紗耶香が急に抱き着いて来たり、俺が彼女の脇腹を突いたりして、ちょっとだけイチャイチャしているけど。


「明人、初詣行くよね」

「もちろん」

「迎えに来てくれる?」

「当たり前だよ」

「じゃあ、元旦九時で良いかな?」

「そうしようか」



 大みそかの夜、リビングでみんなでテレビ見ながらゴロゴロしていると姉ちゃんが話しかけて来た。

「明人、大学どこ行くの?」

「東京の国立大学」

「でもここからだと通えないわよ。私は諦めたけど」

「うーん、国立受かれば、授業料安いから一人暮らしする。バイトもするから。いいよね父さん」


 父さんはもうお酒がだいぶ入っている所為か

「あっ、いいんじゃないか」

それだけだった。


「明人、お父さんにはお酒飲んでいない時に言わないと覚えていないわよ」

「そうだな。素面の時にしてくれ。特にお金の話は」

「分かった」


「ところで明人、鏡京子って知っているでしょ」

「ああ、なんか変な人だよね」

「…どういう意味で言っているか分からないけど、彼女も貴方と同じ大学に行くはずよ。あの子は、めちゃくちゃ頭いいから多分現役で合格すると思う。受かったら色々聞けるんじゃない」

「いやそれは止めとく」

 どう見てもそんな事したら碌な事にならない気がする。


「なんで?」

「別に聞く必要無いし」

「まああんたがそう言うなら良いけど」


「それより姉ちゃん大学はどうなの。彼氏はいるの?」

「大学はまあまあ、慣れて来たわ。彼氏の件はあんたに関係ないでしょ」

「まあね」



 そんな話をしている内に時刻が零時を過ぎ、新しい年になった。家族で新年の挨拶をした後、自分の部屋に戻った。


ピコン。


 画面を見ると紗耶香だ。通話にタップすると

『明人、明けましておめでとう』

『明けましておめでとう紗耶香』

『明日楽しみにしているね。今日はもう寝ないと朝起きれないから。お休み』

『うん、お休み』


 紗耶香からの新年の挨拶だけだったけど、何となく心が温まった。ベッドの上で天井を見ながら考えた。


 正月三が日が終わればすぐに学校だ。四月からは三年生、塾には入った方がいいだろう。情報も一杯あるし、模擬試験も受けれる。

そんな事を考えていると眠くなって来た。



 翌朝は、紗耶香を迎えに彼女の家まで行った。俺は冬用の厚手の紺のスラックスに紺の厚手のジャケット。それに膝近くまである防寒コートを着ている。それと紗耶香からもらったマフラーだ。


ピンポーン。


ガチャ。


「明人、おはよう」

「おはよう紗耶香」

 水色を基本とした綺麗な着物を着ている。首には白いファーを巻いて手には赤の小物入れを持っていた。


「どう?」

「取っても綺麗だよ。紗耶香」

「ふふっ、嬉しいな」

「水森君明けましておめでとうございます。紗耶香を宜しくね」

「はい」

 しっかりとした声で答えた。


「じゃあ、お母さん行って来ます」

「行ってらっしゃい」


 紗耶香のお母さんとはずいぶん慣れた。とても紗耶香に優しい綺麗なお母さんだ。紗耶香はお母さん似なのかな。


 着物を着ているので駅まで少しゆっくりと歩く。

「嬉しいな。明人と初詣出来るなんて」

「俺もだよ」

「ふふっ、贈ったマフラー着けてくれている」

「うん、とっても暖かいよ」

「ありがと」



 神社は俺の家のある駅から少し歩いたところにある。決して大きくないが、この辺では一番だ。今年も二十人近くが並んでいた。参道には出店も出ている。


「明人、結構人いるね」

「ああ、この辺では一番大きな神社だからね」


 鳥居をくぐり、水で手を清めて参拝した。


「明人何お祈りしたの?」

「言うと願いかなわないって言うけど」

 本当は紗耶香とずっと一緒にいれます様にだけど。言うのはちょっと恥ずかしい。


「そんなことないよ。でも私も言わないでおこうかな」

 本当は明人とずっと一緒にいれます様にだけど。


「おみくじ引こうか」

「うん」


「明人どうだった。これは見せあっても大丈夫だよ」

「ああ、俺は中吉。中々大吉は出ないものだな」

「だって、出たら後は下がるだけでしょ。私はね。あっ、吉だ。えーっ、明人だけずるい」

 俺の腕をポコポコ叩いてくる。


「いや、そんな事言ったって。それに伸びしろあるし」

「もう、そういう問題じゃない。そうだ、明人この後私の家に来て。お母さんが一緒に帰って来なさいって言ってた。おせち一緒に食べよ。着物着ていると全然食べれないんだ」

「うん、いいよ」



………………。



 年末の高橋綾乃の家です。


「綾乃、水森君と全然会っていないわね。どうしたの?」

「うん。明人とは今少し距離を置いている。でもはっきりと別れた訳じゃない」

「そう…。お母さん、あの子なら綾乃を幸せにしてくれると思ったんだけどな。理由は聞かないわ。色々有ったのだろうから」

「お母さん。ありがとう」

 本当の事は言えない。お母さんが悲しむから。でも少し涙が出て来た。


 理由は聞かないと言ってくれたお母さんには感謝する。全て私が悪かった。ほんの遊びのつもりが、自分を止められなかった。


だから一生懸命勉強して明人と同じ大学に行く。元には戻れないかも知れないけど、話位は出来る様になるかもしれない。その為にも勉強しないと。



そして元旦。

「お母さん、初詣行って来る」

「えっ、誰と行くの?」

「一人。でも心配しないで。直ぐに帰って来るから」

「分かったわ。気を付けてね」

「はーい」


会えるか分からないけど去年と同じ時間にあの神社に行く事にした。会えればまだ希望が持てるかもしれない。自分に運があるならだけど。そう思って来た。やはりいた。でも…………。



 明人と一条さんが楽しそうに笑っている。本当はあの位置は私だったのに。でも今はこれでいい。明人の楽しそうな顔も見れたし。

参拝が終わって、あの二人がおみくじの所から離れたら私も引いてみよう。


 中吉だ去年と同じだ。まだ大丈夫。


 家への帰り道、私の頭の中に変な事が浮かんだ。

 もし、一条さんが明人の側からいなくなれば、もしかしたら明人とよりを戻せるかもしれない。いや戻せなくても話す事位出来る様になるかもしれない。でもどうやって。


 おかしいな。こんな事考えちゃいけないよね。でもなぜか一条さんの顔を思い出すと悔しくなって来た。


―――――


 若い女の子の吐き出し口の無い気持ちの変化。でも綾乃ちゃん!


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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