第33話 お誘い


 体育祭も終わり、学期末までは、まだ時間もある。少しの間の平穏な時期だ。今日も図書室を開けて紗耶香と一緒にいる。今日は俺が当番だ。


 綾乃は、中間テストの成績順位表が張り出されたあの日から図書室に来なくなった。俺にとっては精神的にもいい。もう来ないで欲しい。


「水森君、これ借りる」

「はい」


 教科書から頭を上げて本を借りに来た人を見た時、

「えっ!」

「何驚いているの?」

「いえ、直ぐに処理します」


 俺が図書管理システムを操作し始めると

「ねえ水森君、今度ゆっくり話がしたいんだけどいいかな?」


「はい、貸出処理しました。どうぞ」

 言葉を無視して本の後ろに貸出カードを挟んで渡すと


「時間無い?今日でもいいよ」

「済みません。図書室では私語禁止です」

「少し位いいじゃない」

「生徒会長がそういう事言っていいんですか?」

「……わかったわ。また今度ね」


 受付カウンタに置いた本を手に持って図書室を出て行った。紗耶香がこっちを見ている。何か言いたそうだが、場所を考えてか動こうとはしていない。




 予鈴が鳴り室内にいた人がみんな退室すると

「明人、凄く気分悪い。早く帰ろ」

「うん、とにかく締め処理するから。ちょっと待って」


 俺はPCをシャットダウンすると図書室内を一通り見てから鍵を掛けた。



 帰り道


「鏡生徒会長、明人に気があるみたい。嫌だよ私」

「紗耶香、何言っているんだ。俺は生徒会長の事なんて全く気にしてないよ」

「だって、そんな事言ったって。告白されるし、お姫様抱っこするし、今日だって……。私もお姫様抱っこしてよ」

 大分お怒りの様子だ。


「紗耶香、心配しないで。俺は君の事しか見ていないから」

「だったら証明してよ」

「えっ?…ど、どうやって」

「今度の土曜日の午後でも日曜でもいいよ」

「…………」


 紗耶香があういうのにあまり興味持って欲しくない。そりゃ、俺も健全な男子高校生ですよ。思い切り興味あるし。

 でもね、やっぱりあういうのは、そういう時でないと。…俺何思ってんだろ。?


「明人、明人!」

「えっ!」

「何考えているの?急に黙ったりして」

「いや何でもない」

「うそ、エッチな事でも考えてたんでしょ。顔に出ているわよ」


「いや、そんな事ない」

「なに、私の体にもう興味無いの?」

「お、おい。こんな所でそんな事言うもんじゃない」

「だって、周り誰もいないし」

 そう言えば、大分陽が暮れるのが早くなった。全くいない訳ではないが、確かに人通りは少ない。


「明人、来てくれるの?」

「あ、うん」

 全く生徒会長のお陰で、紗耶香が変な方向に思考が行っている。生徒会長には、はっきり言わないと。




 翌日の一限目が終わった時、


「水森明人君いる?」

 いきなり教室の入口で声が掛かった。誰かと思ったら、はぁー。まただ。あっ、こっちに気付いた。歩いてくる。


「水森君、今日の昼休み食事後で良いから生徒会室に来てくれるかな?」

「えっ、俺がですか。何か用事でも?」

「生徒会として用事があるから来てと言っているの」

「は、はい。分かりました」

 それだけ言うと出て行った。


「おい、明人。お前生徒会長と何か有るのか?」

「心当たり無い」

「明人、大丈夫?私も不安だから一緒に行きたい」

「でも生徒会として用事があるみたいだし。一人で行って来るよ」

「…………」



「鏡生徒会長綺麗だな」

「ああ、見惚れちゃったよ」

「いいなあ、水森は。俺も行きてえ」


 おい、変わってやってもいいぞ。



 やがて昼休みになり、紗耶香が体をこちらに回してお弁当を広げてくれた。

「明人、食べようか」

「うん、いつもありがとう」

「ふふっ、どういたしまして」


紗耶香のお弁当は本当に美味しい。今日も大好きな鳥からと卵焼きが入っている。

「心配だなあ。昨日の件もあるし」

「そんなに心配しなくていいよ。だって生徒会の用事だって言うし」

「そうかなあ。それに明人、生徒会に呼ばれる事何もしていないでしょう」

「確かにそうだな。でも気にしすぎだよ。大丈夫だって」


紗耶香が作ってくれたお弁当も食べ終わり、俺は生徒会室に行く事にしたが、

「紗耶香、生徒会室って何処にあるの?」

「さあ、私も縁ないし」



 これはチャンスだ。

「水森君、私知っているよ。連れて行ってあげる」

「あっ、柏原さん。ありがとうございます。じゃあ紗耶香行って来る」

「行ってらっしゃい」

 とても心配そうな紗耶香を置いて柏原さんに案内して貰う事にした。


 生徒会室に向いながら

「水森君、生徒会と何か関係した?」

「いや、記憶にない」

「そうですか。会長なんなんだろう?」

「ところで柏原さん、生徒会となんか関係しているの?」

「えっ、私生徒会書記だけど」

「し、知らなかった」

「まあ、言う必要無いし。目立たないからね」

「そうなんだ」

「ここだよ」

 柏原さんはドアを開けると


「鏡会長、連れて来ましたよ。さっ入って」

 

 えっ、今連れて来ましたよって言ったよね。どういう事?

「桃ちゃんありがとう。そこのソファに座って水森君」


 俺にソファを指指した。



柏原さんが、部屋の奥から冷たい物を持ってくると

「桃ちゃんありがとう。もう良いわ」

「はい、水森君また後で。失礼します」


 鏡会長と二人きりになった。


「あの、これはどういう事でしょうか」

「ふふっ、そんなに固くならないで。せっかく桃、いえ柏原さんが入れてくれた紅茶が暖かくなってしまうわ」

「はい」


 目の前にある紅茶を一口飲むと

「水森君、生徒会入ってくれない?」

「はっ?!突然何を言っているんですか。俺は図書委員ですよ。出来る訳無いじゃないですか」


「図書委員は一条さんに任せればいいわ」

「それは出来ません。俺と一条さんで図書委員します」


「困ったわ。もう生徒会選挙だけど、来年の生徒会長にはさっき一緒に来た柏原桃子さんを押すつもり。副会長以下は生徒会長に指名権限があるのだけど、私の代でそれを決めておきたいのよ」

「何で俺なんですか?」

「水森君は頭がいいし、優しくて友達思いで仲間からも信頼されている。生徒会役員としては申し分ない。出来れば生徒会副会長をして欲しいの。桃ちゃんを支えてやって欲しいのだけど」


「それだったら俺なんかより相応しい人一杯いるじゃないですか」

「誰、水森君が推薦する人って?」

「…………」


「ほら言えないじゃない。ねっ、お願い」

 鏡生徒会長が俺の手を自分の両方の手で握って来た。


「ちょ、ちょっと。離してください。そんな事されては困ります」

「ふふっ、いいじゃない少し位」

 彼女の両方の手で俺の手をぐっと握って来る。


「それとね。もう一つお願いがある。これは個人的な事なんだけど。水森君、私が行く予定の大学に来ない。君の頭ならなんの問題も無く入れるわ」

「えっ、何の話ですか?」


「私と水森君のキャンパスライフの話♡」

「な、何言っているんですか」


 予鈴が鳴った。

「時間足りないわね。また明日話しましょう。生徒会副会長の件は考えておいて」


 俺は生徒会室を出ると頭がちょっと混乱した。いったいなんだ。


―――――


 流石生徒会長。絡め手ですかね。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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