第34話 紗耶香の心配事


「ねえ、水森君。生徒会長が君を呼んでいるの。一緒に来て」

「えっ。また俺?」

「うん、とにかく昼休み時間無いから早く来て」

「分かった」


 紗耶香を見ると心配そうな顔をしている。

「直ぐ帰って来るから」



 今日も昼休み、柏原さんが明人を連れて生徒会室に行った。彼も明確に断ればいいのに。


 明人の優しさに付け込んで誘い出す柏原さんも酷いけど、明人を呼び出している鏡生徒会長も酷い。

 彼は相手が生徒会長だからあまり波風立てたくない。と言っているけど。




 生徒会室に行く道すがら柏原さんが、

「ねえ、水森君、今度勉強教えてよ。学期末テストはまだ先だけど、今の内から準備したいし。それに近くになったら一条さんと一緒でしょ。だからさあ」


「柏原さん、そういう事はこういう所で言わないで下さい」

「じゃあ、他の所でお願いしたらいいの?」

「お断りします」

「いいじゃない。勉強教えて貰うだけなんだから。けちっ!」

 けちって、別にけちっていないですよ。紗耶香以外の女性と関わりたくないだけなのに。




「鏡生徒会長、来て貰いました」

「ありがとう、桃ちゃん。今日はもう良いわ」

「はーい」

 柏原さん、俺を生徒会室に置いて帰ってしまったよ。なんだこれ?それになんで会長以外いないんだ?


「水森君、良く来てくれたわ。この前は時間が足りなかったから今日はゆっくり話しましょうね」

「あの……」

「あっ、いいのいいの。リラックスして。そこのソファに座って」

「はあ」


「ねえ、生徒会に入って桃ちゃん支えてあげて。君ならいいサポートが出来るわ」

「鏡生徒会長、何度も言いますが、俺は図書室委員です。これは一条さんと二人でします。ですから生徒会役員をやる時間は有りません」


「ふふっ、問題ないわ。図書委員を一条さんとやって貰って。君には他の場面で役に立って貰う」

「他の場面?」

「そう、別にここにいつも居なくても出来る事。つまり桃ちゃんの相談相手。普通の学校の問題は生徒会役員で決めるし、必要だったらクラス委員も呼んでみんなの意見を聞く。

 まあ、それで良いんだけど。それだけだと桃ちゃんがストレスに耐え切れない。あの子は優しくて行動力もあるけど、ここが強くないのよ」

 そう言って俺の胸を突いて来た。


「だから、桃ちゃんの相談相手になって欲しいの」

「えっ、そんな事俺が出来る訳無いじゃないですか。柏原さんの事何も知らないし」

「そんな事、簡単よ。一条さんと会っている隙間に桃ちゃんとも会って色々話聞いて行けばその内彼女の事分かるようになるわ」


「なんて事言うんですか。俺はそんな事出来ないし、しません」

「この学校の生徒みんなの為だと思って。ねっお願い」


 ソファで俺の前に座っている生徒会長が頭の上で手を合わせて頭を下げて来た。参ったな。


「とにかく急にそんな事言われても無理です」

「だったら、私を桃ちゃんが生徒会長に就任するまでの練習台としてみる。そうだよ。そうしよう」

「…………」

 なんなんだこの人。俺の頭では思考が付いていけない。


「俺が出来るとはとても思えないですけど。とにかく考えさせて下さい」

「いいわ、来月半ば位までに決めてね」

「それとね。君の大学の事なんだけど」


「いい加減にして下さい。生徒会長だからって俺の進学に口出す権利無いでしょう。もう失礼します」

 流石に頭に来て生徒会室を出た。



 明人が出て行った後、生徒会室のもう一つの扉が開いた。

「京子、水森君怒ったわよ。だから言ったでしょ。事を性急にしないって。まだ時間あるじゃない」

「でも……」

「まあ、今回は京子の行動力が前に出過ぎね。もっと自重しないと、みんなパーになるわ。まずは生徒会に彼を引き込む事よ」




 俺は生徒会室からの教室に向かう廊下で、なんで俺なのか考えたが分からなかった。正則達に相談出来る事でもないし。

 紗耶香と相談したら百パーセント反対するだろうし。でも紗耶香と相談するのが当然か。



 教室に戻ると紗耶香が心配そうな顔で俺を見ている。

「大丈夫明人?」

「うん、後で話すよ」

「分かった」




 放課後、いつもの様に図書室で紗耶香と一緒にいる。今日は俺の当番だ。図書室を開けて三十分、いつもの常連さんや本を借りに来た人、返しに来た人、静かに本を読んだり勉強する人で静かだった。

 紗耶香も受付の近くのテーブルで勉強をしている。偶に聞きに来るけど図書作業に差し支えない範囲だ。



 入口から一人の女子生徒が入って来た。顔を見ると生徒会長だ。

「水森君、これ返却」

「分かりました」

 俺は本から図書カードを抜くと返却処理をして俺の座っている椅子の後ろにある返却ラックに本を置いた。


「返却処理終わりましたけど」

「ねえ、水森君。一条さんと少し話したいんだけど良いかな?」

「えっ?!」

 紗耶香の方を向くと彼女も驚いた顔をしている。


「一条さんが良いと言うなら」

「じゃあ、いいわね。一応確認しないとね。か・れ・し・さん」

「…………」

 どういうつもりだ。こんな所で。


「一条さんちょっと良いかな。外で話そう」

 紗耶香は俺の顔を見ると仕方なさそうな顔をして二人で図書室を出て行った。


 何処に行ったんだろう。




「さっ、入って一条さん」

「はい」

「生徒会室は初めて?」

「はい」

「そう、早速本題に入るわね。今日来て貰ったのは水森君の事。彼に生徒会を手伝って貰いたいの。でも彼はあなたと一緒に図書委員をやるから出来ませんって固辞しているのよ。

 でも彼の優しさや、友達思いなところ、頭の良さ、実行力。それに私にはっきりと物を言う精神的な強さをどうしても生徒会としては欲しいのよ。

 彼が生徒会に入ってくれれば、この学校の生徒の為に大きく貢献してくれるわ。あなたも水森君に入るように言って欲しいんだけど」


「…………」

「もちろん、図書委員は二人で続けて良いわよ。して欲しいのは生徒会長の精神的な支援よ。生徒会長は結構ストレスが多くてね」


「でも鏡生徒会長ならその必要無いと思いますが」

「私じゃないわ。もうすぐある次期生徒会長選で私は柏原桃子さんを推す。もちろん根回しは終わっている。

 彼女は副会長とか書記を選出するけど水森君は選ばない。その代わりに柏原さんの精神的支援を行って貰いたいの。

 水森君は律儀な子だから、あなたへの思いがあるから断るだろうけど、あなたが良いと言えばそれで済む。お願い、ねっ。この通り」

 会長が手を頭の上で合せて頭を下げた。


「急に言われても困ります。考えさせて下さい」

「そうね、来月半ば位までに決めてね」



 私は図書室に戻りながらなぜ生徒会長が明人をあそこまで推すのか考えても分からなかった。


 ふふっ、この子はうんと言うわ。もう少しね。


―――――


鏡京子何を考えているのやら。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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