第32話 秋風が吹く
四日間続いた中間テストも終わり、成績が掲示板に張り出された。
一位水森明人
・
三位高橋綾乃
・
十位一条紗耶香
うーん、ケアレスか。後五点で満点だったのに。期末頑張るか。俺が成績順位表を見ていると
「明人、凄いね」
「紗耶香だって頑張ったじゃないか」
「ふふっ、明人のおかげ」
そのまま二人で教室に戻ろうとすると
「明人、私がんばったよ」
っ!忘れる事の無い声。その声の方に絶対振向きたくない。直ぐに声を反対方向に行こうとすると手首を掴まれた。
振り払おうとして体をそちらに向けると悲しそうな顔をした綾乃が立っていた。
「…………高橋さん離してくれ。その言葉を言う相手は俺じゃないだろう」
手を振り払って教室の方へ急ぎ足で戻った。
「明人…」
「ねえ、まだ高橋さん、水森君に彼女面しているよ」
「信じられないね。水森君にあんな酷い事しておいて」
「いやだね。あういう人、水森君が可哀そうだよ」
「行こ行こ」
酷い事を言われている。声の方に顔を向けると汚らわしい物でも見る様な目付きで去って行った。
「高橋さん、ちょっと」
「えっ?」
振向くと武田さんが立っていた。
「今日放課後空いている?」
「はい」
「じゃあ、ちょっと付き合ってよ」
「…分かりました」
放課後、
「高橋さん、行くわよ」
「はい」
「ちょっと、紫苑いいのあんな人話して」
「私はどっちがどうなんて興味ない。ただ彼女と話したいだけよ」
「そう、それなら良いんだけど」
私武田紫苑、同じクラスの高橋綾乃、見た目清楚で静かな子だけど、Aクラスの水森君を裏切り白石に浮気してのめり込んだという事位は知っている。
ただ、学園祭の時、うちのクラスが完売出来たのはあの子の魅力によるところが大きい。それにも関わらず、クラス全員の彼女に対する態度に少し腹が立っていた。
他人の色恋なんて当事者同士の問題。それを関係無い外野が噂だけで彼女を誹謗中傷するが嫌だった。
だけど、彼女高橋綾乃にも問題がある。有り過ぎる。彼女にとっては大きなお世話だろうが、流石に考えさせないと本当にどうしようもならなくなる。だから彼女から取敢えず話を聞こうと思って今日誘った。
私達は駅の側のファミレスに入るとドリンクバーだけ注文した。
「高橋さん、忙しい所誘ってごめんなさいね」
「いいえ、ところで今日はどういう理由で誘ってくれたんですか。私なんかと話をすると武田さんが他の人から誤解を受けると思いますけど」
「ふーん、静かな人だと思ったけど、結構はっきり言うのね。ところであなたは周りからどう見られていると思ってそんな事言うの?」
「何でそんな事聞くんですか?」
「あなたが元カレの事になると抜け過ぎているからよ。だから少しでも修正出来たらと思ったの。
ちなみに私はあなたの事を他の人達の様な目で見てはいない。人の恋事情なんてそれぞれだからね。大きなお世話かも知れないけど」
「…………。そうですか。私は明人と別れたと思っていません。振った覚えも無いし、振られた覚えもない。
確かに明人という人がいながら白石君と…」
「今更言葉繕わなくていいわよ。白石と散々したんでしょ。みんな知っているわ」
「……。はい、白石君と随分遊んでしまいました。それが明人に知られて。でも遊びだったんです。
白石君には彼という感情はありません。ただの遊び友達です。だからそれを止めればまた明人と一緒になれると思っていたんですけど。一条さんという人が明人と仲良くなって……」
はあ、ほんとにこの子抜け過ぎている。勉強は出来るのにアホじゃないかと思う位。
「もう良いわ。高橋さん、あなた思考が欠落している。どうしてかは知らないけど。普通彼氏がいながら他の男に体許したら浮気でしょ。
その時点でもう水森君を裏切ったのよ。そこの所分かっている?」
「でも一回位なら」
「何言っているの、何回白石とやったのよ。水森君の約束反故にしてでも白石選んだんでしょ。
それで白石から飽きられたから水森君と寄り戻そうなんて頭おかしいよ」
「…………」
「とにかく、しばらくの間、水森君に声掛けるの止めなさい。出来れば彼の目に着く事も。時間が経てば色々な事が変わるわ。
その時、もしまだ彼の事が好きなら考えなさいよ。今のまま近づいても余計嫌われるだけよ。まあ一番いいのは、他の人と付き合うのが一番だけど。いればだけどね」
「明人以外の人を好きになる事は有りません。彼は私が中学時代、誰も相手にしてくれなかった私に声を掛けてくれました。
それからずっと明人だけを見て来ました。でも他の人ってどうなんだろうと思って石原さんや笠原さんと知合ううちに白石君を紹介されて。
それで、ちょっと遊びでしてしまったら抜け出せなくなって……。だから白石君と別れたらまた明人と一緒にいれると思って」
私は、高橋さんの話を聞いている内にテーブルを両手で思い切り叩きたくなった。我慢したけど。ふざけるなって感情が思い切り体から湧き出る感じだった。
「その話はさっき聞いた。ほんと重症ね。もう一度言うわね。あなたは水森君を裏切って白石に体を許した。
これはあなたが水森君を捨てて白石に心変わりしたって事。そう考えるのが普通よ。分かった。だから今更水森君とよりを戻そうなんて可笑しな話なの。
彼を諦めるか他に好きな人でも作って心をそっちに持って行くのがまともな話。そうすれば、全く元通りとは言わないけど、少しは周りがあなたを見る目を変えるわ。時間は掛かるだろうけど」
「…………」
私は武田さんと別れた後、電車に乗って家に帰って来た。誰もいない。お父さんは仕事。お母さんも仕事。
自分の部屋でじっと考えた。武田さんが言っている事が本当なのかな。私が世間知らずだったのかな。
明人しか知らない。他の人っていっても彼の友達位。他に友達を作る程度の気持ちだったのに。
明人とは別れたくない。でも今近付いたら余計嫌われると言っていた。……我慢するしかないのかな。
―――――
綾乃ちゃん、とにかく今は我慢です。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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